シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

直流と交流 エジソンとテスラのリターンマッチ

現在、家庭用太陽光発電や大規模風力発電というのは、電力会社の都合によってその伸びが抑制されている。それでも増加しているのだが。電力会社は電力系統のダメージを理由に太陽光発電風力発電の売電枠を押さえている。これはドイツをはじめとする環境先進国の政策とはまったく異なる。電力会社の主張は不安定な電源である太陽光発電風力発電を接続すると、電力供給に支障が生じると主張しているが、飯田哲也氏はその主張を否定している。だが、電力会社の主張の通りだとしても、問題を回避する事は可能だ。それは、送電を直流に換える事である。

もともと、発明王エジソン*1は、送電を直流で行う事を提唱していた。交流利用を訴えたテスラをクビにしたり、交流を危険なものとアピールするために電気椅子処刑を提唱したりしたエピソードは有名だ。エジソンに追放されたテスラも、ずいぶんアレな研究者なのだが、この死刑手段まで巻き込んだ抗争は、交流陣営の勝利で終わる。交流の方がテスラが主張したとおり、変圧が簡単で長距離送電に向いていたからである。


このへんの理屈がわからない、という話を聞くが、簡単に説明するとこういうことである。
長距離送電すると、送電線の抵抗が問題となってくる。長いストローでジュースを飲むと大変。それと同じである。送電線で消費されてしまう電力は、電力の定義からW=I×E(Wは電力、Iは電流、Eは電圧)である。オームの法則 I=E/R(Rは抵抗)で考えると、W=I×I×R、またはW=E×E÷Rとなる。電流も電圧も大きくなると消費電力は大きくなるのだが、抵抗との関係で考えると、抵抗が大きくても電圧を大きくすれば消費電力が小さくて済む。従って、長距離の、遠隔地の発電所から大消費地までの送電電圧は200万ボルトを超える。しかし、これにも問題がある。交流電流は流れる時に「誘電損失」というロスが生じる。しかも、送電電圧が大きいほど誘電損失も大きくなる。この誘電損失がどれくらい大きいものなのか実感できる実験がある。夜、高圧送電線の下に蛍光灯を持って立つと良い。その時蛍光灯は水平にせずに垂直に立てること。うっすらと光るのがわかるはずである*2。誘電損失とは、平たく云うと「電気の漏れ」である。現在では交流による送電ロスは原発数基分におよぶという。
これに対して直流送電は誘電損失は発生しない。エジソンが送電に直流を利用しようとしたのもそれが理由だったが、当時の整流(交流を直流に換える事)手段は性能と効率が悪く、到底利用できるものではなかったのだ。交流にまつわる話は日本では東日本と西日本の周波数の違いが有名だ。東日本は50Hz、西日本は60Hz、ちょうど静岡県富士川を境に変わっている。設備面の問題が多くて周波数の統一は不可能だという。


しかし、昔は引っ越しの際などに問題となった周波数の違いは、現在ではほとんど問題にならない。なぜかと云えば、現在の電化製品は周波数の影響を受けない構造になっているためだ。
映像、情報機器(TV、PC、ゲーム、オーディオ類)はもともと交流を利用しない。そのためACアダプターで直流に整流している。よく利用されるのがDC12Vへの整流で、直流の12Vが入力されればこれらの機器は動かすことが出来る。
白物家電と呼ばれる動力家電はどうか。実はこれらも交流入力を必要としない。現代の動力家電には大概インバーター(周波変換器)が搭載されている。モーターの回転速度やトルクを制御するためだが、入力周波数が幾らであろうとインバータの方で制御するのだ。直流というのは周波数0であるから、インバーター付きの家電では直流を利用することも可能である。富士川を境の電源周波数の違いが問題にならないのも、これらのためである。
そうして考えると、家庭用太陽光発電システムなどは随分無駄な事を行っている事になる。
太陽光発電は直流で出力される。家電で利用するには一旦インバーターを通して100V、50または60Hzの交流に変換する。家電では、ACアダプターによって整流するか、インバータによって別周波数に変換する。流れを追うと、DC(0Hz)→AC(50〜60Hz)→DC or AC(0Hz〜)ということになる。変換の度にロスが出て、しかも不要な設備が必要になってしまう。
しかも、今後家庭や小規模設備への利用が予想される燃料電池もその出力は直流である。
分散電源において周波変換は大きな問題となってくるだろう。直流送電はそれらを解決する可能性を持っている。現在では半導体技術、とりわけ大電力用半導体バイスの進歩に伴って大電力の交流-直流変換を高効率で行う事が出来る。一挙に直流送電に換えてしまわないまでも、変更は可能なところまで来ている。この場合、家庭用太陽光発電風力発電燃料電池が送電設備に問題を起こす、という事は無くなる。誘電損失や力率変化も問題にならなくなる。
もちろん、ほとんど独占形態の電力会社にはメリットが薄い話だ。つまり、直流送電は多様な電源、そして分散型電源、消費地近郊電源にメリットが大きい。逆に、交流送電は大規模で集中的電源、遠隔地電源にメリットがあるのだ。だから、電力会社の自発的直流送電変換は考えにくい。取り組むのであれば、消費者、家電メーカー、そして公権力のコミットが欠かせない。ここは一つ、真剣に直流送電を考えてみるべきでは無いだろうか。
せめて、家電メーカーには太陽光発電設備対応の家電、つまり直流入力の家電を販売してみてはどうだろうか。結構、引き合いがありそうだが。


追記:写真は石材屋の見本。いらっしゃいませ!

*1:エジソンは日本でこそ有名だが、アメリカでは覚えているものもほとんどいないそうだ

*2:送電電圧にもよる