シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

ネットカフェ難民

ちょっと前の話だが、見返してみたらあんまりな内容だったので、ちょっと載せることにする。

ネットカフェ難民 ドキュメント「最底辺生活」 川崎昌平


ネットカフェ難民には月最低9万円が必要で、そのうち6万が宿泊代と知って、思わず首を傾げた。わずか1畳の空間に1泊2千円かける彼らってなに?
お風呂なしで月3万とか4万で6畳の部屋もあるよー、と言いたくなる。
携帯電話を使っての日雇いバイトも実に効率が悪い。あえて継続する仕事に背を向け、真っ当な生活を拒むかのごとき選択だ。
本書は25歳の無気力な若者が、親元を出てネットカフェ難民になった体験記だが、その具体的な日々を知るにつれ、彼らの生活を若年層の「経済格差」の実態と見るだけでは捉えきれないものを感じる。
ほら、いたでしょう?
ヒッピーとか、フーテンとか、いつの時代にも、家を捨て、街を浮遊して生きる若者たちが。
ネットカフェ難民の少なからずは、その系譜に属する若者なのかも知れない。
しかも、豊かさの中で育った彼らは、社会の最底辺に身を置くことでしか、リアルな現実を体験するすべがない。無意識のうちに生きる技術を欲し、自立の修行をしているように見える。本書からは、ネットカフェ難民とは?というもうひとつの視点が得られるだろう。
久田恵(ノンフィクション作家)(朝日新聞 2007.12.7 2 朝刊 書評面より)


ひどい話である。どうやら久田氏には、「ネットカフェ難民」に対する拭いがたい偏見があるようだ。
で、この「ネットカフェ難民 ドキュメント『最底辺生活』」について書評を載せることで、かえって誤解を増幅させている。
amazonの同書のレビューには、川崎氏が“実際には帰るところがあるにもかかわらず”、ネットカフェ難民の“内実”を描いたことに苦言の申し立てが溢れている。確かに、その面は感じられなくもない。
だが、貧困や労働について描いたルポの多くが、同様の手段で描かれていることを考えれば、むしろ著者の立場よりも、読者(=受け手)の想像力こそが問われていることは、すぐに認識できる。
自動車絶望工場」の鎌田慧、「ニッケル・アンド・ダイムド」「捨てられるホワイトカラー」のエーレンライク。「ハードワーク」のトインビー。いずれも、帰ろうとすれば帰る事の可能な立場から描かれたものだ。逆に、実際にその生活を余儀なくされる人々は生活に追われ、異議申し立ての言葉さえも無いのであって、その言葉を拾い上げるからこそルポとなりうる。久田氏には、その視点がない。だから、トンチンカンな事を書いてしまう。

1畳の空間に1泊2千円かける彼らってなに?
お風呂なしで月3万とか4万で6畳の部屋もあるよー、と言いたくなる。

そりゃ、あるだろう。月1万円だって知っているし、それがどうだというのか。最大の問題は、ネットカフェ難民(の大多数)には、その安い部屋を借りる事さえ厳しい、ということだ。
大概のアパートは、入る時に保証人が必要であり、“身元怪しき”人物には部屋を貸してくれない。運良く貸してくれるとしても、審査の緩いところほど、前金(敷金、礼金)はたんまりとはずむ必要がある。しかも、その立地と職域が密接になっていなければ、通勤もままならない。彼らには交通費さえ自前、という現実も珍しくない。
問題は、相対的に高値であるネットカフェ泊まりを“せざるを得ない”事にあるのであって、好きこのんでやってるんだから、で片づけてしまう久田氏は部屋を借りるのに苦労したことは無かったのだろうか。

携帯電話を使っての日雇いバイトも実に効率が悪い。あえて継続する仕事に背を向け、真っ当な生活を拒むかのごとき選択だ。

好きこのんで携帯での日雇いバイトに甘んじる若者がどの程度いるというのだろう。大概は、雇い手が「すぐに集められて、すぐにクビに出来る」事からの要求であって、被雇用者が望んだ仕事だと何故考えられるのか。

ヒッピーとか、フーテンとか、いつの時代にも、家を捨て、街を浮遊して生きる若者たちが。
ネットカフェ難民の少なからずは、その系譜に属する若者なのかも知れない。

ヒッピーとフーテンを一緒に扱ってみたり、とどういうつもりなのだろう。行間から滲み出る“ヒッピー”“フーテン”に対する嫌悪感が、よけいに腹立つ。
もともと自分は、若者が彷徨い流離う事を蔑むつもりなど無い。が、自分の意志で選択した人々と、それを余儀なくされた人々をごっちゃにして、「自分の選んだ結果なんだから勝手にすれば?」と言わんばかりの言葉は頂けない。

しかも、豊かさの中で育った彼らは、社会の最底辺に身を置くことでしか、リアルな現実を体験するすべがない。無意識のうちに生きる技術を欲し、自立の修行をしているように見える。本書からは、ネットカフェ難民とは?というもうひとつの視点が得られるだろう。

著者についてはそう言えるのかも知れない。もっとも、院卒であろうと追いつめられた状況に容易く陥ることは、自分だって体験済みだ。それ以上に、「自立の修行」などというヌルい状況などでは断じて無い。
不思議だ、「ニッポン貧困最前線」を書いた人なのに。

追記:書評掲載日時が間違っていました。
誤:12/7
正:12/2 修正済み

ネットカフェ難民―ドキュメント「最底辺生活」 (幻冬舎新書)

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自動車絶望工場 (講談社文庫)

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ニッケル・アンド・ダイムド -アメリカ下流社会の現実

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ハードワーク~低賃金で働くということ

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ニッポン貧困最前線―ケースワーカーと呼ばれる人々 (文春文庫)

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