シートン俗物記

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ブラジルが売られる

ブラジル新政権民営化を加速 ボルソナロ大統領
サンパウロ=外山尚之】1月に発足したブラジルのボルソナロ政権が公営部門の民営化を推進する。第1弾として18日、国内12空港の民営化手続きを進めると発表した。事業規模は35億レアル(約1千億円)以上の見通し。ブラジルでは財政難から公営インフラの投資が滞り、劣化が進む。財政支出を抑え、設備、サービスの質を上げられるとして港湾など幅広い分野にも導入する。
ボルソナロ大統領は北東部、中部、南部の地方空港の民営化案を発表した。ブラジルではビーチが近いレシフェ空港、ボリビア国境近くのクイアバ空港など乗降客が多い空港がある一方、乗降客が少なく採算性が悪い空港が比較的近い地域に立地する。国土が広く、飛行機が市民の“足”として定着しているためで、空港運営が難しい理由となっている。
民営化案では、採算性の良い空港と悪い空港を地域別にまとめて運営させ、効率を上げる。受託した企業は乗降客が少ない空港にも設備投資をしやすくなり、インフラの劣化を防ぎやすくなる。
入札日は3月中旬としており、7月以降に契約を結ぶという。ボルソナロ氏は就任間際に素早く民営化手続きを進めることで、改革派をアピールする。1月には自身のツイッターで4つの港湾を民営化することも打ち出している。老朽化が進みつつある高速道路も候補になりそうだ。
ブラジルはこれまでも空港を民営化してきたが、12もの空港を一気に民営化するのは初めて。同国では独フラポートやシンガポールチャンギ空港の運営会社などが空港運営に乗り出しており、これらの企業が入札に参加するかが注目される。港湾、配送電網などで買収攻勢をかけている中国企業の可能性もある。
民営化の旗と振るのは経済学者出身のゲジス経財相だ。ノーベル経済学賞を受賞した米経済学者のミルトン・フリードマン氏の下で学んだ同氏は、国営企業の民営化、年金支給額の抑制による財政再建などを強く主張する。
20日には年金支給開始年齢の引き上げを柱とする年金改革法案が議会に提出された。ボルソナロ大統領、ゲジス経財相の改革は着実に進んでおり、民営化も急速に広まるとみられる。
今後、政権が民営化に本気で取り組むのかどうかをはかる目安となるのが、前テメル政権下で頓挫した案件だ。前政権は2017年8月、中南米最大の国営電力エレトロブラス、ブラジルで2番目に利用客が多いサンパウロコンゴニャス空港などを候補とする民営化案を発表したが、実現しなかった。
公営部門が肥大化したブラジルでは収益性が高い案件は労働組合などをはじめとする既得権益者が多く、民営化に様々な勢力が抵抗する。こうした難しい案件を実行できるかどうかで、企業や投資家の評価は変わりそうだ。

 

財政難 投資は限界 インフラ崩壊に危機感
サンパウロ=外山尚之】 ブラジルでは財政難からインフラ投資が滞り、トラブルが相次いでいる。高速道路の橋ではヒビが見つかり、国立博物館では火災が起きた。きちんとメンテナンスしていれば防げたとみられ、「インフラの崩壊」と嘆く国民も多い。財政難の原因は2016年のリオデジャネイロ五輪の支出、前の左派政権のばらまきなどが指摘され、立て直しが急務だ。
経済協力開発機構OECD)の調査では00年から17年までの平均で、ブラジルの国内総生産GDP)における公共投資額の比率は1.92%と、OECD加盟国平均の3.51%を大きく下回る。数少ない公共事業費はサッカーW杯やリオ五輪の整備に回され、基礎インフラが後回しにされてきた。50歳代からもらえる年金制度など手厚い社会福祉も財政悪化の一因。民間シンクタンク、ジェトリオ・バルガス財団のブラジル経済研究所のマノエル・ピレス氏は「ブラジルの財政は社会福祉により圧迫されており、連邦政府・州政府とも公共投資に十分な予算を振り向けていない」と分析する。
民営化に対するボルソナロ政権の期待は大きい。しかし、民間の資金とノウハウを頼りにして、財政再建を進めないままでは公共財産を切り売りしているだけだとの批判は免れない。年金改革案をはじめ、抜本的な構造改革ができるかどうかがカギと言えるだろう
日経産業新聞 19年2月27日)

 

スゴイですね。日経新聞社、未だに新自由主義ミルトン・フリードマンの亡霊のような主張をダラダラ連ねる特派員を派遣するなんて。しかも、そのひどい主張を記事にするという大惨事。
ボルソナロ大統領といえば「ブラジルのトランプ」と異名を取り 実際にトランプ氏と仲が良いそうで、旧軍事政権下の人権侵害すら無視するどころか称揚するクソのようなヤツですが*1、そうした問題は見事にスルーし、公共財産の売却を進める態度を褒めそやす始末。
どっかでみたような話でしょう?ミルトン・フリードマンは教鞭を取ったシカゴ大学において、極端なほどの古典的自由主義新自由主義)を、特に中南米富裕層の留学生に振りまきました。通称シカゴボーイズ。その名はチリのピノチェト政権における新自由主義の実験で知れ渡りました。
 
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民営化(=公共財産の私物化)と緊縮財政は、チリだけでなく、それを真似たイギリス、アメリカを始めとして世界中で流行しましたが、大体、同じような結果を招いています。大失敗だった、ということ。

 

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つまり、緊縮財政による経済停滞と、一般市民の窮乏化と一部富裕層の富の膨張、つまり格差の増大です。日本では現在、大っぴらに緊縮財政が素晴らしい、というバカは減りましたが、巧みに隠ぺいしながら進行中の事態を、堤未果さんは「日本が売られる」と喝破しました。

 

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ブラジルでは、それが大っぴらに行われているわけですね。
先ごろ話題になった「ファクトフルネス」でもちょっと触れていますが、ブラジルでの富の偏在はひどいものです。

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このクソのような特派員の記事とは異なり、本当に問題なのはこうした富裕層に適切な課税が出来ないことです。彼らのような富裕層およびそれが保有するコングロマリットこそが真の意味での「既得権益者」なのですが、労働組合を真っ先に既得権益者、に挙げる新聞記者。もう、新聞記者などではなくて、富裕層のケツ舐めでしかありませんね。

 

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今後ブラジル(そして、同様に公共財産が売られる日本)がどうなるかですが、おそらくは経済の縮小は避けられず、中間層が減り、貧困層が増え、人種問題*2も併せて社会不安が募ることになるでしょう。

 

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その動揺をおそらくは、強圧的に、かつての軍事政権そのままの態度で、抑え込もうとするでしょう。
中南米の特派員というのはどいつもこいつも「シカゴボーイズ」的な態度が気になります。朝日新聞の岡田玄やその前の特派員の田村剛などもひどいものです。
彼らがネグっていることですが、アルゼンチンでは現在、緊縮王IMFに押し付けられた緊縮財政の真っ最中。なのに、政策金利は一時70%、現在でも40%以上、というそら恐ろしい状況です。
 
為替とインフレ率、安定的に推移との見方増える(アルゼンチン)

想像できますか?銀行金利が40%以上で、財政支出が極端に絞られている社会を。おそらく、一般人や中小企業などは資金確保すらままならないでしょう。考えるだけでゾッとします。ですが、そんなアルゼンチンの情報は朝日や日経の紙面には載らないのです。左派政権の時は、さんざん攻撃対象として取り上げていたのに。
ベネズエラもきっとマドゥロ政権*3が倒れ、そして富裕層が推す政権に代われば、ベネズエラ貧困層の話はおくびにも出なくなるでしょうね。今度はボリビアかメキシコあたりが標的になるでしょうか。

 

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いい加減、世界中、真っ当な政治を行なうべきなのです。
富裕層から富を取り返して、貧困に苦しむ人々に再分配する。そして、社会福祉や教育、医療に潤沢な予算を付け、安心できる社会を作ること*4。それが今一番必要なことじゃないでしょうか。
では。

*1:銃規制も緩和したそうですし、貧困層への蔑視的態度も酷いものです

*2:ブラジルでは、先住民やアフリカ系、その混血の人々の多くが貧困層です。ヨーロッパ系移民との経済格差は大きいですが、ヨーロッパ系も大半は豊かというほどではありません。よって、今回の選挙に見るような貧困層を突き放すような主張が受けたのです。これは、中南米の各地で見られる構図です

*3:マドゥロ政権を独裁として非難する米トランプ政権ですが、もっと大っぴらに独裁を布いているサウジアラビア等は擁護するわけですから、問題視しているのは独裁でも民衆弾圧でも無い

*4:アメリカではバーニー・サンダースエリザベス・ウォーレン、アレクサンドラ・オカシオ・コルテス、ベト・オルークら、イギリスならジェレミー・コービンら、フランスならメランショに期待しています。日本ではそれを主張しているのが共産党立憲民主党でしょうか