シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

自滅する地方 三島駅南口再開発篇

先日のエントリーにコメントを頂きました。

斎藤と申します。 2016/07/15 18:35
はじめまして、突然のメールにて失礼します。
貴殿のブログを拝見させて頂きました。斎藤と申します。
私は現在、不動産関係(開発デベロッパー)の仕事で静岡を担当しております。
三島駅南口再開発について、非常に興味を持ってます。本駅の開発はどのような形が良いか、テナント業態、集客ターゲット等、調査をしているところです。
是非とも、三島駅南口開発について、貴殿の考察をご教示頂ければと思い連絡させていただきました。
※現在、計画ではマンション棟と商業棟のコンソーシアムにて、プランを練っている状況です。店舗は一階にスーパー、ドラッグストア、珈琲店、二階に病院と調剤薬局を誘致する予定です。

本開発について貴殿の率直なご意見と、お考えを賜りたく存じます。
一方的なお願いで恐縮ですが、ご検討願います。

http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20150712/1436692086#c1468575344

まず、わざわざコメント頂いて申し訳ありませんが、私自身はそもそも「再開発事業」自体に懐疑的です。なぜなら、県内を調べまくった結果として、いわゆる駅前再開発(≒中心市街地活性化事業)が効果を発揮している事例が無いからです。前々から述べていますが、自動車を交通の中心に据えた郊外開発を進めた段階で、中心市街地に集約的な複合商業施設を造るというのは矛盾した行為となります。ですから、自らの進めてきた郊外化の産物であるショッピングモールに対抗する事は出来ません。地方においては既にショッピングモールでさえも採算に合わなくなり、撤退するケースが増えています*1。このような状態で、郊外型施設を市街中心地に建設し、運営する、というのは決定的に無理があります。


静岡県でいえば、沼津の「イーラde」「BiVi沼津」、静岡の「サウスポット」「エスパティオ」「葵タワー」、焼津の「アトレ焼津」、藤枝の「オーレ藤枝」「BiVi藤枝」、浜松の「アクトシティ」「ザザシティ」これら全てが失敗です*2。恒常的に店舗が閑散としており、行政の補助なしには成り立ちません。


これは、すでに古典として評価されているのに、現在の状況をあまりに的確に言い当てているジェーン・ジェイコブスの「アメリカ大都市の死と生」に記された街の原則

地区は二つ以上の機能を果たすのが望ましいこと。 (つまり単機能になるゾーニングはしない)
2. 道は狭く、折れ曲がっていて、一つ一つのブロックが短いこと。 (幅が広く、まっすぐな道路はつくるべきでない)
3.建てられた年代が違う建物が混じり合っていること。 (古い建物を壊さないで残す)
4.人口密度が十分に高い状態にすること。

http://www.geocities.jp/koyanagimeijin/mailletter37.htm


からも予測される結果であります。

静岡だけが他より若干マシですが、それは静岡市の郊外化があまり進んでいなかったからです。静岡市の郊外化の影響は合併した旧清水市の方へ多く現れています。


ですので、返事が遅くなってから申し上げるのも何ですが、もし、この三島駅南口再開発が三島市の発案によるものであるならば、斎藤様らは手を引かれるのが宜しいかと思います。


三島市は比較的纏まった市街を持った地域ではありますが、郊外化を止める気はなさそうですし、たとえ三島市だけが郊外化を止めようにも長泉町裾野市御殿場市沼津市が積極的な郊外化を進めていますから、中心市街地活性化が上手くいく保証はありません。斎藤様が記された誘致案は、正直なところ駅前(中心市街地)再開発事業の典型例ですので、結果も同じになるだろう、と予想いたします。


もちろん、三島市から金を引っ張れれば構わない、ということでしたら、それでもよいだろうと思います。


それでもなお、というお話なら、私よりも以下の話を参考にされる方が良いかと思います。


あの表参道ブームの仕掛け人 現在は地域再生のカリスマとして活躍 藻谷浩介 清水義次 地域再生の成功学
http://www.dailyshincho.jp/article/2016/06271100/


低予算で実現できる「歩行者に優しい街づくり」成功のカギ
http://wired.jp/2014/10/15/one-thing-every-city-can-pedestrian-friendly/


歩行者に優しい街をボトムアップでつくりあげる7つの方法
http://wired.jp/2014/10/15/7-simple-ways-make-every-city-friendlier-pedestrians/

1.歩行者が回遊できる小さな空間を多数つくる
2.建物には通りから直接入れるようにする
3.「人々の活動」で街を活気づける
4.駐車場は建物の裏や地下に
5.建物と風景の細部を工夫して「人のサイズ」に合わせる
6.わかりやすい地図とサイン
7.「コンプリート・ストリート」をつくる

Getting to Great Places
http://www.designforwalkability.com/


自転車の街へ変貌するロンドン。15年間でクルマは半減、サイクリストは3倍に
http://www.gizmodo.jp/2016/02/bikeinlondon.html


あまり参考にならなくて申し訳ありません。
私は、街は小さく保つべきだ、とは考えておりますが、優先すべきは「自動車に頼らないこと」であり、大概の再開発事業は立体駐車場を設置するなど郊外に対抗すべく“自動車に対応”しようとする事に強く疑念を抱いております。逆に、郊外開発をやめ、自動車交通を抑制するならば、中心市街地の活性化事業もそれなりの価値があるだろうと思います。


ついでに、残念な事例です。


静岡市の「I Love しずおか協議会」というところが、静岡市は駅近くに駐車場が少ないので、もっと造れ、というような事を提言しました。


中心街駐車場「不満」3割 静岡の協議会が調査

静岡市中心市街地の活性化に取り組む「I Loveしずおか協議会」(森恵一会長)は13日、駐車場利用者や設置事業者を対象に実施したアンケート結果を市に報告した。滞在時間や満車時の対応、既存の案内システムなどの現状や課題を共有した。
 アンケートは、街なかのアクセス向上を目的に昨年11月からことし1月に実施し、利用者295人、事業者42社が回答した。利用者の平均駐車時間は、全体の約7割が1〜3時間以内。中心街の駐車に「非常に不満」「不満」を感じている割合は3割を超え、理由は「料金が高い」「駐車場が不足」「空いている駐車場が分かりにくい」が上位だった。
 目的の駐車場が満車だった場合の探し方は「回遊する」が77%で最多。満車・空車情報を看板表示する「市駐車場案内システム」やスマートフォンなどで駐車場情報が確認できる「おまちくーる」があるものの、認知度や活用は低調な現状も浮き彫りになった。

http://www.at-s.com/news/article/politics/shizuoka/260761.html


静岡市静岡県どころか、日本全体で見ても珍しく駅前(中心市街地)の賑わいが比較的保たれている地域です。これは、郊外開発がなかなか進展しなかったこと、が効いていますが*3、自動車利用を促進するような施策を取れば、郊外への商業機会流出は酷くなるでしょう。静岡市はむしろ自動車抑制を進めるべきだと思うのですが。
では。

参考文献

リノベーションまちづくり 不動産事業でまちを再生する方法

リノベーションまちづくり 不動産事業でまちを再生する方法

アメリカ大都市の死と生

アメリカ大都市の死と生

鉄道は誰のものか

鉄道は誰のものか

ドイツ・縮小時代の都市デザイン

ドイツ・縮小時代の都市デザイン

*1:薄利多売形式の大規模商業施設は、その地域経済の衰退に大きな影響を受けるため、迅速に撤退する

*2:これら以外にもマンション併設型があるが、店舗は大体赤字っぽい。ここには、熱海、御殿場、裾野、富士、清水、島田、掛川、袋井、磐田などが無いが、現在、再開発中のところと既に破綻したところがある

*3:静岡市でも近年は、安倍川西岸地域や草薙・瀬名、小鹿・大谷、駅南地域など郊外地の区画整理事業を進めたこともあって大型店舗出店による地域衰退が顕在化してきています。しかし、静岡県の他の地域と比較して未だ保たれた状態ではあります