従軍慰安婦は当時も必要なかった
ここ最近、あまりに酷い発言を政治家が行う事態に唖然とするばかりでしたが、黙ってばかりではイカン、という事で筆を取らせて頂きます。
安倍政権幹部(もちろん首相本人も含め)からの戦争責任問題回避発言が、周囲から総反発を喰らった挙げ句、火消しに駆けずり回る事になりました。
時事ドットコム:歴史認識「歴代内閣と共通」=安倍首相、沈静化図る
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201304/2013042600377&g=pol
時事ドットコム:村山談話「全て踏襲」=菅官房長官、安倍首相答弁を修正
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201305/2013051000932&g=pol
にも係わらず、再びガソリンをぶっかけるバカが入れ替わり立ち替わり出る始末。
高市氏 「村山談話の文言変更検討を」 NHKニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130512/k10014516341000.html
で、総仕上げがこの人。
朝日新聞デジタル:「慰安婦制度は必要だった」維新・橋下代表 - 政治
http://www.asahi.com/politics/update/0513/TKY201305130072.html
橋下氏「侵略に学術的定義ない」 歴史認識で首相を支持 - 47NEWS(よんななニュース)
http://www.47news.jp/CN/201305/CN2013051301001539.html
政権幹部に日本の主要都市首長*1がこんな発言を繰り返すようだと、日本社会自体が人権感覚に乏しいのではないか?と見られる事は避けられないでしょう。と書いていたら、予想通り国際的な批判を浴びてますね。
なにせ、民主的選挙によって選ばれた選良、それもどなたも圧倒的多数票を集めて当選された方々ですからね。
さて、橋下市長は、次のような事を何度と無く主張しては、自ら正当化に努めています。
同調するポモも、こんな事を書いてドヤ顔決めてます。
橋下市長の「慰安婦は必要だった」について東浩紀氏「問題発言なのか?」 - Togetter
http://togetter.com/li/502199
でも、別に「従軍慰安婦」は必要ではありませんでした。
では、どうすれば良かったのか。
それは、軍規の通り処置すること。つまり、戦地や占領地においての強姦等は明確に禁止されていました。それを破ったのですから、そのような兵士はさっさと処刑すれば良かったのです。なにせ、西村真悟氏によれば、「強姦 してもなんにも罰せられんのやったら、オレらみんな強姦魔」なのですから、裏返せば罰せられるなら減らせるわけですよね?
そんな事では、昂揚した性欲を抑えきれない?では、○ン○ンも縮み上がるような、残虐な処刑といたしましょう。
・柱に縛り付けておいて、新兵たちに銃剣で刺殺させる
・軍刀で斬首する
・坑に放り込んでガソリンをぶっかけて焼死させる
・糜爛ガスで悶死させる
あたりでどうです*2?
こっそり抜け出して事に及ぶヤツもいる?
では、所属部隊の連帯責任といたしましょう。連帯責任は旧軍からの美しき伝統ですし。これなら、部隊で相互に監視しあいますから格段に問題は減るでしょう。
それでも事を起こすようなヤツが居たなら?その時は、皇軍の名誉を辱める非国民として、その兵士の一族郎党を非国民とし、村八分とする、とお触れを出せばいいのです。
あらかじめがんじがらめに厳罰による恐怖で締め付けて「時計仕掛けの腐ったミカン」にしておけば、戦地・占領地での蛮行は随分と減ったでしょう*3。
全然「現実的」でない?そんな事はありませんよ。記してきたような締め付けの手口は、糧食不足に苦しんだり、投降するほか無い状況に追い込まれたりした兵士たちには適用され、効果を発揮したのですから。
性欲よりも強いはずの、食欲や生命への執着さえ押さえ込むため、厳罰による恐怖で締め付ける事は普通に行われていたのです。もちろん、僅かですが投降兵、脱走兵は出ました。でも、そのような取り締まりや「教育」はムダだ、押さえ込めない、とは旧軍上層部は考えず、悲惨な兵士の状況を改善してやろうとはしませんでした。
対して、強姦対策(性病対策)としては、そのような取り締まりや「教育」で押さえ込もうとせず、「慰安婦」をあてがってやればいい、と考えたわけです。つまり、必要性の問題ではなく、虫けらのように扱っていた兵士たちよりも、さらに「慰安婦」たちの存在を軽く見ていた事の反映に他なりません。
橋下にせよ東浩紀にせよ、「(当時は)慰安婦は必要だった」という主張は、旧軍の取りうる選択肢の中で、「慰安婦」という手段だけを自明のものとする、という点で、人権感覚が旧軍レベルである事を開陳しているわけです。
だからこそ、諸外国からも批判を浴びているわけですが、自分が何を問われているのかさえ気づいていない醜態を晒していますね。
さて、他とは違い、なぜ、強姦対策として取り締まりを強化する、などではなく、「慰安婦をあてがってやる」的な発想だったのか?
それは、そのような攻撃性がむしろ望ましいと考えられたからでしょう。以前、選良で「集団レイプする人はまだ元気があるからいい。まだ正常に近いんじゃないか」と云った人がいました*4。強姦するような攻撃性は兵士としては望ましい、だから、それを押さえ込みたくはないが、性病予防と占領地維持にはダメージとなる。だから、その矛先を向けるものがあればいい。それが慰安婦だった、ということで、そのことを当然視する事は到底出来ませんね。
さらに、もともと強姦が頻発した原因として、相手国に対する蔑視観がありました。被占領地の住民に対して敬意を払う、というような指導は行われなかった。その代償として用意されたのが慰安婦であった事を考えると、彼女たちは二重、三重に差別されていた存在である事が判ります。
本当に兵士たちに必要だったのは、すでに紹介してきたことですが、終わりの目途の無い死の恐怖からの解放、そして休暇、家族の元へ帰る事、などでした。糧食や弾薬の補給と同様に、それが可能な範囲で軍事行動を行う事が、「現実的」であり、「必要」だったのです。そうした「現実」から目を逸らし、「慰安婦」をあてがう事で進めた軍事行動が「必要」だった、などという認識自体が間違っているとしか云いようがありません。
さらに付け加えます。
橋下氏は次のような事も云っています。
「今後は同じことは許されないが、当時はそうだった。」
なぜ、今後は許されない、のでしょうか?
そのように女性の人権侵害を認めない、という意識が広がってきたからです。いや、広げてきたのです。勝手に人々の意識が変わったわけではなく、女性の人権侵害を問題視し、行動してきた人たちの訴えが変えているのです。
そのような問題意識は、「当時はそうだった、仕方がない」「必要だった」「やむを得ない」というような態度からは生まれません。「許された」当時*5を批判し、ノーを突き付ける人々の行動が「許されない」現在を作ったのです。
橋下の言葉は、そうして変えてきた歴史とその努力というものを無視してしか成り立たないのです。
橋下氏の問題は、単に対外的見栄えの問題ではありません。この日本社会の人権意識がどういうものであるか、という点にあります。マスメディアも含めて、“発言が過激すぎた。温和しく振る舞わないと”程度に考えているのなら、それは間違いです。
人々の、とりわけ社会的弱者の権利向上に務める事が重要です。
では。
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