シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

脱原子力はチャンスだよ その2(2/5)

このエントリーは、


原子力はチャンスだよ その1
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20110904/1315116898

の続きです。


続いては、ちょっと違う論点の話をしましょう。
以前、私は「原子力はやめよう」というエントリーを上げました。


原子力はやめよう
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20110409/1302327534


このエントリーに対しても消極的原発賛成派からのクレームが付きましたが、“現実的”に考えたら、むしろ原子炉再稼働の方がハードルが高いように思いますね。それとも、この期に及んでもゴリ押ししますか。
とりあえず、考えていくなら一足飛びの自然エネルギーへのエネルギー転換、などではなく、原子力分の電力供給を何とかしよう、ということになるでしょう。もちろん、それは従来の「原子力の電力需要に占める割合は3割」とかいう話に基づくものではなく、電力需要ピークの削減を含めた包括的な方策によりますが。
原発を漸次停止していくなら、稼働年数の高いものから順に停止していけばいいでしょう。即時停止なら、火力発電所を一時的に増設。自然エネルギー増加に伴い、効率の悪い火発を止めていく、という方策もあります。いずれにせよ、一つの発電方式に拘る必要もありません。
それぞれの発電方式には長所と短所があるので、相補性を持たせることで弱点をカバーすればいいのです。


太陽光発電は、天候に左右されるとか、日中にしか発電できないと云われますが、以前説明したように「ならし効果*1」によってまったくのお天気次第ということはありません。
日中しか発電できないのは、電力需要が日中にピークを持っている事から、むしろ利点になっています。ただ、個人的にはメガソーラーには賛成できません。家庭用と公共建築物、企業事業所などの屋根のようなデッドスペースが効果的に利用できる政策が重要となるでしょう。


そういえば、菅前首相が太陽光発電パネルを20年代の早い時期に1000万戸に設置と発言したら、「思いつきだ!」とか騒いでいる連中がいましたね。


菅首相、「太陽光パネル1000万戸に設置」表明
http://www.afpbb.com/article/politics/2802489/7265403

【5月26日 AFP】菅直人(Naoto Kan)首相は25日(日本時間26日未明)、仏パリ(Paris)で開かれている経済協力開発機構OECD)設立50周年記念行事で講演し、福島第1原発事故後の日本のエネルギー政策について、自然エネルギーの利用を推進し「1000万戸の屋根に太陽光パネルを設置する」との目標を掲げた。

 菅首相は日本のエネルギー基本計画を「基本的に見直す」とした上で、2020年代のできるだけ早い時期に、全供給電力に対する自然エネルギーの割合が「20%を超える水準となるよう大胆な技術革新に取り組む」と表明。これを達成するため、太陽電池の発電コストを20年までに現在の3分の1、30年までに6分の1にまで引き下げるという目標を示した。

 また、最高度の原子力安全を実現することが計画見直しにおける重要事項だと強調し、技術面だけでなく、組織や制度、安全文化のあり方まで包括的に見直すと述べた。(c)AFP


でも、これは思いつきでの発言でも何でもありません。


「2030年、日本PV市場10兆円 100GW突破へ」 インタビュー:JPEA 岡林事務局長にPVの将来ビジョンを聞く
http://www.semi.org/jp/News/MailMaga/ctr_038229

太陽光発電普及拡大センター(J‐PEC)によると、09年度の申請受理件数は14万4601件に達した。JPEAの統計では住宅用PVの国内出荷量が54万3708?と前年比176%増と大伸長をみせた。これについて岡林氏は、「大成功」と概括する。7月2日にはJEPAビジョン『日本ブランド10兆円産業を目指して』を発表。2030年に輸出も含む日本のPV産業の10兆円規模への成長ビジョンを提示した。30年に住宅用の累積設置数は1171万戸に、導入量は住宅用約40GW、非住宅用約60GWに届くとする。


太陽光発電ロードマップ(PV2030+)」概要版[PDF]
http://www.nedo.go.jp/content/100080327.pdf


もともとNEDO新エネルギー・産業技術総合開発機構)の太陽光発電に関するロードマップの前倒しなのです。せいぜいが野心的な取り組み、という程度でしかなく、「思いつきだ!」とか騒いで菅さんをdisっていた連中は、単純に物知らずのバカ、というわけ。


参考:また思いつきで発言 菅「太陽光パネル1000万戸!」 海江田大臣「え?!」 首相「え?!」 国民「え?!」
http://kanasoku.blog82.fc2.com/blog-entry-18457.html


PV2030+で想定されている太陽光発電パネルの発電能力は約100GW。稼働率を考えても、日中の電力需要ピークを抑制するには余りある発電能力になります。


余談ですが、菅前首相の「300年前は薪で全部やれていたので、それを新しい技術でやればエネルギーは賄える」とかいう話にも、一生懸命噛みついているバカ達がいましたね。
バイオマスはドイツにおいて、有望な再生可能な一次エネルギーと捉えられています。


ドイツにおける再生可能エネルギーの実態
http://www.originalest.com/news.php?id=00046


バイオマス情報ヘッドクォーター ドイツのエネルギー事情
http://www.biomass-hq.jp/documents/international_trends/germany/overview/page2


温帯から亜寒帯にかかるドイツより、日本の方が木材資源は豊富でバイオマス資源として有望なのです。それをどう使うか、が昔と現在(未来)の技術差であって、昔のイメージで考えてしまうのが、バカ達のダメなところですね。木材等のバイオマスをプラスティック原料として使う事も進んでいる、なんて事はおそらく知らないんでしょう。


参考:東京大学 農学生命科学研究科 研究成果
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2011/20110902-1.html


また、風力発電については、環境省がかなり控えめに計算しても、高いポテンシャルがあることを示しています。


第4章 風力発電の賦存量および導入ポテンシャル[PDF]
http://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/chpt4.pdf


ま、世界的に見れば、一番リーズナブルと考えられているのが風力発電ですから、当然の結果と云えるかも。


こうした自然エネルギー導入を進めようとすると、あくまで「不安定だ!」と叫んでくれる連中が現れます。いわく、「原子力は安定なベース電源」みたいな事をしたり顔で言う輩ですね。でも、それ、まるで判ってませんから。


原子力が安定的というのはミスリードな言葉です。というのは、最も必要とされる電源とは、「負荷(需要)変動に追従できる電源」ですから。その点で最も優れているのは水力です。次がLNG火力。それに比べると原子力は出力調整が難しくリスクを伴うため、優れた電源とは言い難い。だから、「ベース電源」という言い方で誤魔化しています。というのも、火力だって本当は出力変化させるのは効率が落ちるからです。ガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)は、旧式の石炭・石油ボイラーに対して出力を制御しやすい利点がありますが、最も効率的な発電ができる回転域というのがあります。負荷変動に伴って出力変化させれば効率は落ちるわけです。特に、原子力が出力調整出来ないツケは火力発電が一番被っているので、原子力が無い方が火力発電の効率向上には効果的なんですね。


話が逸れました。
自然エネルギーの場合、ある程度設備容量を多めにとっておけば負荷変動の調整は楽というものです。設備稼働率が落ちるために、コストが高い!と言う連中はいるでしょうが、原子力だって同じ事です。今回の震災で判ったことは、単に原子力災害の危険性や原子力ムラの酷さだけではありません。原子力のような巨大な発電設備が停止におかれた場合、電力供給に問題を生じる、という事。そのための余剰設備は自然エネルギーの場合の比ではありません。しかも、自然エネルギーの場合、燃料費のようなものはかかりませんから、負荷に合わせて送電供給を止めても構わないわけです。


自然エネルギーの変動調整分は、GTCCと水力にしばらくは任せておけばいいのです。どっちにしろ、自然エネルギーもそれほど一気に増加させることは出来ませんから。むしろ、そのためには原子力は妨げになるのです。
産業分野では利用できない、という意見もあります。それは、後述しますが、自家発電等にシフトすべきでしょう。発送電分離が進めば、その方が企業にもメリットです。


それにしても、自然エネルギーの導入を進めている国々、ドイツでも中国でもアメリカでもスペインでも、導入量は日本の比ではありませんが、問題は生じていません。それどころか、アメリカでは自然エネルギーが火力発電*2コストと等価になるグリッドパリティ(Grid parity)がいつか?というのが語られているのです。
全部をいきなり自然エネルギーに変える必要は無いのですから、せめて他国並み*3の導入に騒ぐのはみっともないのでやめませんか?

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*1:日中、どこかは晴れて、どこかは曇っているので、広範囲で多数(統計的取り扱いが可能な程度)集まれば平準化される、という事。実際には、まったく平準ではなく揺らぎも特徴的な変動もある

*2:アメリカでは火力発電が最も安価なので

*3:他国との比較が大好きな連中がどういうわけか、日本独自論を唱えるのが嗤える