シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

朝日新聞の山中季広氏は産経新聞に移籍した方がいい

先日の事ではあります。朝日新聞の「日曜に想う」というコラムをたまたま目にしました。
普段、社説だ何だというようなものは、まず目を通さないわけですが、翌日が新聞休刊日ということもあり読んだのであります。(ま、読むものが無いと、隅々まで読んだりするわけです)
これが、途方もなく酷い代物でありました。
タイトルは、「記憶遺産 負のせめぎあい」というもので、山中季広特別編集委員が書いたものです。話は世界遺産の世界記憶遺産候補として日本が挙げている「知覧特攻隊員の遺書」に纏わる話です。


(日曜に想う)記憶遺産、負のせめぎあい 特別編集委員・山中季広:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/DA3S11179499.html


申請の経過について、こう書かれています。

申請にあたった南九州市の桑代睦雄係長(53)によると、神風特攻隊は海外では自爆テロの先例と目されがち。申請書ではあえて「神風」の語を使わず、「大死一番」「七生轟沈」といった決死の遺書も外した。
 提出したのは親や恋人、幼いわが子に宛てた日記や遺書計333通。読むと、極限状況でつむがれた言葉の声明さが胸に迫る。
 なのに中国や韓国は、地元知覧の細やかな配慮も知らぬまま、一方的な批判を浴びせる。「狂信的な神風部隊を称揚する気か」「ナチスの戦史を晴れ舞台に上げるような企て。落選を」


驚いてしまうのは、山中氏の認識が、あの「永遠の0」のそれと変わらないことです。
特攻隊というのは、単に大戦末期に“追い詰められたから"発案され実行した無謀な作戦、というわけではありません。戦前の、人を人として認めるのではなく国家に奉仕させる存在、とした軍やそれを支える社会の一局面が現れたにすぎないのです。
同様な作戦はガダルカナルでもアッツ島でも、インパールでもニューギニアでも幾らでもあったわけです。
早川タダノリさんの「神国日本のトンデモ決戦生活」には、そのような社会の考えの発露であるメディア記事が多数載せられています。例えば、子が戦死した母親の言葉(これは、つまり戦前の日本社会が求めた理想的な母親像でもある)があります。

私共はただ子供をお国の子として護り育ててきたに過ぎません。その子供達が、大東亜の陸に海に空に、逞しい肉弾となつて突つ込んで行く姿を瞼に描きますとき、良くぞこんなに立派になつてくれた……とただ感謝に眼がうるむのでございます。
(昭和十七年一月の第二次ハワイ湾攻撃で戦死した潜水艦乗組員の母親が「主婦之友社」の一大企画「軍国の母」表彰で語った言葉)
(神国日本のトンデモ決戦生活 早川タダノリ 筑摩文庫)

人を国家に捧げ尽くす事を称揚し、子を失った事を悲しませず、むしろ喜べ(国家に子供を捧げる事が出来てうれしいだろ?)という同調圧力、こうしたシステムあっての「神風特攻隊」なのです。こうした背景を漂白してしまえば、それは単なる悲しい思い出に過ぎないでしょう。
もちろん、「知覧特攻隊員の遺書」の記憶遺産登録、というのは、漂白化・美化が目的ですから、中国・韓国側の批判は当たっているわけです。でなければ、「申請書ではあえて「神風」の語を使わず、「大死一番」「七生轟沈」といった決死の遺書も外し」たりはずがありませんから。
というより、自らが戦前・戦中の“空気”を醸成するのに一役買ったメディアがこれを批判できないようなら、反省も無い、という事になります。真っ当なメディア関係者なら、それを恥じるべきなのです。
ところが、山中氏はこう書きました。

読むと、極限状況でつむがれた言葉の声明さが胸に迫る。

なのに中国や韓国は、地元知覧の細やかな配慮も知らぬまま、一方的な批判を浴びせる。


極限状況、と自然現象か他人事のようでは困ります。なにが「極限状況」を作りだしたのか、が問題なのですから。
 こればかりではなく、山中氏のひどさは次にもつながります。

聞いて驚いたのは、中国の申請した2件である。南京大虐殺の記録と従軍慰安婦に関する記録だという。慰安婦は韓国が検討中と聞いていたので、中国からの申請は予想外だった。
 いまの中国には、自国の「正」の遺産に光を当てることよりも、敗戦国日本の「負」の遺産を世界に知らしめることの方が優先するのだろうか。
 できれば今回は、甲骨文字とか焚書坑儒とか、何であれ日本のからまないものを申請してもらいたかった。


従軍慰安婦問題に関してちょっと知識のある方なら、南京事件従軍慰安婦問題に繋がりがあることは常識です。南京市占領後に起きた日本軍の蛮行、特に強姦を憂慮した上層部*1は、慰安所の開設に乗り出します。日本軍が中国各地に侵攻、転戦する間、慰安婦、も存在しました。よくクローズアップされる「太平洋戦争」中の占領地における慰安所および慰安婦は、その一部です。敗戦時には中国大陸に置き去りにされる慰安婦も数多く存在しました。


中国残留「慰安婦」写真展、大阪で開幕*2
http://j.people.com.cn/94473/7975333.html


彼女たちの消息や補償も日本では目を閉ざしている問題の一つです。
だとしたら、中国が従軍慰安婦に関する記録を「記憶遺産」として登録して何の問題がありましょうか?もし、安倍政権が主張するように

記憶遺産申請「極めて遺憾」=慰安婦資料、中国に抗議−菅官房長官
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2014061100366

菅義偉官房長官は11日午前の記者会見で、中国が旧日本軍による南京事件従軍慰安婦に関する資料を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に登録申請したことについて、「極めて遺憾だ」と不快感を示した。北京の外交ルートを通じて中国に抗議し、申請を取り下げるよう申し入れたことも明らかにした。
 菅長官はユネスコ事務局に登録申請の事実を確認したと説明。「中国がユネスコの場を政治的に利用し、日中間の過去の一時期における負の遺産をいたずらにプレーアップしようとすることは極めて遺憾だ」と強調した。南京事件の犠牲者数に関しても「具体的な数はさまざまな議論があり、政府として断定することは困難だ」と指摘した。

政治的問題、としたくないのであれば、むしろ日本が積極的に申請に協力すべきなのです。人権侵害の歴史として正面から見据え、痛切な反省に立つのであれば。

例えば、ユダヤ人迫害の象徴であるアウシュビッツポーランド世界遺産で、ドイツの占領統治と根深い少数民族迫害の事実を語り継ぐため登録したものです。もし、登録時にドイツ政府やドイツマスコミが

ホロコーストに関してはイスラエルが検討中と聞いていたので、ポーランドからの申請は予想外だった。

いまのポーランドには、自国の「正」の遺産に光を当てることよりも、敗戦国ドイツの「負」の遺産を世界に知らしめることの方が優先するのだろうか。

なんて言ったら、どう感じたことでしょう。
アウシュビッツナチスドイツが起こした事であっても、ユダヤ人をはじめとする少数民族差別と迫害の構造の一局面であり、人類が正面から見据えなければならない問題です。慰安婦問題も同様です*3。その視点があれば、山中氏のような「敗戦国日本の「負」の遺産を世界に知らしめることの方が優先」みたいなみっとも無い事は書けないでしょう。
しかも、これが日曜の朝刊の2面のコラムなのですから。
特別編集委員なる方の無神経さを見るにつけ、「朝日がサヨクって、どこの、いつの、だれの話だよ」としか感じられませんね。
では。


山中季広
https://twitter.com/ymnk_t

神国日本のトンデモ決戦生活 (ちくま文庫)

神国日本のトンデモ決戦生活 (ちくま文庫)

「愛国」の技法: 神国日本の愛のかたち

「愛国」の技法: 神国日本の愛のかたち

*1:ここにおける憂慮は、被占領地統治が困難になること、と、兵士の性病蔓延に対してであり、被害者に対してではない。よって、その問題を人権問題として意識することなく、“女”をあてがっておけばよい、になった

*2:この写真展は、ニコンのヘタレぶりで話題になった安世鴻さんの写真展です

*3:当ブログの 「従軍慰安婦問題から読み解く「ブラック国家 日本」」を参照のこと