シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

共産党に一票!?冗談でしょ

鳩山政権のグダグダというか、裏切り行為に愛想を尽かした方々が、社民党さえ見放して来たるべき参議院選で「共産党に票を入れる」と表明されているようです。


「他に適当な政党がないから」共産党に投票するよ(kojitakenの日記)
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20100518/1274136598


民主も自民も嫌なら共産党(vanaroralの日記)
http://d.hatena.ne.jp/vanacoral/20100517


お気持ちは判るんですが、ちょっと考えて欲しいところですね。というのも、静岡県民である私には苦い思い出があるからです。


昨今、相変わらず赤字ダダ漏れの地元静岡の静岡空港でありますが、建設を巡って長年に渡り論議がありました。結局のところ空港建設は様々な障害を押し切り、予想通りに赤字となったわけです。しかし、建設を止める可能性が無かったわけではありません。何度かターニングポイントとでも云うべき時がありました。その中で最大のものが、2001年の「静岡空港の是非を問う住民投票」と「静岡県知事選」を巡るものです。
空港建設の是非を巡って署名活動が行われた当初、県当局や県内政財界の反応は冷ややかなものでした。ところが直接請求に必要な署名数を遙かに超える約27万もの署名が集まると状況が変わってきました。当時県知事であった石川氏は態度を変えて住民投票に賛意を示します。その流れの中で空港反対派は知事選に候補者を擁立します。空港建設問題に関わった団体は大きくは二つに分けられました。
・旧社会党系(社民党民主党)の「空港はいらない静岡県民の会」
共産党系の「静岡空港・建設中止の会(旧静岡空港住民投票の会)」
住民投票においては共闘した二団体ですが、県知事選になると別々に候補者を擁立しました。
「空港はいらない静岡県民の会」は当時参議院議員であった水野誠一氏。
一方、共産党は独自候補を立てます。これには反対派の多くが懸念を持ちました。ただでさえ組織力に劣る反対派側が分裂すれば、県内の主要政財界が推す現職知事に太刀打ちいくはずがありません。共産党に独自候補を立てるのを止めるよう何度か協議が持たれましたが、翻意させる事は出来ませんでした。
当時、私も共産党の地域責任者の方と話したことがあります。なぜ独自候補を立てるのか、と。返ってきた答はこうでした。
「あの人(水野氏)は思想に問題がある。共産党が支持することは出来ない。「空港はいらない静岡県民の会」の側が共産党候補に相乗りするべきだ。」
水野陣営としては共産党に推薦が欲しかったわけではありません。静岡のような保守的な土地柄では共産党の推薦・支持を受けたら票を減らす事もあります。そうではなく、共産党が候補を立てるのを止める、それは出来ないのか、という事でしたが、共産党はあくまでも共産党のスタイルに拘ったのです。


結果はあっけないものでした。石川氏は100万以上の票を集め圧勝しました。水野氏は56万、共産党候補の鈴木氏が10万弱。ですから、共産党が鈴木氏を立てなくても勝ち目はなかったかもしれません。しかし、知名度に劣る候補の宣伝に力を貸して貰える可能性はあったわけです。それだけの動員力が共産党にはあるわけですから。それに、選挙後に石川知事はあっさりと公約*1を反故にして住民投票条例制定をあっさり捨て、検討委員会なるものやタウンミーティングによって茶を濁しました。
もし、破れはしても対立候補が迫る勢いを見せていれば、簡単に公約を反故にするような真似は難しかったでしょう。
この後、反対運動は打つ手が無くなり下火となっていきました。


共産党が自らの主張に拘るために、逆に自らの主張と遠い結果を生んでしまう。静岡空港の例はもっとも典型的な例でした。


共産党の選挙戦略・戦術の稚拙さによる「自民党の補完勢力化」については鐸木能光氏が「日本のルールは間違いだらけ」(講談社現代新書)において詳しく選挙データを基に論証しています。

日本のルールは間違いだらけ (講談社現代新書)

日本のルールは間違いだらけ (講談社現代新書)

何の取引も無く選挙に臨みながら見事なまでの自民党に対するアシスト。共産党自民党とグルではないか?そうでも無ければやってられません。本気でやっているとするならあまりにも情けない。
昨年の衆院選でも共産党が独自候補を立てるのを減らしたことが大きく影響したと云われています。さらに候補擁立を取りやめたのは、戦略・戦術というより供託金没収に耐えかねたから、との分析が泣かせます。


一般の共産党員は共産党の選挙に限らず政局に対する戦略・戦術の無さをどう捉えているんでしょう?それで構わないという事なのか。共産党員やシンパを糾合すれば、それなりに政局を動かす力になりえます。しかし、それを巧く活用する事をしない。投票しても死票。当選しても死議席。なぜ他政党への消極的・積極的関与を通じて自分たちの掲げる政策を少しでも実現していこうとしないのか。


その逆のケースがあります。ドイツの緑の党です。彼らは連立政権の中で巧みに自分たちの求める政策を盛り込んでいきます。交渉・妥協・恫喝・示威、なんでもござれです。自分たちの政策を少しでも盛り込むためなら連立相手は問いません。州レベルではCDUとでも連立を組みます。自分たちの意見を少しでも盛り込ませることで支持を獲得し、支持者を増やす、その事がさらに党勢を強めていく。
節操が無い、という意見もあります。所詮はサヨクのなれの果て、などというイヤミもあります。どれも当たっていますが関係ありません。彼らは譲れない一線を踏み越えなければ、柔軟に対応し、粘り強い交渉を行う「タフネゴシエータ」なのです。


例えば、共産党社民党が協力したとしましょう。私には共産党社民党の方針にそれほど違いがあるようには見えません。にも係わらず共産党社民党を敵視しているようですし、社民党共産党を無視します。しかし、消極的・積極的協力によって互いの候補を当選させる事が可能なところも出ましょうし、さらに他党への共闘によって自分たちに近しい候補を当選させたり、逆も可能になるでしょう。公明党などはこれが得意ですよね。


共産党はきっと「正しい」んでしょう。でも、その「正しさ」から一歩も外へ踏み出す事はない。泥に手を突っ込んで少しでも自分たちの正しいと思う方向へ近づける事には興味がない。いつだって、「主張」するだけです。
それなりに働いているものなら誰だって妥協を迫られる事態に直面します。譲れない一線をどこに置くのか、そこまで譲るのか譲らないのか、逆に妥協を迫るのか迫らないのか。自分達にとって何が一番いいのか、藻掻いて悩み、後悔して、また次に踏み出すのですよ。そうして少しでも自分の理想に事態を近づけていく。それをしない共産党は「確か“に”野党」です。いつまででも「野党」で有り続けるでしょう。


私は自分の票を「野党で有り続けよう」とする政党に入れるつもりは毛頭ありません。今度の選挙では共産党に入れる、という人にも少し考えて頂きたいものです。


追記:もちろん、私はそれなりの年齢ですから共産党が首長を生んでいたような地域や時期がそこそこあったことも知ってます。個人的に柔軟性を持った方も存じ上げています。しかし、全体で見ると共産党は極めて硬直した組織にしか見えません。

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耶律楚材〈下〉無絃の曲 (集英社文庫)

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さらに追記:文末に載せた参考文献をアフィリエイトと勘違いする方が多いので少し解説を。
耶律楚材は遼の王族出身ですが、金国に仕え、さらにはモンゴルでも官職を得ました。彼は変節漢として扱われる事もありますが、モンゴルの漢化に務め、モンゴルの暴威を抑える事に功績があったとされています。同族からは裏切り者として扱われた彼が為し得た事を考えて欲しいと思います。

*1:石川知事は「公約ではなく公言」と誰かみたいな迷言を吐いた