格差のグローバル化は防げるか (政府の役割について)
前回、
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20061110#1163146603
企業がヨーロッパ並みの法人税率を求めながら、ヨーロッパ並みの雇用者待遇は無視している事を説明した。
だが、政府(自民党)の態度を見る限り、企業のリードする方向へ進めていくようだ。
しかし、こうした方向で企業の「国際競争力」が回復したとする。そして起きるのは、諸外国がそれに倣って雇用者待遇を引き下げ、人件費を浮かして「国際競争力」で日本に追いつくか追い越そうとする事態である。これは既に、アメリカやイギリスにおける低所得者層に影響を与えており、否決されたもののフランスでの雇用条件の緩和へ向かわせている。中国等の国々に対抗しようとすれば、彼らはさらに雇用条件を下げるだけだ。結局のところ、世界的に労働条件が悪化し、格差のグローバル化とでも呼ぶ状況を生むだけになる。
現在騒がれている「格差社会」が日本のみならず世界的に広がるという*1、悪夢のような事態だ。
多国籍企業体は世界中で莫大な利益を上げ、その恩恵に預かる僅かな人を除いて、多くの人々は貧困状態に置かれる事になるだろう。そうならない、とどうして云えよう。
政府が労働条件、雇用条件の引き下げを今後も続けていくなら、この流れは止める事が出来なくなる。大事な事は、政府が最低でも現在の条件を維持するか、より良くは条件を上げる事である。でなければ、政府は企業におもねり、市井の人々を蔑ろにする事になる。
もちろん、企業もこのままでは「国際競争力」の低下に苦しむ事になる。被雇用者のためにも企業の競争力を維持する事に力を貸す必要があるのは認めよう。
ここで、発想を変えてみよう。といっても、かつて日本であった事を思い出してみるだけだ。
日本がかつて、低い通貨(円)価値を背景に各国に輸出を続けていた90年代までに、よく諸外国から突き付けられた要求が日本企業の労働条件の向上だった。
労働時間短縮、休日の増加*2、給与水準や社会保険制度などを整備すれば、それはコスト増となり、輸出価格上昇に繋がり、輸入国の産業が保護される。この対日要求は「外圧」として、日本では評判が悪かったが、今これに倣おうというのが自分の提案である。
日本は中国から大量に輸入を続け、国内産業は人件費の低い中国へ移転を行っている。この人件費を上げる、労働時間を短縮させる、雇用保険や社会保険を義務づける、公害防止や環境保護を義務づける、などの要求を中国政府に交渉すれば、もちろん中国側は不快に感じるだろうが、輸出コストの引き上げとなり、中国へ移転をちらつかせる日本企業にとってもリスクとなる。結果として、中国の「国際競争力」を下げる事が出来る。中国の労働者にとってもかならずしも悪い話では無いはずだ。
こうした役割は政府にしか出来ない。それこそが日本政府の取るべき方策では無いかと思うのだが。どうだろうか。
さらに進めれば、国際的に企業の社会的責任、つまり法人税率、雇用・労働条件、社会保険制度の最低限度を決めていく、事が考えられないだろうか。労働条件に関してはILOが存在するわけだが、現段階では、二国間で要求は出来ても多国籍企業はより条件の緩い国へ移るだけだ。であれば、世界主要国で包括的な政策とする事を決めていく*3。この社会保障条約とでも呼ぶものを批准しない国は貿易を行えない、というペナルティを課せられる。こうして、最低限の効果的な雇用労働条件を共通土台とすれば、その上で各企業が同じ条件で競争することが出来る。
こうした考えを主導するのは、たぶん各国政府では動きが鈍いだろう。NGOなどが各国政府に一斉に働きかけを行う必要があると思う。
追記:写真は冷凍みかんの歌を唱うGTPの三人。大道芸W杯にて。