シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

ブラックブック(若干ネタばれあり)

奇才ポール・ヴァーホーヴェン第二次世界大戦におけるオランダを舞台に撮った作品。オランダ出身のヴァーホーベンが、自らの生き方を決めてしまったという戦争を撮るため、故国へ戻って製作した。

二次大戦末期、ユダヤ人女性ラヘルは隠れ家を追われ、家族と共にレジスタンスの手引きで連合国軍側地域へ脱出しようとしていた。しかし、脱出行の途中ドイツ軍に遭遇、家族を失う。生き延びた彼女は、レジスタンスに身を投じ、ドイツ軍の諜報部トップのムンツェに接近する。彼女はその中で自分たち家族がレジスタンスの内通者によって「売られた」事を知る。果たして誰が裏切り者なのか?ブラックブックとは何なのか。このブラックブックは実在し、レジスタンスとドイツ軍の裏取引の詳細が記されているという。


ヴァーホーベンは、インタビューで戦争体験が自らの感受性に影響を与えた事を告白している。そのセンスは初期の作品の中でグロテスクさとエロティックさが混在する事で示されているが、後期の作品では若干鳴りを潜めている。だが、ところどころに盛り込まれた要素は鮮烈だ。
自分の中では「スターシップ・トルーパーズ」がとりわけ傑作だと思っているのだが、ここでもグロテスクさと無形の悪意の存在がバッチリと示されている。
ブラックブックでは、故国で撮った事もあってか、あまり盛り込めなかったと見えて、あまり変態さと無縁だ。だが、ガマンできなくなったと見えて、ブラックブックの持ち主が射殺された時の割れた頭のアップや血の吹き出るシーン、ラヘルが半裸で汚物を頭から被せられるところなどは、インパクト充分。
誰もが信用できない裏切りの連続の中で、作品のモチーフとなっているのが「逆転」だろう。
レジスタンスは私腹を肥やすために裏切りを図り、ドイツ軍将校は実は善人。峻厳に見えた将軍は保身を図る卑劣漢で、ドイツ兵の情婦はひそかに囚人の脱走を手伝う。戦争終結による価値観の逆転がしっかりと捉えられている。
最後は印象的だ。戦争後イスラエルに渡ったラヘルは家族を持ち、キブツへ移り住む。しかし、その外側ではイスラエルとアラブの紛争が起きている。平和に過ごすためのはずが、新たな争いを生む現実。ヴァーホーベンの哄笑が聞こえるようである。