ども。お盆の楽しみは渋滞見物。シートンです。
イギリスの暴動が問題になってますね。以前、私は
新自由主義という醒めない悪夢
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20100730/1280494314
というエントリーを上げました。金融危機に際して財政縮小すれば、ダメージが大きくなるよ、と指摘したのですが、今回のイギリスの状況も予想を裏切るものでは無かったようです。
が、暴動に際して、社会的問題を矮小化しようとする動きがありますね。
気になったのが、ロンドン暴動は「【いちばん近いのは日本の「成人式の大暴れ」。あれです。】」というヤツ。
ロンドン暴動、在英京都人作家・入江敦彦さん(athicoilye )の考察。
togetter.com/li/172491
なるほど、と思いました。ただ、私とは「成人式の大暴れ」に関する見方が違いますが。
毎年の成人式の大暴れで一番“派手”なのが、沖縄のソレです。とりあえず、「沖縄 + 成人式」でググってみると判ります。
沖縄で成人式が暴動じみたものになる背景として、沖縄若年層の高い未就業率(失業率)と本土との格差、差別問題があるのは、常識とも云える話です。「成人式の大暴れ」に似ている、というなら、暴動の背景にも同様の問題があるのは透けて見えるわけですね。実際、そのとおりな訳ですが。
でも、“日本の「成人式の大暴れ」”という形で矮小化が為される。結構な話です。沖縄の問題に無関心なように、イギリスのおける格差・差別問題が“見えない”のなら、その人の無関心さを示すだけというものです。
さて、「暴動」ですが、以前、このような話がありました。
ハリケーンカトリーナがニューオーリンズを襲いました。その大災害の際にしきりに強調されたのが、「略奪」です。
第6回
ハリケーン被災であらわになった米国の人種問題〜なぜ、特定の人種だけが略奪するのか〜
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/06/
今年になってもこんな事を書いてますが。
アメリカなら自然災害では略奪も
http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/2197490/
カトリーナ問題で重要だったのは、行政の対応の拙さとそれによって露呈した被災民の差別問題だったのですが、その中で「略奪」がクローズアップされ、被災民の不法行為に矮小化されてしまったわけです。
同じように、ロンドン暴動も矮小化されています。それも、ロンドン在住日本人によって。
どうみても、その振る舞いは「名誉白人」としか云いようがありません。
一番、気分悪かったのはコレ。凄いこと書いてますよね。これを「腑に落ちる」とか「納得できる」とコメントできるヤツの神経を疑いますが。
イギリス暴動の裏にある鬱屈と絶望について
http://anond.hatelabo.jp/20110816094649
ここで、イギリス人なら誰でも知っているトリックがある。子供がいて、しかも親がシングルマザーだと、フラットが優先的に廻ってくるのだ。こうなると、親から独立したい、しかし職がない子供にとって、手っ取り早い手段は妊娠と言うことになる。かくして、イギリスは先進国でも突出して10代の母親が多い国になった。しかも、子供が生まれると一人当たり週に12〜20ポンドのChild benefitが支給される。また、シングルマザーだと上の生活手当も週に40ポンド前後は増額される。このため、パートナーがいても敢えて結婚せず、シングルマザーになる母親が多い(当然の結果として、その後別れて本当のシングルマザーになる確率は高まる)。母親ひとりに子供一人で月500ポンド(約7万円)あれば、正直生活には困らない。
書いていることがメチャクチャ。このレベルの住居に500万人の希望者がいて、その住居を得る手段が「妊娠+離婚」って、どんだけ絶望深いんだ!それで、「イギリス国民には、食べるに困るレベルでの貧困は(概ね)存在しない。」って、「貧困」についてどう考えているのだ?
日本より恵まれてる!と云いたい輩は、奴隷の鎖自慢はヤメとけ、ってところだが、貧困について入門的な説明はこちらを。
岩田正美『現代の貧困』、および「前衛」07年7月号(紙屋研究所)
http://www1.odn.ne.jp/kamiya-ta/gendaino-hinkon.html
とはいえ、貯金は難しい。それに、貯金額が6000ポンドを超えてしまうと支給額が減額されてしまうので、そもそも貯金する理由がないのだが。ちょっと大きなTVを買おうとすれば、夜遊びを楽しみたければ、その分働くしかない。
イギリスにおける低所得者層の賃金水準は、日本のそれと比べても恵まれているとは言い難い。日本においても貯蓄が無い世帯割合は2割にのぼる。それを、「貯金する理由がない」と決めつけるわけね。しかも、働く理由が「大きなTVを買う」「夜遊びを楽しむ」*1と決めてしまうわけだ。
問題なのは子供だ。託児所に預けたいところだが、ロンドンの託児所は1ヶ月フルタイムで1000ポンド。平均所得層ですら厳しいこの金額を彼らが払えるわけはない。
低所得層・貧困層ほど片親、というのはよく知られている話なので(私でも知っているほどに)、託児所が低所得層・貧困層に開かれたものではない、という証拠ではないの?これで後ろで述べているような「福祉の行き過ぎ」というのは、どういう認識なんだ?
こんな状況では学校に行くのは苦痛でしかない。カウンシルフラットの周りでは、昼間から特に何をするでもなくぼーっと座っている子供達をよく見かける。
この様な子供が成人して職に就くのは、非常に難しい。肉体労働系なら大丈夫だろうが、ポーランドからの出稼ぎ労働者の方が高いスキルと低い給料で働いている。それよりも低い賃金では、生活保障の支給額を下回ってしまうので、働く意味がない。こうして、カウンシルフラットで生まれた子供は、またカウンシルフラットで自分の子供を産むことになる。ちなみに、失業手当の受給者数は約150万人。人口が倍の日本では80万人だ(失業率は8%弱)。別制度のincapacity benefit(病気などで働けない人のためのもの)の受給者は250万人(人口の5%弱)を超えている。
という事を書きながら
それでも、ブレアが政権を取った1997年以降、イギリス人は低所得層との格差を縮めるために税金を投入する政策を支持してきた。小学校低学年は30人学級となり、小学校入学前に児童の学力を底上げするためのプログラム(SSLP)にも1000億円の予算が付き、補習授業は大きく拡充され、挙句には、高校をドロップアウトする生徒を減らすために、出席率が高い貧困家庭の生徒に補助金まで出した。職歴のないシングルマザーにはコンサルティングから面接の訓練まで提供している(一人当たりのコストは10万円)。
にも関わらず、今回の暴動だ。これを「先進国とは思えない、途上国の光景のようだ」と思った人はイギリスにも少なくない。ブレア政権の教育改革がスタートしたのは99年前後だから、今回の暴徒の大半は改革された教育制度の下で育ってきた子供達である。これだけの負担をしていながら、なぜ途上国のスラムのような光景を見なければならないのか。これに絶望せずにいられるのは、やはりよほど心の強い人間だけだろう。
それ以前の、サッチャーやメージャーの「小さな政府」が20年近くに渡って、福祉政策財源を削りまくり、規制緩和によって労働環境を悪化させた事をガン無視。しかも、託児所も無い、職も無い(働きたがらないというのはどこから来る偏見なんだ)、状況で、これだけ手を尽くしてやった、ってのは冗談でしょ?典型的な「貧困の再生産」状態じゃないの。
サッチャーもメージャーも一応は英国民の信託を受けたのだし、ブレアは「第三の道」「ニューレーバー」を掲げて、「中道」(つまり、サッチャーよりはちょっと左)を選択した、にすぎないわけで、何処を指して“これだけの負担”呼ばわり出来るのだろう。
そういえば、反社会学講座のなかで、こんな文があったっけ。
アメリカのステファニー・クーンツさんはこう指摘します。実際には社会福祉予算の多くが中流層のために使われているのに、中流の人たちは「政府は貧困層へのほどこしばかりする」とごねるものだ、と。
(反社会学講座 第20回 スーパー少子化論争 より引用)
だいたい、テメエのケツも拭けない金融機関にイギリス政府はどんくらい親切だったと思ってんでしょう?
サブプライムローン問題を振り返る――これまで行った対策、措置
http://monetaryjournals.seesaa.net/article/112051020.html
10月13日 イギリスが大手金融機関3行に総額370億ポンド(約5兆円)の資本注入を発表
それにしても、
秩序を失えば人間は(誰であれ)動物になりうると言うことを、今回の暴動は証明した。
動物ですって。典型的な切断処理ですなぁ。
上で書いたincapacity benefitだが、悪用して海外旅行まで楽しむ輩が多く出た上、一度受給者になると死ぬまでもらえるので、就労意欲がゼロになる。
これ、日本の派遣村騒動の時と同じ差別的言説だよね。コイツ(アイツ)らは怠け者で、金をやれば働かない、って。
参考例:派遣村「真面目な人なのか」発言 ネットでは擁護論目立つ
http://www.j-cast.com/2009/01/06033224.html
派遣村を見て
http://okwave.jp/qa/q4606638.html
1、貯金はないのに、酒やタバコなど買う金はあるのですか?
2、テントや厚労省の建物でダラダラしてるように見えるけど、必死で職探しはしないのですか?
3、インタビューを聞くと政府への不満ばかりですが、ボランティアや建物を貸してくれた厚労省への感謝の言葉はないのですか?4、派遣村が撤収されましたが、後片付けをしてないのは何故ですか?厚労省の建物も、清掃をしたのは厚労省の委託業者でしたね。
こういう常識がない人ばかりでないのは承知していますが、実際に派遣村を見た(家が近くにあるので)感じでは、派遣村でダラダラしてるしか見えませんでした。
名誉白人のダンナ。ロンドンの事情通でなくても、日本でも何度と無く通ってきた偏見でございますわよ。
おそらくは、1930年代のドイツや1960年代のアメリカ南部でもね。
上でも書いてきたように、手厚い社会保障制度それ自体が受給者と、その子供や孫の未来までをも奪ってきたという側面がある。
どこが手厚い社会保障制度、なんだろう。上で取り上げてきた通りなら、規制緩和とやらで雇用の場を奪ってきたのを端金渡して黙らしておく、構図でしかないだろうに。
何より、イギリス経済はこれ以上の負担にはもはや耐えられない。ならば、社会保障は削減しつつ、彼らに可能な限り働いてもらうしかない。Benefit Busters (興味のある人はyoutubeで検索すると良い)などを見ているとなかなかに大変そうではあるが、もう選択肢がないのである。
規制緩和、「小さい政府」とやらで雇用の場を奪ってきて、どこで“働いて貰う”のやら。
ポリー・トインビーやグレッグ・パラスト、ケン・ローチらが警告してた通りになっただけ。
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もうダメダメだわ。現地の人間がどうこういうレベルかよ。これと同じ話だろ。
アンタッチャブル
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20080623/1214212540
西成のあいりん地区(釜ヶ崎)で暴動が起きている件
http://d.hatena.ne.jp/toronei/20080617/A
実感主義の危険性
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20101230/1293698188
名誉白人さんが語ってくれる現地の“本当の事情”とやらにはウンザリだね。それにしても、イギリスに住む日本人ってのは、ゲスが多いな。まぁ、金のあるヤツしか住まないだろうから仕方ないか。
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