シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

furukatsuさんにお返事

表現の自由文民統制問題
http://d.hatena.ne.jp/furukatsu/20081215/1229347126


まずは業務連絡。 HALTANさん、HALTANさん。スターリニスト、と声高に使われている方がいらっしゃいます。至急おいでの上、速やかにdisって頂けるようお願い申し上げます。
繰り返します…。


冗談はおいといて、少しfurukatsuさんにお答えします。まず、

それが悪意をもって意図的に流された偽情報だとしても、具体的に他者の権利を侵害しないかぎり認められるべきです。

ですが、それは違いますね。例えば、ルワンダ大虐殺を生んだ一つの要因にラジオ放送があるわけですが、そこでは「悪意を持って意図的に偽情報が」流されました。“ツチ族が(フツ族大統領を)暗殺した”“ツチ族はゴキブリだ”のようなレイシズムだだ漏れの代物です。ここには「具体的」な他者というのは存在しません。思いっきり扇動してますが、誰かを名指ししているわけでは無いのです。
ヒトラーのデマも同じですよね。“ドイツをユダヤ人どもが蝕んでいる。”“ユダヤ人は世界に蔓延る害悪だ”のような言葉が出てきますが、そこには「ワイズマンは過去ドイツ女性を孕ませて捨てた極悪非道のヤリチンユダヤ人である」というような“具体的”な他者、などは存在していないのです。であれば、認められるべきか?
もちろん、答えは否、です。むしろ扇動に利用されるのは抽象化された誰か、なのです。その方が悪意を煽りやすいですからね。従って、このようなレイシズム満載のデマは見逃されるべきではない。その責を取っていただくことは「言論の自由」に反したりはしないのです。


で、何を勘違いされたかは知りませんが、私は話しをする前に(公開する前に)封じろ、などとは主張しておりません。というかそんな事無理だろ。
furukatsuさんは

ですから、彼らの差別的な発言を私は全力で批判しますが、彼らの発言する権利そのものは表現の自由のために守り抜かねばならないと確信するものです。

と仰ってますけど、私は既に次のようなコメントを書いてますよね?

言論の自由」は大事ですし、批判的言説を封じる気もないんです。

http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20081203/1228313553#c1228396419


実際、私はあちこちで今まで差別的、歴史修正主義的な言葉を吐く輩を指摘・批判してきましたが、彼らに「発言するな」とは述べてはいないわけです。
ただ、彼ら、それこそ瀬戸弘幸氏にせよ伊勢平次郎氏にせよ、田母神氏にせよ、何かを主張するなら、その発言する自由に見合う責を果たして貰わなくてはならない。つまり、
・その発言内容が事実である論拠を示す事
・それが出来なければ嘘(またはフィクション)であると認める事
・でなければ撤回し謝罪する事
・それも出来なければ、見合うペナルティを受けて貰う事
云いっぱなしではなく、発言に伴う責任を果たして貰う。これで何が問題なのかさっぱり判りません。田母神氏は自らの論の論拠を示す事が出来なかった。それがデタラメだと認める事も出来なかった。それを撤回、謝罪もしなかった。であれば、それ相応の処分を受けた。それだけの事です。
大概の人はこの中にキチンと収まる形で議論が可能でしょう?意図的に嘘を広めようとしない限り。


で、furukatsuさんは先にも指摘したような言葉を持ち出すわけです。

というか、そもそも何がデマなのか、いかなる規準で誰がどのような権限で判断するか完璧に決定することが出来ない以上、自分が気に入らなければなんでもデマと強弁できますし、なんでもデマでないと強弁できます。

たとえばあなたの勝手な恣意(南京だろうが二次大戦だろうが誰も現場を見ていませんし、嘘であることの証明はできません)で言論を制限されるのであるならば、為政者も同様なことが可能でしょう。

何事にも絶対的真実は無いから、事実であるか“嘘”であるか“恣意的に”判定されてしまう。そうしたら“事実”を述べたつもりなのに(少なくともそう信じていたのに)、“虚偽”とされ、発言を封じられてしまう。
そう懸念しているわけですね。その点が東浩紀を巡る一連の論議、ポモ系リベラル、をなぞっているように見えたんで、言及したわけです。ただ、furukatsuさんがポモ系かどうかは知りませんし、そもそも“ポモ”はポストモダニズムとは違います。当たり前ですよね。私はポストモダニズムはおろか哲学にはまったく知識も興味もありません。ですが、ポストモダニズム東浩紀のような言説を正当化するような言葉など一句たりとも無い、と確信します。常野さんのようにポイントを賭けたりしませんけど。ポモはポストモダニズムなどではなく、歴史修正主義の一種にすぎません。また、偽科学の一種でもありますね。こちらなら、専門では無いにせよ、私の見知っている分野です。そして、私は歴史修正主義や偽科学における、「論議が尽くされていない」「反対論にも配慮せよ」「どっちもどっち」のような言葉を何度と無く見聞してきたわけです。
「絶対的真実はない、知り得ない」、これはその通りでしょう。であれば、前述のような言葉を聞き入れる余地はあるだろうか?そんな事はありません。絶対的真実は知り得ないにせよ、それに迫る試みは可能です。さまざまな証拠を集め、論証し、限りなく真実に近づける事は出来る。そして、その積み上げてきたものによって、“いずれかがより真実に近いか”を、言い換えれば真実までの距離を、“確からしさ”を知る事が出来る。それが人が営々と積み上げてきた“知の技術”というものです。東浩紀のポモはそうした努力をチャラにしてしまう。それが非難されているところなんですね。で、furukatsuさんに話を戻せば、従って事実であるか事実でないか、を判断するすべはあるのです。むしろ、事実を、論証する事の大事さを、相対化して無価値化する方が、恣意的な“権力”の介入を生むように思いますね。なぜなら、手続きを大事にすれば、再度異議申し立てが可能なのですから。我々は従軍慰安婦問題で政府の対応を変えた吉見教授の例を目撃しているはずです。ネトウヨが何を叫ぼうと、彼は証拠を掘り起こし、論拠を示す事で(形ばかりとはいえ)政府の謝罪を引き出す事に成功したわけです。


さて、

私がこのような「絶対的真実はない」とか「全ては主観に依存する」というような輩に対して取る行動は簡単で、「オレは今からオマエ達を殴る!(山下真司風に)」です。

の部分ですが、これは“暴力を以って言論を弾圧する”意図で書いたものではありません。これは、「南京事件」を模式化したものです。殴った者(加害者)がいて、殴られた者(被害者)がいて、目撃者(第三者)がいる。「事件」は明々白々です。ですが、外部からヒョロッと現れた“ポモ”が「(実感)が無いから、(胡蝶の夢のように)あったかないか判らない」などと云い垂れたら殴られた者はどう感じる?と云う事なのですよ。真実に迫る証拠の積み上げ、その営みを無視して(実感)で判断してしまう事のいやらしさ、を示すためのものだったのです。ですから、furukatsuさんの議論は的外れです。


で、文民統制ですが、

そして、文民統制の問題についてですが、文民統制というのはそもそも正しいことをするためのシステムではありません。市民が政府に信託している暴力、つまり権力であり主権の担保そのものであり、国家にとって金の裏打ちであるそれ、それを政府や軍人の恣意に置かないためのものです。

これはもちろん当然の事です。では、“正しい事”は期待しなくて良いか?

ですから、イラク戦争で民主的に選ばれた政府が判断を間違え、それに軍人が従ったことそのものは当然であり、間違った結果、莫大な戦費が意味不明なことに費やされた責任は最終的にアメリカ市民が負わなければならないのです。

冗談じゃありません。このような話が成り立つのは、情報をキチンと“正確”に市民が把握している場合です。判断を下すに足る情報を示し、その上に選んだ責任者が判断を下す、でなければ責任を負う、負わす、なんて話は出来ないのですよ。
いいですか。
最初にナチスを例に取り上げたのは偶然ではありません。ナチスは「民主的に」選ばれた政権だったのです。「民主的」に選ばれ、そして戦争に、虐殺に、邁進していった。政権奪取前、ナチスは民衆扇動に努めました。政権奪取後は情報操作と統制を強めました。結果、内外に多くの戦死者、犠牲者を生んだのです。では、ドイツ市民がその責任を負います、それだけで済むと思いますか?ナチスが民主政治を悪用した、その手口を知りその反省が無ければ意味がありません。ですから、文民統制の前提に、政権が事実に基づいて判断しているか、が考慮されるべきなのですよ。
こうした例はナチスイラク戦争だけじゃないでしょ?ベトナム戦争が如何にして始まったか。北爆を始める際、ラオスカンボジアに戦線が拡大する際、ヘンリー・(ノーベル平和賞)・キシンジャーらがどのような小細工をしたか知らない訳じゃないでしょうが。
その部分を放り出して、責任を負う? どうやって? そんなレベルで殺された人々に対してどんな責任が取れるというんです。
我々は何より「文民統制」より「政府見解」より先に、田母神氏の論文の真偽とその責を問わなくてはならない、それが「市民の取るべき」責任ってヤツです。私はそれを主張しているんです。


最後に、「文民統制」「政府見解」が本筋じゃない、と述べた理由はそれだけじゃありません。
田母神氏は自衛官でしたから、そのような見なし方が可能なわけです。ですが、自分が述べたように

・水伝を主張する物理学会理事

または、Apemanさんが例示したような

ユダヤ資本の陰謀」説を主張する財務省幹部、「エイズ生物兵器」説を主張する厚労省幹部、道徳教育のためにインテリジェント・デザイン説を学校で教えろと(あるいは「アポロは月に行ってない」と)主張する文科省幹部、「火事の原因の数%は人体自然発火現象」と主張する消防庁幹部、「水で走る自動車」(燃料電池のことじゃないですよ)を信じる経済産業省幹部、「狂牛病は日本を隷属化するためのアメリカの陰謀」と主張する農林水産省幹部、「人権擁護法案朝鮮総連の陰謀」と主張する法務省幹部……みたいなもんです。

http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20081109/p2


のような人々は間違いなく御退場願う事になりますが、何を根拠に責をとってもらいます?
云うまでも無いですが、デマを振りまいたから、になるわけですよね。田母神氏も同じなのです。