シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

メルケルをひっぱたきたい 希望は離脱

英国がEUからの離脱を選択しました。これに関して、日本でも様々な意見が聞かれるようです。
ちょっとコラムを紹介して意見を述べようと思います。

民主的な反乱
英国が国民投票によってEU欧州連合)からの離脱を選択した。
英国経済にとってEU残留にメリットがあることは明らかなのに、経済合理性を超えた投票結果となった。その理由のひとつは、グローバル化による恩恵など自分たちには無縁であり、富裕層がもうかるだけだ、という感情が民衆の間に渦巻いていたからだ。
高度に進展したグローバル経済は放っておくと一握りの富裕層と多数の貧困層という格差社会を生み出す。それを是正するのが政治の役割なのに、ポピュリズム大衆迎合主義)の横行を許した。キャメロン首相という、パナマ文書に絡んで名前が挙がるような指導者の説得に民衆が耳を傾けなかった点で象徴的であり、「民主的な反乱」という見方もできよう。
所得格差に起因するポピュリズムや排外主義は米仏など各国で見られる。厚みのある中間層を持たない国家は社会の対立を招きやすく、政治的に過激で不安定なものとなる。
今回の市場の動揺には流動性の供給などあらゆる混乱回避策が動員されるだろうが、より本質的な観点から、我が国でも広がりつつある所得格差の是正に向けた本格的な政策論議を開始すべきだ。たとえば、所得再分配を進めるため、株の譲渡益や配当など富裕層の金融資産課税を強化し、それを財源に低所得層の負担軽減を図る事も一案だ。
先進国では民衆のいら立ちが暴動にまで発展することはまれだ。しかし、声なき声が投票行動で蜂起した時、暴動以上に世界中の市場を混乱に陥れることもありうる、というのが今回の教訓だ。
当局には追加の金融緩和策や財政出動の検討にとどまらず、構造的な政策対応を忘れないでもらいたい。 (遼)
朝日新聞 2016年6月29日 経済気象台 より)


このコラムの状況説明には若干首を捻る部分も無きにしもあらず、ですが、グローバル化による格差増大とその解消についての提言がある、という点で、常日頃、新自由主義的(別名:しばき主義)を説きたがる朝日新聞としては珍しいと思います*1


朝日も、EU離脱に関しては、判っているのか判っていないのか、今回の問題の根幹に触れることを少し載せていました。つまり、“移民”の問題です。現在、英国内の移民は東欧系の人たちが多くを占めています。EU加盟によって移動してきた人たちですね。彼らは本国より稼げるから、と英国内で低賃金労働に従事します。


EU離脱「自由な労働どうなるのか」 残留派に独立論
http://www.asahi.com/articles/ASJ6T5WF3J6TUHBI01Q.html

カフェのオーナーはエジプト人で、従業員のほとんどがポルトガルポーランドなどEU諸国からの「出稼ぎ組」だ。「ルーマニアでは働いても月300ポンド(約4万2千円)がせいぜい。ここでは月1400ポンド。生活費は高いが、それでもこちらのほうがいい」と話す。


それが、英国の貧困層年金生活者には自分たちの労働や福祉財源を奪う、とみられているわけです。しかし、その怒りと恐れの根源は、英国の近年の政策、とりわけサッチャーから続く保守党の新自由主義的政策(サッチャリズムと呼んでもいいし、財政緊縮策と呼んでもいいが)にあります*2。労働者保護の規制緩和社会福祉支出のあからさまな削減、それらによって苦境に立った人々が、苦境に追い込んだ政府ではなく、EUや自身よりより弱い立場にある移民に怒りをぶつけたのです。
では、なぜ政府ではなく、EUや移民に怒りをぶつけたのか。それは、そのように誘導し、政府(保守党)から目を逸らさせようとしたした連中がいたからです。つまり、キャメロン首相らやジョンソン前ロンドン市長、といった連中。彼らは、新自由主義を正当化し、富裕層と貧困層の格差を増大させました。もちろんキャメロン自身はパナマ文書にも名前が出るくらいですから、富裕層のボンボンであり、サッチャリズムは単に自身らの利益を最大限にしようというゲスい発想にしかすぎません。

規制緩和すればムダが無くなり、競争を呼び、投資を呼び込み、雇用が生まれる、だから(そうは見えないだろうが)、皆が豊かになるのだ。

公共投資は官僚によって使われるため、ムダが多く効率を下げる、だからその分を民間投資に廻せば公共投資より得るものが多い、(そうは見えないだろうが)皆が豊かになるのだ。


大雑把にいえば、これが新自由主義を正当化する口上として使われました。より詳しく知りたければフロムダのダボラブログでも目を通せばいいでしょう。
こうした新自由主義が巧く行かないことは、このブログでも何回も指摘してきました。昨今ではさすがに緊縮策を良しとするような連中はなりを潜めています。新自由主義は格差を生むために需要を落ち込ませ、経済を凹ませます。だから、新自由主義を取った場合、その口上とは逆の結果、ごく少数の富裕層と多数の貧困層に分離させます。ですが、新自由主義の口上を信じたまま経済的苦境に立った場合、現状認識はどうなるでしょうか。


規制緩和によって雇用は生まれたはず、なのに、それをアンフェアな手段で奪う連中がいる


我々以外の官僚主義によってムダが多く、効率を下げる規制が掛けられている。


こうなるでしょう。そのスケープゴートEUであり、移民や貧困層です。

実際に、キャメロンはEUによる規制の害を説き、ジョンソンやファラージらは移民排斥を唱えました。ただ、それは仮想敵であり、国民投票の結果を基にEUに対して自身らにムシの良い提案を呑ませよう、というものだったでしょう。
しかし、目論見が外れた。
自分たちが煽動した人々の怒りの程度を読み違えたのです。
私は以前、英国における格差問題を放置し、怒りを表明する人々を切断処理するべきではない、と説きました。あれから4年あまり。切断処理して放置し、さらに苦境に立たされる人々を増やせばこうなる事は目に見えていました。


名誉白人 in UK
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20110816/1313499796


ケインズをひっぱたきたい 希望は内戦
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20110819/1313761484


EUにも罪はあります。
単一通貨による自由市場、というEUの理念は素晴らしくもなんともありません。EUの自由市場の中では国境を超えて格差が増大しますし、経済力の弱い国々が対策を打ち出す手段さえ奪います。
ギリシャ問題はその一部に過ぎません。EU各国の反EU政党支持の増大は、英国と同じ構図です。
巨大な単一自由市場のおかげで豊かになる、というのは、その恩恵を受けないどころか苦境に立つ人々にとって無価値です。当然、スケープゴートを求めます。
そういえば、日本でも消費増税の話が上がると、ヨーロッパ各国では消費税が高額であり、日本では全然そこまで達していない、というようなことが語られますね。
しかし、ピケティが述べたようにヨーロッパ各国では格差が増加してますし、人々の負担に対する不満は強い。格差を増大させる方向に進むヨーロッパ各国を見習う、のはどうかと思いますね。
EU首脳陣もパナマ文書に名前が見つかるような連中で、富裕層の利益を最大化する事に力を注ぎます。当然ながら、各国の貧困層が怒りを向ける先は想像がつくでしょう。煽動による影響は、フランスやベルギー、オランダ、デンマークハンガリー、多々及びます。

英国には多くの東欧系の人々が職を求めて移住し、英国の人々から職を奪ったように見えます。では、移民者が出てきた国々はどうなっているのか?そこも、やはりEUの犠牲と云える状態です。単一の自由市場に組み込まれた結果、その中で競争力の劣る地域からは人が流出し、人口減少に陥ります。東欧の多くでこうした現象が見られます*3。若い人が出て行った地域でも、不満はEUに向けられます。誰が貧しくしたのか、衰退を招いたのか、と。

つまり、構図としては日本における東京と地方、と同じことです。ただし、日本国内では地方へ財政政策を通じて資金を廻す事が出来る。EUにはそうした仕組みが無かったのが問題なのです。

結局、単一の自由市場として人々の移動の自由まで求めながら、その内部の統一された財政政策が無ければ、再分配機能が無いために人々の生活はどんどん苦しくなる。そして、需要を損ね、経済を縮小させてしまう。


今回の英国EU離脱を受けて、EU首脳陣が問題に気づけばいいのですが、報道から見る限り彼らは未だに気づいていないようです。おそらくは、EUからの離脱の動きは各国で活発化し、それをEU首脳陣は暴力団の脱退者に対する態度並のひどさで対応するでしょう。しかし、そんなことをすればEU各国の人々の怒りは向ける方向が違うにせよ、もっとラディカルに示されることになります。
かつて、赤木智弘が「若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か 」で示したようなものです。

若者を見殺しにする国 (朝日文庫)

若者を見殺しにする国 (朝日文庫)

真の解決策は、富裕層への課税を財源として積極的な財政政策、公正な福祉政策、未来を担う若年層への教育政策、労働環境を改善させる労働政策、こうしたことを実現することです。


多国籍企業の課税逃れに新ルール OECDが対応本格化
http://www.asahi.com/articles/ASJ6Z3W3JJ6ZULFA00J.html

OECDの租税委員会(議長・浅川雅嗣財務官)が30日から2日間の日程で京都市で始まった。会合では、多国籍企業が課税を逃れたり、税負担の少ない国へ利益を移転したりすることに対処する「BEPSプロジェクト」を途上国にも広げ、共通のルールづくりを進めることを確認した。


現実的でない?であれば、今後も人々は自らが不利益になるかもしれない危険な煽動に乗せられる事でしょう。そして、そのツケは必ず貧困層を冷笑的に見る人々にも降り掛かります。決して他人事とは思わないことです。
では。

*1:この経済気象台には、様々な方が寄稿していますが、“山人”という方がましな文を、“安曇野”を始めとした大多数がくだらない文を書いています。

*2:労働党もブレアによる「ニューレイバー、第三の道」で、サッチャリズムの大体を継承した。それを拒絶したのが現党首のジェレミー・コービン

*3:日本でも東欧系の女性が飲食業や風俗業へ従事するケースが多々あります。「稼げる」地域へ移ってきたのです