ども。梅雨入りして気持ちもジットリ。シートンです。
まだ、原子力は必要悪とか自然エネルギーはムリ*1の自称リアリストな方々が蠢いているようなので、風呂場掃除のついでに片づけておきましょう。
もともと、今年の夏に電力供給が綱渡りなのは脱原発とは関係がありません。今まで存分に原子力を推進してきた当然の結果に過ぎません。で、今後を見据えても原子力には先は無いのです。とりあえず、包括的な話は拙エントリー
原子力という幻想
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20100309/1268138091
でもどうぞ。さらに細かく見ていくと、原子力は漸次縮小するほかない明確な理由があります。それを紹介していきましょう。
原子力研究者/技術者がいなくなる
以前、周囲では原子力に好んで進む研究者がいない、事を紹介しました。もう、4年も前の事なんですが、状況はさらに悪化が避けられないでしょう。
参考:「格差」の原子力 2
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20070816/1187236401
そして、断言してしまうが、現在の原子力産業に原子力について広く洞察力を持っているような人物など皆無である。なぜ、そんなことが断言してしまえるか。実は、知人が何人か原子力関係で働いているからである。知人の何人かは正社員。残りは下請けだが、共通点がある。働くようになるまで原子力について何も知りも興味も持たなかったのだ。もちろん、原子力工学など学んではいない。電力会社の正社員教育では、原子力がいかに安全か、というような事ばかりをレクチャーする。彼らは、学生時代などを通じて原発についての知識を仕入れたり考えたりはしないために、その「安全神話」をそのまま信じ込んでしまうのだ。
その是非はともかくとして、批判的な意見も充分に取り込んだ上で検討するならともかく、原子力関係から垂れ流された「絶対安全」な教育だけ受けても、問題が生じれば「想定外」としか云えなくなるだろう。というか、云えなかったわけだが。
彼等が「想定外」とした事態のほとんどは、原子力反対派が繰り返し指摘してきた事だったのだから。
そのような状況を危惧した「原子力村」の方々も人材集めに苦労されていたようです。
『「原子力人材育成ネットワーク」の発足にあたって』(社団法人 日本原子力産業協会)
http://www.jaif.or.jp/ja/news/2010/hattori_nhrdn_start101118.pdf
実は、震災のちょっと前に、原子力人材育成の話が私のところにも来ていました。応募するものなどいるのかなぁ、と思っていたのですが、現在ではさらに望み薄でしょう。実際、内部にいた方々からもこのような話がありました。
原子力工学という学問の実態と、原発事故
http://togetter.com/li/135041
私から見れば、関村氏、斑目氏は「なにやってんだ?」という人物ですが、そのような方々が原子力村では中枢に位置する方々だったわけで、若年層になればもっとヤバヤバな状況であることは推察されます。
今後、このような事故の後でも「原子力には未来があるんだ!」と業界に進んでくれる研究者がどの程度いるものでしょう?どう見ても優秀な人材が来てくれるとは思えませんし、来てくれる方々を信頼して原子力政策を預ける事が出来るでしょうか?せいぜいやれることは、縮小にもっていく事だけでしょう。
ザ・特集:悩む原子力専攻学生
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20110602ddm013040031000c.html
原子力施設労働者がいなくなる
実務を担う労働者も同じです。原子力関連施設労働に関して、その労働環境や扱いについては明るみに出てきました。今まで散々述べてきても無視されてきたのが、一般の人々にも知られるようになったわけです。従来だったら無視されたような
求人と違い「福島原発で作業」 大阪・西成の労働者
http://www.47news.jp/CN/201105/CN2011050801000622.html
といったニュースもありましたし、今後労働力集めには苦労することになるでしょう。
原発作業員養成の仕組み、厚労相要請へ 人員不足を懸念
http://www.asahi.com/national/update/0526/TKY201105260648.html
廃炉が相次ぐのに新規建設が困難になる
もともと福島第一原発では老朽化が問題となっていました。その指摘を無視してきた構図もあったのですが、震災後にはその点にも注目が集まっています。
老朽原発 材質もろく 吉井議員指摘 運転延長は危険
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-04-10/2010041015_02_1.html
日本の原子力発電所の稼働年数を見てみれば、今後寿命を迎える原発が多数にのぼります。
参考:日本の原子力発電所の運転開始年月と出力一覧表
http://moke.iza.ne.jp/blog/entry/2275248/
それを、なんとか運転延長しようとしていたわけですが、今回の事故で運転延長は厳しくなりました。なにせ、お墨付きだった原子炉が現在の体たらくな訳ですから。
原子力発電所の安全性の検査
http://www.nisa.meti.go.jp/faq/faq_a03.html
東京電力株式会社福島第一原子力発電所6号炉の
高経年化技術評価書及び長期保守管理方針に係る審査等の結果について
http://www.meti.go.jp/press/20090709002/20090709002.html
(via:http://plaza.rakuten.co.jp/umepxu/diary/201103270000/)
その一方で、新設は困難、というより無理な状況。
山口県知事、免許失効も 上関原発の埋め立て
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110519/lcl11051910440001-n1.htm
上関原発:周南市議会が建設中止を求め、意見書採択
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110528k0000m040145000c.html
芦浜舞台 辛いむなしい闘い
http://mytown.asahi.com/mie/news.php?k_id=25000531105140001
あらゆる形でコストが上昇する
もちろん、研究者も労働者も新規立地もカネで何とかする、という考えはあるでしょう。カネは強いですからね。でも、今後の原子力に対しては安全基準が厳しくなる事は間違いありません。
G8首脳、原子力の安全性基準の厳格化を望んでいる=仏大統領
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK892157220110527
そして、それは間違いなく発電コストを引き上げます。今まではそうしたコストの転嫁は消費者に気づかれなかった?わけですが、今後は厳しい目が向けられる事は間違いない。
しかも、核燃料であるウランのコストも下がる可能性は少ない。
ウラン価格の推移
http://ecodb.net/pcp/imf_usd_puran.html
「ウラン調達の現場から」
http://www.mhi.co.jp/atom/human/interview077.html
ウラン鉱山開発も強い反対を受けています。
NT、カカドゥ所有グループ、ウラン鉱山反対
http://www.25today.com/news/2011/04/nt_26.php
反対運動で足踏みするウラン鉱山開発
http://eco.goo.ne.jp/life/world/australia/uran/3.html
発電後の廃棄物処理だって大問題。
六ヶ所村の再処理工場完成延期、2千億円コスト増
http://www.asahi.com/business/update/0221/TKY201102210397.html
日本原燃の川井吉彦社長は21日の原子力委員会の会合で、青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場の完成を2年延期したことに伴い、事業費のコストが2千億円強増えることを明らかにした。各電力会社などに4千億円の増資を募っており、自己資金でまかなうという。
再処理工場は、各地の原発で燃やした核燃料から、再利用可能なプルトニウムなどを取り出す施設。昨年9月、それまでより2年遅い2012年10月に完成を延期した。完成前の試運転で、トラブルが出たことなどが原因だ。
追加のコストは、完成延期でかかる追加工事や人件費の増加によるもの。直接電気料金に反映されるわけではないが、再処理の経済性を疑問視する専門家もいる。
原燃が再処理事業を国に申請した89年当時、完成は97年12月、建設費用は7600億円で済む予定だったが、計画はこれまでトラブルなどで18回も延期され、建設費も現在まで2兆1930億円に膨らんでいる。(小堀龍之)
さらに最終処分場も決まっていない。
原発への関心の高さ明らかに 緊急公開『100,000年後の安全』全国へ公開広がる
http://www.cinematoday.jp/page/N0032470
手厚い支援(=シャブバラ播き)を約束しても
放射性廃棄物と地層処分のHP>高レベル放射性廃棄物:処分場候補地と地域支援
http://www.enecho.meti.go.jp/rw/hlw/hlw05.html
名乗りを挙げる自治体は出てこないのです。だから、国外に捨てようとする。
核処分場:モンゴルに建設計画 日米、昨秋から交渉 原発ビジネス拡大狙い
http://mainichi.jp/select/world/news/20110509ddm001040055000c.html
こんな行為を看過できる外道がどれほどいるものか。あらゆる形で(今まで隠されてきた)コストが上昇するのです。
テロの危険に晒される
最後に自称リアリストが好きそうな話を取り上げましょう。震災時、津波が来る前に冷却機能が失われていたらしい、事が語られています。
東日本大震災:福島第1原発事故 1号機、冷却装置を手動停止 津波前、炉圧急低下し
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110517ddm001040033000c.html
もともと、原子炉の非常停止時に外部電源が失われていたら、冷却は困難な事なのです。
で、これをご覧ください。
上の写真は浜岡原子力発電所からの送電鉄塔です。碍子が長く連なっているのは短絡を防ぐためですが、鉄塔の近くまで来ると「ジジジジジ…」という音がしています。おそらく、碍子の表面を沿面放電しているためではないか、と思います。
発電所からは複数の送電線が遠方の電力需要地まで伸びていますが、この送電線を一度に断ってしまったらどうなるか。原子炉は非常停止に持って行かざるをえません。
以前、某国の工作員が原子力発電賞を占拠してうんぬん、とかいう話がありましたが、あれは原子力というものをよくしらない人の考えですね。発電所を占拠する必要など無い。送電システムを短絡/切断すれば、原子炉は容易に危機に晒されます。
送電線を短絡させる事は簡単です。ワイヤを絡ませてもいいし、なんなら塩水を碍子に吹きかけてもいい。一旦短絡した碍子は絶縁性を失います。高圧洗浄機一つと塩水があれば、たちまち原子炉をスクラム状態に追い込めます。延々と続く高圧送電線のどこが短絡しているかは容易にはわかりません。これほど「テロ」に脆弱な部分も無いのです。
もちろん、原子炉には非常用電源が設置されているわけですが、今回の件を考えれば“非常用電源での冷却にしくじる原子炉もあるかもしれない”。ロシアンルーレットみたいなものです。手段の容易さと対称的な巨大なリスク。
原子力は安全保障の面からは看過しがたい障害なのです。
さて、ここまで原子力が抱える問題を述べてきました。この問題に比べれば「自然エネルギー」を進めていく問題など大した障害に成り得ないと思いますよ。
では
*1:最近は不安定というのをやめて、高くつくと主張し始めたようだが