シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

道路を広げてはいけない 自滅する地方都市

このエントリーは


自滅する地方都市4 街づくり像
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20070403/1175588517


自滅する地方都市3 トゥモロー・ワールド
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20070330/1175232370


自滅する地方都市2 理想の街とは?
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20070329/1175137504


自滅する地方都市
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20070328/1175070164


の続きです。

cant do it 『シートンさま
丁寧なお返事をありがとうございました。
郊外化は政策によって進められたと見ておられる
のですね。そうかもしれません。詳しくないので。

一方で、中心市街地の居住人口や来街者数の増加
もまた「政策的に」進めようと長年やって、でも
成果が出ていないように見えます。「どこに住むか」ってホントに政策で左右できるのでしょうか。
できるといいなあ、と思いますが、できるのなら
とっくに結果が出ていてもいい頃ではないかと。

都市計画が本業では無いので、直感に過ぎませんが。

ご意見ありがとうございます。返事が遅れて申し訳ありません。


さて、中心市街地の居住人口や来街者数の増加も政策的に進めようと(中心市街地活性策と略す)長年やって成果が出ていないのはなぜか。
それには二つの理由があると考えます。


一つは、中心市街地活性策と並行して、郊外化策を進めている事。


本文で述べましたが、地方は長年にわたり郊外化政策を進めてきました。
例として地元志太地域で最も郊外化を進めている焼津市の政策を挙げましょう。
焼津市は現在も大規模な区画整理事業を各地区で進めています。
東益津、八楠、大覚寺、大村、小土、柳新屋、大住、黒石、小川、祢宜島、簡単に云えば、中心市街地以外の地域全てで用地転換と区画整理事業を進めている*1のです。


田畑は埋め立てられて宅地へと姿を変えます。こうして出来た新興住宅地には住宅販売や土地販売が進められ、あらたな街が姿を現します。
現在では人口増加状態にあるわけではありませんから、この住宅地に住む人たちはどこからか移ってくるわけで、中心市域の人口密度が下がるだけなのです。
こうした郊外住宅地では公的交通手段が確保されていませんから人々は自家用車に頼ります。その要求に応えるように、市当局も道路新設や拡幅はバンバン行いますから、自家用車の利用も進みます。
その需要に応え、大規模小売り店舗、つまりショッピングモールも進出します。志太地域では大規模な駐車場を備えたショッピングモールが既に飽和状態にあるほどです。


郊外地住民が買い物をするにあたって、駐車場の少なく道も狭く込み入った町中を選択する事はありません。同じく郊外地にある、駐車場がたっぷり確保され大量のまとめ買いの可能なショッピングモールを選択するのです。
おかげで片側二車線道路が休日には買い物客の車列で渋滞を起こします。


もう一つの理由が、適切な中心市街活性策をとらないこと。


上で述べたように、地方は郊外化策を「積極的」に進めてきています。その結果として、大規模店舗の隆盛があり、中心市街地の衰退へ繋がっているわけですが、その対応がおかしな施策なのです。
以前、取り上げたジェーン・ジェイコブスの都市理論によれば、


1.都市の各地区は二つ以上の機能を持たせる。
2.長く広い道路は人の往来を分断するので、小さな街路が何本も交差し街角を曲げる構造とする。
3.なるべく古い建物を残し、活用するべき。
4.各地区の人口密度は充分に高くする。


これらの原則を取り込む事が都市施策には必須になります。ジェイコブスの理論は、70年代には諸外国に取り込まれた施策であり、それ以前の都市理論にとって代わっています。なぜか、日本では古い都市施策がとられたままなのです。


これも、また焼津市を例にとってみましょう。
焼津市の旧中心地は、旧焼津港から、市役所、そしてJR焼津駅へと至る地域を中心とした範囲にあります。焼津が漁港を中心として出来上がった街だからですが、したがって駅から港へ至る幾筋かの商店街と、海岸に沿った商店街を含む地域が、焼津の中心で、かつ人口密度が高い地域でした。


ところが、前述したとおり焼津市は郊外化施策を積極的に推し進め、中心市街地の衰退が激しくなります。ここで焼津市がとった施策というのが、おなじみの


・駅前再開発(バスターミナル、ロータリー、一時停車場、駅舎改築)
区画整理事業(ゾーニングによる区割り)
・道路新設(旧港の堤防を壊し、海岸を埋め立てて新港を建設、その堤防跡に片側二車線道路を造った。)
・商店街路拡幅(店舗を後退させるため建て替え、アーケードを撤去した)
・多目的商業施設、駐車場付き


でした。これらの施策は地方にいる方ならご存じでしょう。多額の予算と補助金が注ぎ込まれ、10年以上(現在も続いているが)行われた結果、どうなったか。


焼津の商店街は息の根を止められたのです。


映画「ウォーターボーイズ」をご存じでしょうか。あの映画の撮影では静岡が多くロケ地となりました。高校のプールや、茶畑、海岸や堤防、自分たちには見掛けたことのある風景です。
そして、主人公たちがたむろしたりするアーケードのある商店街、あれは焼津の昭和通り商店街でした。アーケードがあって薄暗く、人通りも寂しくはなっていましたが、車の通行が原則的に不可だったために、地元のお年寄りや小中学生(映画と違って高校生はあまり近寄らなかった)が行き来する商店街だったのです。


焼津市、に限りませんが、は商店街に来訪する人を増やすため、つまり車で来やすくする、としてアーケードの撤去、そして車の通行を可能としました。そして、歩行者の安全のため、歩道を確保、そのために道路を拡幅、結果として商店は建て替えを迫られました。
建て替えて営業再開出来た店ばかりはありません。補助が出るとは云え、建て替え費用はバカになりません。ただでさえ売り上げが厳しいのに、建て替え費用が捻出できる店ばかりではないのです。
多くの店が商売を止めました。他の地域へ移った人も多くいます。


昔ながらの店は、江戸時代の「間口税」もあって、細長い町屋造りになっています。京都の町屋は有名ですが、どの地域でも商店街の商家は細長い構造なのです。ですから、現在の建築基準法に照らすと新築できないケースも多くあります。跡地は駐車場などになり、櫛の歯が抜けるように、商店街は商店街でなくなっていきました。


店を続ける事が出来たところも楽ではありません。建て替えの費用は重くのし掛かります。
以前、「週刊オリラジ経済白書」で面白い取材をやっていました。
一見、何で利益を得ているのかわからない店、町の自転車屋やハンコ屋などがどうやって生計を立てているのか、を取り上げていたのです。
いろいろな収入のすべは興味深くもありましたが、生計が立つ最大の要因が、「自分の地所である」ことでした。支出が少ないから、収入が少なくてもなんとか生計が立つのです。裏返せば、借金を抱えてしまえば、まったく立ち行きません。かくて、乾坤一擲の勝負へ出て、建て替えした商店は商売が立ち行かなくなります。そして大概は貸店舗になりますが同じ事です。そのうちに駐車場になってしまいます。


悪循環は続きます。商店街の他の店が止めてしまえば町としての集客能力は落ちます。さらに、道を広げてしまえば車が道の両側の店を分断してしまうのです。
道というのは、単純な通路などではありません。とりわけ自動車を閉め出した道は、道の両側を繋ぐ“場”、つまり触媒の役割を果たします。そこが商店街であれば、人は道の両側を自由に行き来することで、商店街の魅力を感じる事が出来ます。商店と“道”はきっちりと区分された存在ではなくなり、道と商店の間にマージナル、境界的部分が生じます。
ワゴンセールとか、オープンカフェなどはその一つの例です。
昔の商店街では店と道は不可分な存在だったのです。


その関係は自動車の通行と共に断ち切られます。
古い商店街の店。なにか入りがたい雰囲気を感じませんか?薄暗く、何があるかわかりにくく、外側と遮断された感じ。それは、かつて道と不可分だった領域を強引に切り離してしまった結果なのです。


ハッキリといいましょう。焼津市に限った話ではありません。
自分は県内、伊豆や山間地を除く、ほとんどの地域を自転車で走ってきました。そして、商店街や中心市街地の様子や変遷も見てきました。だから言い切ってしまうのですが、


「道路拡幅をして、再生した商店街・中心市街は一つもない」


これが結論です。


長く説明してきましたが、結局のところ、郊外化を進めてきた行政当局が、その発想の延長で中心市街地活性化、を行っても、それは「中心市街地の郊外化」しか生まないのです。
中心市街地は郊外を目指すには、狭く、高く、制約が多すぎるのです。
かくて、中心市街地活性化策はムダな投資となります。逆に郊外化を促進させる働きしかしません。


必要なのは、


・郊外化を「積極的に」進める施策はとらないこと
・「効果のある」中心市街地活性化策をとること


です。
もし万が一、このブログを読んでくれている行政担当者の方がいらっしゃったら、お願いいたします。


さて、郊外化と切って離せない関係なのが「自動車」の問題です。
「郊外化」「財政破綻」「自動車」は三題噺のように密接に関係しています。そのへんをふまえた処方箋について、次は述べることにします。

*1:中心市街地では活性化事業