シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

アメリカに必要なのは融和ではなく、一層の分断

昨今、日本の政治・経済状況の悪化は著しいことを何回か嘆いてきましたが、アメリカも酷いものです。トランプの思いつきとさえ云えないような行動に振り回され、深刻な状況になっていますね。民主党の政権奪還かトランプ再選か、となると必ず現れる言葉に、(アメリカ)国内の融和、というのがあります。最近だとオバマ氏らまで登場して、寛大と融和を説いちゃったりしてますけど、私はこれには異なる意見を持っているのです。


元大統領4人、米の分断憂う 黒人暴行死で相次ぎ発言
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020060400707&g=int


アメリカに必要なのは融和などではなく、いっそうの分断、そして分割です。
というのも、アメリカは“すでに分断”されているからです。


以前、取り上げた金成隆一氏の「トランプ王国」にはアメリカの白人保守層に拡がる“風景”*1が描かれています。そして、その彼らが描く“本当のアメリカ”の姿、ハッキリと分断されたそれは、アメリカが一つではない、ことを示しているのです。



実際に、この姿は現在のアメリカの姿を正確に捉えています。東・西部海岸地域(北部13州やカリフォルニア州など)は民主党が強くリベラルな土地柄。中・南部地域(テキサスやアラバマミシシッピルイジアナなど)は共和党が強く保守的な土地柄。大統領選挙でもこの傾向は鉄板で、両勢力が均衡している州がスウィングステートと呼ばれて大統領選の帰趨を決めるのです。
これらの州を比較してみましょう。

各項目 東・西部海岸諸州 中・南部諸州
政治姿勢 リベラル 保守
大統領選 民主党支持 共和党支持
銃規制 賛成 反対
中絶権利 賛成 反対
宗教 多様 キリスト教
進化論 受容 拒絶
世界像 地球 世界は平坦
LGBT権利 受容 拒絶
男女平等 受容 否定的
ヘイトスピーチ 拒絶 受容
労働権利 積極的 消極的
国民皆医療保険制度 積極的 否定的
社会福祉 積極的 消極的
教育 積極的 消極的(宗教的なものは許容)
温暖化対策 積極的 否定的
国際関係 積極的 消極的
安全保障 多国間主義 単独主義

大雑把に抜き出してみました。実際には州内でもグラデーションがありますし、一つに括れるわけではありませんが、大まかな傾向というヤツですね。
我々がステロタイプ的に思い浮かべる“アメリカ人”とはこれらの集積体であって、テンガロンハットをかぶってブーツを履き、銃を腰にぶら下げるような輩はニューヨークにはまずいませんが、テキサスではありふれていたりします。東・西部海岸諸州と中・南部諸州では社会・産業構造も人々の意識も、信じるものも、大きな違いがあるのです。


アメリカ国内の融和を説く人々は、一つのアメリカ、を強調しますが、これほどのギャップを埋めることは難しい。政策は妥協的にならざるを得ず、問題解決に繋がることは少ない。
アメリカ全体の政策は1970年代より保守的なものになってきました。共和党の大統領が保守的・新自由主義的政策を打ち出し、民主党の大統領はそれに歯止めを掛けようとするが不徹底、という流れです*2


さて、こうしてみると、互いに想像を廻らすことも難しい人々を融和させることは困難でしょう。


人間様はサルが変わった生物などではなく、神が創りたもうたもので、女は男から神が創ったから劣る存在で男に逆らう女は生意気だ。生殖の権利?売女のタワゴト。黒んぼは野蛮で、メキシコ人は盗人で、アジア人はずる賢い。銃保有憲法修正第二条に記された権利で、家族や社会を守るのに絶対必要だ。社会保障医療保険制度?甘えだ甘え。貧乏人は自己責任だし、カネを恵んでやるとツケ上がる。教育だと?聖書に書かれていることだけ教えときゃいいんだよ。世界は丸い?聖書にそんなこと載って無いぞ。勉強したヤツなどロクなもんじゃない。


こういう人たちと融和、っていってもねぇ。


女性・マイノリティ差別が激しく、自分に甘く他人に厳しく、すぐに暴力に訴え、子どもの教育にも不熱心。こういう夫がいる夫妻が「家庭が上手くいかなくて」と言った場合、融和を説きます?
「互いに理解しあえ」だの「協調してやっていかないと」とか言いますか?
離婚一択でしょ。
さっさと別れた方が良いですよ。そうアドバイスするでしょうが。


なので、アメリカは人々の意識も、社会・産業構造も、望む社会像も地域で差があるのですから、その地域で分割してしまった方が良いと思うのです。それぞれの国をどう名づけるかは知りませんが、仮にUSAとCSAにしましょうか。どうせ、かつての名前でもあるのだし。政策も似たようなもんでしょう。それぞれ気に入る政策の側に移り住んでもいいですし。
内戦でも何でも、他国に迷惑を掛けなければ好きにして貰えばいいと思います。
では。

アメリカ第二次南北戦争 (光文社文庫)

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壁の向こうの住人たち――アメリカの右派を覆う怒りと嘆き

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一応、本気にされるとなんなので言っておきますと、安易に融和を説くのは”足して2で割る”ことにしかならない、という話です。

*1:アーリー・ホックシールドが指摘した、白人保守層の主観的アメリカの現状

*2:クリントン新自由主義的という意見もありますが、彼も当初国民皆保険制度の創設を打ち出していました。しかし93年の共和党による下院支配、「保守革命」によって制約され、方向転換しています。銃器規制も同じです。