シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

燃料電池 続き

燃料電池はエネルギー対策の大本命の様に言われることが多いが、昨日紹介した記事はその方向性をハッキリと示した画期的な出来事だった。以下に詳細を説明していこう。


固体酸化物型燃料電池(SOFC)には、現在研究の主流である固体高分子型燃料電池(PEFC)には無い大きな特徴がある。

  • 燃料の選択肢が広い
  • 効率が高い
  • 廃熱を再利用できる


PEFCでは電解質中を伝導するのは水素イオン(プロトン)であるが、SOFCでは酸化物イオンである。このために、PEFCに利用できる燃料が、「水素イオンを生じる」燃料に限られている(純水素、メタノール、DME)のに対し、SOFCでは燃料は「酸素と反応する」ものであれば良い。最近研究も下火だが、溶融塩型燃料電池SOFCと同じ酸化物イオン伝導を利用しており、石炭を利用することも可能である。
SOFCの場合、石炭等はガス状にする必要があるが、それでもPEFCでは触媒を失活させる(被毒という)一酸化炭素を、燃料として利用できるのだ。このことは、燃料電池用燃料を幅広く求める事が可能となることを意味する。
簡単に言うと、バイオマス(廃材、間伐材生ゴミ、etc)を、ほほそのまま利用できるのだ。しかも、バイオマス利用の他のエネルギー源に勝る利点がある。それは効率が高いことである。


もともと燃料電池の中で最も効率に優れるのがアルカリ型燃料電池(AFC)である。AFCは水酸化カリ溶液を電解質に利用し、効率が最高で80%にも達する。だが、一酸化炭素二酸化炭素により性能劣化する事が敬遠され、特殊な用途(潜水艦、宇宙船電源)にしか利用されなかった。本格的な利用は水素を水から取り出す時代が来てからだろう。電気分解で作られた水素には一酸化炭素が含まれないため、AFCの性能が生かされる。リン酸型が利用され、PEFCに研究の中心が移ったのも、これらの方が一酸化炭素に対する耐性が高かったからだ。発電効率としては30〜40%程度である。これに対してSOFC発電効率AFCに迫り、一酸化炭素耐性はPEFCに勝る。高温作動のために金属部の熱耐性やセラミックスの耐久性等が問題になってきたが、それがクリアされれば用途は大きく広がる。
さらに、廃熱の温度が高い。電解質の耐性もあってPEFCでは100℃近辺が限界である。この温度では給湯には利用できても、冷房への利用は不可能である。SOFCでは作動温度が650〜1000℃に達し、給湯、冷暖房はもちろん蒸気タービン等でさらなる発電も可能である。
PEFCが3-4割の発電と大量の100℃以下のお湯、という利用価値の少ない出力なのに対して、SOFCは6割の発電と数百℃の熱が利用できる。同じ熱量の燃料を利用しても、SOFCの方が利用価値が高いのだ。


同熱量の燃料でお湯を沸かす事を考えてみよう。例えばある燃料で風呂のお湯を沸かすとする。これをSOFCエコキュートでおなじみのヒートポンプを組み合わせるとどうなるか。


エコキュート中部電力のサイト)
http://www.chuden.co.jp/electrify/ecocute/index.html


現在のヒートポンプの性能(COPで示す)は高性能なものだと4〜5、つまり投入エネルギーの4〜5倍に相当する熱を生み出すことが出来る(熱力学第二法則に反しているわけではない。)SOFCの実用的な発電効率を50%とすると、沸かせるお湯の量は直接沸かした場合の約2倍になる。もし、廃熱も利用した場合にはさらに向上する。逆に同じ量のお湯を沸かすなら半分以下の燃料でよい。設置用分散電源としては、ほぼ理想的である。


現段階では連続運転時間やセルスタックの寿命、LCA(ライフサイクルアセスメント)等のデータは不明であり、バラ色の未来を保証するものとは云えない。だが、持続可能型社会を造り上げていく中で大事な足掛かりの一つとなるだろう。


PEFCについては、またいずれ書く予定。

追記:写真は蒲原の旧五十嵐邸 中庭を望んで