モーリー・ロバートソンは酷すぎる
ちょっと、余りにもヒドい文章を読んだので、一言。
世界の現実と日本の“反原発”の距離感 モーリー・ロバートソン「日本だけ脱原発……って、どうなんだろう?」
http://wpb.shueisha.co.jp/2012/07/11/12498/
かつて私は、「原子力とは、夥しい人権侵害に伴う犠牲を無視して成り立つ」というような論旨の文を何度と無く書いてきました。現在でもそう思っています。現場労働者の雇用・労働環境、地方−都市間格差、その他諸々の問題を原子力は必需としています*1。
少なくとも民主主義国家が普遍的に基本的人権の尊重を踏まえているなら、原子力を推し進める事は出来ない、とも述べました*2。
脱原子力というのは、我々が民主主義国家においての生活の営みにおいて、差別を当然視/不可視化しないためのものなのです。単純にエネルギーの問題ではない。
脱原子力はチャンスだよ その1(1/5)
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20110904/1315116898
原子力は、その暴力的なまでの力と利権ゆえに、「格差構造」無しには成り立たない代物だ。「地方vs都会」、「請負労働者vs電力会社正社員」、「発展途上国vs先進国」、etc。
「格差」の原子力 2
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20070816/1187236401
さて、原発は ・地方への硬軟使い分けた押しつけ ・階層間で意識も情報も隔離された労働状態 これらが無いと維持できない。
時代遅れの原子力 1
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20071203/1196674922
法華狼さんも現状を予見してたかのように的確な文を書いてらっしゃいます。
結局、多数が利益をえるために少数が不利益をこうむるのでは、民主主義社会ではない。二酸化炭素の排出を抑えるために原子力を田舎に押しつけるか皆が冷房を我慢するかの2択なら、人間の意志力では無理であっても*2冷房を我慢することを理想とするのが近代社会だろう。
東京に原発を! 全動力に原子力を!
http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20070725/1185321343
その裏返しが、原子力ムラ、という言い方で表される原子力政策に携わる集団によって、政産官学で閉鎖的に進められてきた原子力政策と云えるでしょう。その問題点とは、民主主義国家内で原子力政策を進めるにはそうせざるを得なかった、事といえるかも知れません*3。
反原子力(原発)活動の根幹は、反差別、普遍的な人権尊重、にあるはずです。さて、そうしてモーリー・ロバートソン氏の言葉を見ていくとおかしいですよね。
彼の書くところの「原子力」の部分を「奴隷制」に置き換えてみましょうか?
19世紀半ばまでのアメリカ、とりわけ南部において「奴隷制」は、確かにアメリカの産業経済を支えていました。南部諸州は、奴隷制無しの綿花産業は不可能、現実的でない、経済が破綻する、国家が危機に瀕する、として奴隷制廃止に反対したわけです。その結果が南北戦争だったわけですけど。
では、奴隷制は認められるべきだったか?
そうでは無いですよね。
夥しい奴隷労働に支えられた産業経済があって、それを止めたら経済が停滞するにせよ、奴隷制度は否定され、即時撤廃されなくてはならない。これは当然のことです。奴隷制度は“夥しい人権侵害に伴う犠牲を無視して成り立つ”制度だからです。
撤廃後、どうしていくか、について議論はあるにせよ、現実を盾にとって、(奴隷制度で)利益を得てきた側が奴隷制度を擁護するような真似は許されない。そういう事です*4。
そして、私に限りませんが、原子力に反対し続けてきた者は、基本的に原子力は“夥しい人権侵害に伴う犠牲を無視して成り立つ”事を前提として反対してきました。ですから、モーリー氏のいう
仮にその一部が本当だったとしても、「原発依存の上に成り立ってきた豊かな日本」という現実は苦々しくも受け入れなければならない。だけど、多くの反原発派にはその視点がないんです。自分たちは無限に潔白な被害者だ、と。現在の運動参加者の多くは、デモなどに初めて関わる“素人”だと思いますが、左翼が逃げ込みがちな短絡した世界観が彼らの共通言語になってしまっている。
というのは、まったくの間違った認識と云えるでしょう。というか、モーリー氏のいう「左翼」って
二人のコメディアンは、むしろ無気力と表現する方が適切な「中庸」を擁護するため、リベラル層がいつもしているように、幻の左翼を喚起した。右翼が狂っていて、左翼が狂っているなら、と議論は進む。我々中庸派が妥当なのだ。
幻の左翼
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-6adf.html
でのような存在ですよね?ま、「それって何て“脳内サヨク”?」って思いますが。
結論から言うと、「一国からの脱原発」は不可能だと思います。今、世界ではどんどん原発が拡散しようとしている。インド、ベトナム、UAE、ブラジル……特に中国では、今後100基以上の原発が建設される予定です。先進国にいるわれわれが、それをただ「けしからん」と言えるでしょうか。石炭燃料で電気をつくり、街は燃費の悪いバイクや車の排ガスで息苦しい。そんな国々に、「このまま頑張れ」と言うことが許されるでしょうか。
これもヒドイですね。これ、話が逆でしょう。途上国の原発や環境問題については、以前何度か書いています。他国の人権侵害状況をも許容するつもりなんでしょうか?中国は原子力を強力に推進してますけど、同時に再生可能エネルギーの開発にも熱心で*5、住宅には太陽熱パネル設置が進んでいる。むしろ、日本が脱原子力を成し遂げれば、他の国々にも(ドイツと並んで)お手本となれるでしょうに。ウラン資源量からいえば、そもそも原子力は世界各国で推進できるようなものではありません。
参考:原子力という幻想
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20100309/1268138091
素晴らしい理想。ただ悲しいかな、まったく現実的ではない。本気でエコロジーや人類の幸せを達成したいなら、歴史も経済も科学も無視し、人々を動員して叫んだところで何も解決しない。便利なコンビニの中に立てこもって出てこないようなレトリックじゃ、何も変わらないんです。
これもヒドイですね。現実的でない、なんて言葉は、何の意味もありません。この人が技術トレンドに詳しいようでも無いですし。私、去年もこうしたダメ話を批判してますが、一年たってもこういう意見が堂々と雑誌のサイトに特集として載るのにはガックリしますね。
原子力の理不尽さを説くと、代替手段の不可能性を延々と説き、「現実的に原子力しか無いでしょ?」と云い垂れ、現実を変えていく可能性を無視する原発厨。彼我の立場の非対称性を無視し、女性や反原発派へのルサンチマンを募らせているあたりも共通している。現実を見据えることと、現実に安易に妥協することは違うのに。
参考:原子力はやめよう
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20110409/1302327534
だいたい、自称“現実的”で“科学的・合理的”で、“冷静な判断の出来る”人、というのは、“現実を変える労を厭って目を逸らし”“広い領域での判断を、狭く解釈して逃げ”“正常性バイアスに駆られて、真ん中を選択する”ヤツでしか無いわけですけどね。
そうそう、このエントリー書くために過去エントリーを見返してみました。
そしたら、こんな文章が出てきました。
原子力発電について、女性では、抑制の立場の人が、推進の立場の人の数倍いるのに対し、男性では両者がほぼ拮抗している。男性は、車に給油する時や仕事関係で、石油の高騰など厳しいエネルギー事情に触れる機会が多いためか。(‘科学・技術系ノンフィクション作家’の中野不二男の論評)
自滅する日本の科学・技術
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20070514/1179133248
これ、5年前の記事ですけど、“女性”の意見に従って、(徐々にでも)原子力の依存度を下げていたら、今頃どうだったでしょうね?この段階では、“女性”の意見は“現実的でない”とされているようですけどね*6。
あ、そうそう、私も原発再稼働には“必ずしも”反対ではありません。もちろん、再稼働にあたっては、震災事故の反省が充分に安全対策に生かされ、労働者の労働環境改善がなされ、事故発生時に影響を被ると予測される自治体との安全協定を結ぶ、という前提があります。
でも、
これらの問題点は、故高木仁三郎氏が「原発事故はなぜくりかえすのか」で指摘していた事です。氏が鬼籍に入られて10年以上。その著作の中で指摘されていた事が、何一つ省みられていなかった、ということは、原子力ムラが“繰り返す”問題に対して、その場しのぎの言い訳としか機能していなかった事を意味しています。
原子力の安全性
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20110917/1316221651
ですからね。ま、“現実的に”原発再稼働を受け入れるのは、無理ですね。
まあ、モーリー氏のようなどうしようもない意見に飛びついて、「冷静」「支持できる」「現実的」とか云うのはやめましょう。では。
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