シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

さようか、リンボウ先生

リンボウとはもちろん林望氏のこと。新聞にあったコラムが気になったので。
(ウェブ上に見あたらなかったので全文引用しますが、クレームが来たら削除します。)

生け垣の道をゆく
イギリスの曲がりくねった田舎道を車で走っていくことは私の楽しみの一つである。細道といっても普通は片道一車線ほどの幅がある。
ところが、南西部のデヴォンあたりへ行くと、まったく一直線しかない細道が続く。せめてまっすぐに見通しよく作っておけばよさそうなものだが、どういうものか、これも不規則に曲がりくねり、道の両側はみっしりとした生け垣に覆われている。先の見通しはまったく利かない。
いや、馬車の時代には、こんな道でもさして危険はなかったのかも知れない。なにせ、馬が引いているから、向こうから来る馬車の気配くらい察して立ち止まったりしたであろうから。ところが現代はこういう道を車が往来する。実に危険である。
では、こんな道を行き来するのは嫌いかと問われたら、私は、いやあ大好きですよ、と答えるであろう。
このシングルトラック・ロードと言われる生け垣道を、スピードなんかちっとも出さず、牛車で行くようにゆっくりゆっくりと、口笛でも吹きながら辿り辿りしていく。
すると、時々生け垣が切れて清々とした田園の景色が一望できたりするのだ。そこに地平が見える!
気が向けば、ちょっと広くなったところに車を止めて少し青草の上を歩いたり、路傍の石に腰掛けて持参のサンドウィッチなぞほお張ったり、イギリスの田園道は、つまり馬車に乗っていくように味わいたい。するとこの国の田園の本当の味がわかるのである。
朝日新聞朝刊 7/27 林望さんのすたいるぶっく


イギリスに行ったことのない自分としては、イギリスの田園風景が如何なるものかは実感できないが、ジェレミー=ブレットの「シャーロックホームズの冒険」を初めとしたイギリス製ドラマの風景を想像するに、のんびりと旅したくなる気持ちはよく判る。
道の傍らで風景を輩に軽食を取るところでは共感した。生け垣に挟まれた道というのは、本当に美しいのだ。自分の住む志太地域でも開発の及ばないあたりには、まだまだ生け垣に挟まれた曲がりくねった道が存在している。そこは自分にとってもお気に入りの場所だ。

しかしですね、林望先生。曲がりくねった先の見通せない道は、実は事故が起きにくいのです。飛ばさないから。飛ばせないから。
「近自然学」ではお馴染みなのだが、道は「細く、薄暗く、曲がりくねらせる」方が、安全で渋滞発生しにくい。自分は、細くくねった道を改修した結果、通行量も事故も増えた道を幾つも知っています。デヴォンの生け垣道は、まさに近自然学的に適した道なのですよ。
付け加えるならば、せっかくのイギリスの田舎道、車で走り抜けてしまうのは如何なものか。自転車で移動するならさらに楽しめること請け合いです。先生ならば、モールトンのようなスタイリッシュな自転車がピッタリに違いありません。次の生け垣道探訪には自転車をご利用される事をオススメします。そしたら、イギリス(ヨーロッパ)が自転車によく配慮されていることに気づくでしょう。
もうひとつ。実は、日本の古き道もゆったりと曲がりくねり、生け垣や松並木、町家の続くところだったのです。今でも若干面影があります。明治以来、こうした美しい道は真っ直ぐに、そして広く、景観を無視して改修されています。
先生。イギリスもよろしいですが、日本の景観にもまだまだ素晴らしいところはあります。
先生の観察眼と筆が日本の失われつつある景色に及びますよう。


追記:写真は相良川河口近くの小さな橋