シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

ノーカーズ・ランド

深町先生とクマー!さんに取り上げて貰った自転車通勤。二人のエントリーを読んでちょっと暗い気分になった。


深町秋生の新人日記 - 車。自由の翼か奴隷の足枷か
http://d.hatena.ne.jp/FUKAMACHI/20080703


・エコして損しました、本当にありがとうございます!
http://ameblo.jp/kuma-er/entry-10112620228.html


二人の話はもちろんだが、自分自身も似たような状況にあるからだ。というか、件のエントリーは、正直な所、自分を焚き付ける意味もあった。
自転車通勤は結構「走る」行為以上に、些末なところが障害になる。例えば、通勤時の事故はどう扱われるのか、とか。一般企業なら、通勤時の事故は労災扱いだから、通勤手段を自転車として申告していなければ問題になる。同様に駐輪場所や、着替えなども問題だろう。
ハッキリ言って、「走って気分がいい」以外にメリットは薄い、のである。この国は自転車を交通手段として考えていないからだ。
駅などの駐輪スペースは小さく、利用しにくい。ちょっとした場所は「駐輪禁止」で、一時駐輪も「違法」と見なされ、「放置自転車」として扱われる。わざわざ人まで雇って、「駐輪スペースへご案内」。自転車のメリットであるドア・トゥ・ドアなど考慮だにしない。一方で、自動車の一時駐車スペース=路上パーキングは積極的に整備し、道まで広げてくれる。


静岡市は駅前地下駐車場整備に100億以上注ぎ込み、道路整備に年間500億以上掛けるくせに、駅の駐輪スペースは改善せず、自転車が走れるような道は拡幅されて車が駆け抜けるようになる。そのくせ、「自転車を利用しましょう」というのだから、単に自転車に乗ったこともないのに、「自転車は環境に優しい」なんて言葉に食いついただけなんだろ。バカめ。県内の他市町村も同じようなものだ。というか、日本中どこへ行っても自転車に配慮した街などありはしない。都市計画に関する本を読んでも、街の交通は自動車が基本なのだ。


自分の通勤路も現在、道を第二東名建設現場に向かうダンプやトラックが駆け抜けていく。歩道はおろか、路側帯すらろくになく、ゴトゴト音をたてる側溝の蓋の上を自転車で走る。道はすでにダンプの重量でガタガタ。路面状況も悪化している。ノルマでもあるのか、ダンプは車線さえ無い田舎道を爆走していく。御丁寧に、道の脇には「とびだしちゅうい」と、歩行者=子供たちの側に注意を促す。トラックもダンプももちろん道の脇など気にも留めない。
高校生達は表情もなく道の脇を手入れの悪い自転車で走っていく。たぶん、自転車など乗りたくも無いんだろう。気持ちはよく判る。このへんじゃ、高校卒業前から免許を取って、親に車を買って貰うのだ。かといって、自動車に乗りたいわけでもないのだ。ただ、自転車よりはマシな状況だから、足として使うのである。
自転車を正当な交通手段として扱わない事の連鎖が進んでいるわけだが、しかし、その第二東名とやらが完成する頃、自動車に乗る奴はどの程度いるのだろう。
もう、自動車を維持するのは限界、という声は結構聞く。高齢化も進んでいる中、自動車が好き放題に乗れる時代は終わりを告げているのではないか、そんな予感がしている。自動車を主要交通手段と見なせば見なすほど、自動車には乗れなくなっていく。自動車走り放題の国土が完成する頃、自動車は姿を消すかもしれない。存分に走りを楽しめるのは、経済的余裕のある一握りの階層だけだろう。現在の異様な道路整備事業はそのためかもしれないが。


以前に「ファストフードが世界を食い尽くす」に、アメリカの郊外都市で働くメキシコ系の女子高生のエピソードが載っていた。彼女の家は貧しいため、ファストフード店でパートタイムで働かなくては生活できない。店までは交通機関がないから、行きは母親の出勤に同乗し、帰りは歩いて帰る。車がバンバン通り抜ける道を。深夜に。彼女が得たお金で欲しいのは車。それは、単に生活に必要だから。本当は大学進学にお金を貯めたいのだが、それだけの余裕はない。


シュローサーが活写したのは、アメリカの10年以上前の話。しかし、日本でもそれは現実化している。
アメリカの車に頼らざるを得ない人々は、この原油高でどうしているだろうか。

「ガソリン代のために楽しみを我慢」、自動車通勤者の47%

また、現在のガソリン価格を前提とした場合、会社が自宅から20マイル(約32キロ)離れていたら車で通勤すると答えた回答者は60%に上った。10マイルでは29%、5マイルでは10%だった。

 CareerBuilder.comは、会社から通勤手当が出るか確認すること、相乗り通勤、公共交通機関の利用、在宅勤務、徒歩や自転車などの節約策を提案している。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0807/11/news025.html


5マイルは8km。それでも、90%の人が車以外の通勤にしようと考えているのだ。
自転車を正当な交通手段とみなし、そのスケールに適した街=コンパクトシティに再編する事は必然ではないだろうか。
脇を駆け抜けるダンプの埃にまみれながら、夢想するのだった。