シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

くだらない単位

地方の田舎者である自分にとって、まったく意味の判らない単位として「東京ドーム○○杯分」というのがある。ビールの消費量であったり、月の北極の水の量であったり、様々なところで使われたりするのだが、そもそも、東京に住む人であっても東京ドームの大きさ自体が「ああ、あんだけの量か。」とピンとする人がどれくらいいるのか。まして、ドームなどテレビでしか見ることのない地方の人間にとって簡単に説明する単位に成り得ているとは思えない。
誰が何のためにこんな「単位」を発明したのか判らないが、バカバカしい代物だ。ちなみに私が子供の頃は「霞ヶ関ビル*1○○杯分」と云う言い方もあった。

Q1. よく東京ドーム何個分や何杯分という表現を耳にしますが、
東京ドームの面積や容積を教えてください。
A1. 面積の基準としてよく使われているのは建築面積で、46,755平方メートルです。
容積は124万立方メートルです。詳しくはこちらをご覧ください。

http://www.tokyo-dome.co.jp/faq/dome.htm


というわけで、自分において「東京ドーム○○杯分(個分)」というのは、もっともバカバカしい「単位」であったのだが、このたびこれを超える「バカ単位」が登場した。
消費税○○パーセント分〜である。


消費増税9%分、23兆円赤字 20年度の基礎収支

与謝野馨経済財政相は21日の閣議で「経済財政の中長期試算」を報告した。これによると、財政の健全度を示す代表的な指標「基礎的財政収支プライマリーバランス=PB)」は2020年度に国と地方合わせて23.2兆円の赤字になる。菅直人政権は20年度にPBを黒字にする目標を掲げているが、達成するには、消費税を今より9%超引き上げるか、大幅な歳出カットが必要となる計算だ。
PBは、これまでの国債(借金)の返済・利払い費を除いた経費を税収だけでまかなえるかどうかを示す。菅政権は昨年6月、15年度には赤字を国内総生産(GDP)比で現状の半分に減らし、20年度には黒字化する「財政運営戦略」を決めた。

 試算の前提は、平均の経済成長率を名目1%台半ばと見積もった「慎重シナリオ」。少子高齢化による社会保障費の増加や子ども手当などの歳出を含んでいる。

PBの赤字は11年度の27.1兆円(GDP比5.6%)から15年度に21.7兆円(同4.2%)に改善するが、政府目標には届かない。消費税1%幅引き上げで税収が2.4兆円増と仮定すると、消費税2%分の引き上げが必要となる。

 20年度は社会保障費の増加で23.2兆円(同4.2%)の赤字に膨らみ、黒字化には消費税を9.6%幅引き上げる必要がある。昨年末に決めた法人減税で税収が下がるため、昨年6月の試算より赤字額が1.5兆円分膨らんだ。

 菅首相は昨年の参院選前に、消費税の5%幅アップを掲げたことがある。ただ、慎重シナリオの試算では、歳出カットをしないままだと、5%分の増税でも政府目標には届かないことを示している。

 名目成長率が平均3%を上回る「成長戦略シナリオ」の試算では、15年度に17.1兆円(GDP比3.2%)、20年度に16.2兆円(同2.5%)の赤字にとどまる。それでも20年度のPB黒字化は達成できない。(鯨岡仁) (強調はシートン

http://www.asahi.com/business/update/0121/TKY201101210195.html


以下、他社記事URL

財政赤字20年度23兆円 内閣府試算 消費税9%に相当(東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2011012102000188.html


財政黒字化に23兆不足、消費税率9〜10%分
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20110121-OYT1T00462.htm


膨らむ財政赤字、32年度に23.2兆円 消費税9%増で黒字
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110122/fnc11012214550101-n1.htm


他社も大体同じような論調の記事ではある。内閣府の試算発表だから、とは云えるのだが、それをどう記事にしていくか、で記者の見識が問われるところだ。で、朝日の鯨岡記者の場合、かなりな悪質で恣意的な誘導を行っている。

達成するには、消費税を今より9%超引き上げるか、大幅な歳出カットが必要となる計算だ。


なぜ、こんな二者択一を迫るのかさっぱり理解できない。
税収の推移を見ると、現在の税収不足は何よりも所得税法人税不足が問題である事は明らかだ。


税制について考えてみよう:財務省
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/zeisei/04.htm


この推移を楯に財務省は消費税は(景気に左右されない)安定した税収だ、とかいっているのだが、この間に所得税率も法人税率も下げられてきたわけで、財務省自体がこう認めている。

日本の個人所得課税の負担は、諸外国と比べて低い水準となっています。


消費税税収が“安定している”ように見えるのは、単に支出を削ることが困難な層からも取っているからである。以前にもこの点は触れたのだが、収入と支出がほぼ等しい世帯=貯蓄の無い世帯は2割に達する(2008年の記事)


平均貯蓄額1,624万円 貯蓄ゼロが2割(All About)
http://allabout.co.jp/finance/gc/12588/


貯蓄額からの推移を見れば、皆カツカツに節制指向なのであり、その結果としての安定した消費税税収なのだ。この状況で消費税率を上げれば、貧困層やその予備軍の世帯、高齢者層にとっては税率アップ分の物価上昇を意味する。福祉を受ける世帯へ過重な税を課して、福祉を賄う、とはあまりに馬鹿げた政策である。
さらに、現在ただでさえ価格転嫁が難しいのに、その消費税課税分は誰が被ることになるのか。転嫁されれば、貧困層が最もダメージが大きく、転嫁できなければ中小企業が被る=中小企業労働者が被る事になるだろう。


なにより必要なのは利益の配分、再分配であり、税収を上げる事が必要であるなら所得税法人税税収を上げるべきなのだ。


消費税は、もし消費支出が所得に比例すると仮定してもジニ係数を小さくしない。実際には消費支出が所得に比例する事はありえないからジニ係数は増大するだろう。人頭税ジニ係数を確実に増大させる。ジニ係数を小さくするのは、再配分の効果がある「累進税率の所得税」や「法人税」なのである。


再配分を増やすのは景気が回復してから、と主張する人もいるが、話が逆である。景気の回復には再配分が必要なのだ。先ほどの税収推移とGDPの推移を比較すれば、この20年近く富の偏在が進んでいる。富の偏在が進むとどうなるか?
可処分所得が減った人々は消費を抑えるようになる。その数が増大すれば産業に悪影響だ。なぜなら産業というのは、基本的に大量生産が前提になっているからである。
ちょっと比較してみよう。
100億円を1億人に配分する。一人100円だ。これを貯蓄する人間はほとんどいないだろう。たぶん、缶コーヒーでも買うか。
1000万人に1000円でも貯蓄に廻す人は少数で、たぶん食事にでも使うだろう。
100万人に10000円、こうなると貯蓄に廻すものも出るだろう。しかし、家電を買ったり旅行に使うものも少なくないはずだ。
しかし、10人に10億円だとどうだろう?缶コーヒーを1000万本飲むヤツはいない。ファミレスのランチを200万食食べたり、家電量販店で買い占めするヤツもいないだろう。間違いなく貯蓄という形でプールされる*2。そして、その資金をさらに増やそうとするだろう。広く(低所得層に)配分されれば市場活性化に役立つのに、寡占化されれば循環を止めてしまう。強欲が富の偏在を生み、それが実体経済を不調に追い込む。


だから、なにより再配分を進める事が 景気回復させたいのなら 必需なのである。高額所得者が税支出を惜しむとしたら、それは「小銭惜しみ」でしかない。彼らの収入を支えるのも好調な経済なのだから。


そういえば、法人税減税に関して、そんな事をすれば世界各国で法人税ダンピング合戦が起こるよ、と指摘したのだが、


法人税減税とか云っているヤツはブタのエサ
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20100627/1277600158


指摘通りになった。


米政権、法人税下げ方針 先行日本に危機感
http://www.asahi.com/international/update/0113/TKY201101130607.html


アメリカが減税すれば、今度はヨーロッパにも波及するだろう。もっとも、ロイター記事だと若干論調が違うが。


UPDATE1: 米大統領法人税引き下げの必要性を訴え=一般教書演説

[ワシントン 25日 ロイター] オバマ米大統領は、25日の一般教書演説で、税制の抜け穴をふさぐことにより、法人税を引き下げるべきだとの考えを示した。

 大統領は「民主・共和両党に制度を簡素化し、抜け穴をふさぐよう要請する。多くのロビイストがこれまで、特定の企業や産業に恩恵をもたらすために税制を操作してきた」と指摘した。

 また、富裕層向けの減税について、恒久化する余裕はないと強調。「富裕層の人々に減税措置をあきらめるよう求めるべきだ。彼らの成功を罰するわけではなく、米国の成功を促進するのだ」と語った。

 大統領はこれまで2つの予算案で、法人向け税制優遇措置を大幅削減することを提案しており、25日の一般教書演説では、抜け穴をふさぐという表現でこれをあらためて要請した。

 大統領は、企業の海外所得に対する課税の先送りを可能にする税制を廃止したい意向。

 共和党民主党法人税最高税率35%が高過ぎるという点では一致しているものの、引き下げによる減収分をどう埋め合わせるかについて意見が対立している。

 オバマ大統領は、一般教書演説で、法人税の引き下げは赤字を拡大させないため、埋め合わせる必要があるとの見解をあらためて示した。

 ただ、一部の共和党議員は、大統領が廃止したい税制優遇措置の多くを支持しており、法人税制改革案が議会を通過するのは困難になる見通し。

http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK883828920110126


ついでに。


太陽光電力分、4月から月2〜21円上乗せ 電力10社

太陽光発電をしている家庭や企業などから余った電力を買い取る制度に基づき、電力10社は20日、昨年1年間に買い取った費用を回収するため、今年4月から電気料金に上乗せする金額を発表した。標準家庭で月2〜21円の負担となる。買い取り制度は2009年11月に始まったが、電気料金に転嫁されるのは初めて。

 中規模工場は月2500〜1万7500円程度、大規模工場は2万4千〜16万8千円程度の負担になるとみられる。

 太陽光発電の余剰電力買い取り制度は、再生可能エネルギーを普及させるため、家庭などで使う量を上回った電力を10年間にわたり、電力会社が買い取るもの。買い取りにかかった1年間の費用は、太陽光発電促進付加金(太陽光サーチャージ)として翌年度の4〜3月の電気料金に上乗せされ、すべての電気利用者が電気使用量に応じて負担する仕組みだ。

 電力10社の発表によると、昨年の買い取り費用は合計で約400億円。上乗せ額は電力会社ごとに計算するため、太陽光発電の普及が進んだ地域ほど高くなった。

 太陽光発電の普及に伴って買い取り費用が増えるため、上乗せ額は年々上がる見通し。さらに経済産業省は風力や地熱なども対象に加え、再生可能エネルギーによる電力の全量(家庭などの太陽光は余剰だけ)を電力会社が買い取る法案を通常国会に提出する予定だ。成立すれば、制度開始10年後には家庭の負担が月150〜200円、中規模工場は12万5千〜17万円、大規模工場は120万〜163万2千円になると経産省は試算している。

 民主党政権は20年までに、温室効果ガス排出量を90年比で25%削減する目標を掲げる。今回の電気料金への上乗せは、政権が推し進める温暖化対策の主要政策で、国民が新たな負担を求められる最初のケースになる。(竹中和正)

http://www.asahi.com/business/update/0120/TKY201101200514.html


それにしても、朝日新聞は消費税を上げろ、と叫ぶ割には、こうした事は「値上げ」を警戒するのな。
今まで電力各社は原子力発電分をバンバン転嫁していたのだが、それを批判したことがあっただろうか。転嫁されるのがイヤなら、電力事業を「民営化」すればいいのに。

*1:私の幼少時には日本で一番高いビルだった。その容積も日本の建築の最大級だったのだが、やはり田舎のガキにはサッパリ通じない単位だった

*2:それが金融市場に流れ込んだ結末がサブプライムローン破綻だ