ゲド戦記見てきました。希望していたわけでは無かったのだが。
周囲からチラホラ前評判は伝わってきていたので不安ではあったのだが、いざ本編が始まると不安的中。
キャラクターの表情が伝わってこないなぁ、とか、動きが今ひとつ伝わってこないな、などと考え始めてしまった。まあ、父親の偉大さを重ねて辛く見ているところもあるからなぁ、と考えつつも、至る処の粗さが目につき始める。しかも、全然ストーリーが理解できないし、キャラクターにも感情移入できない。どちらも、脚本と演出のネリが甘いため。
まず、ゲドはいったい何だ?偉大な賢人という事になっているのだが、それを思わせるところが全くないのだ。
アレンも同じ。なぜ父を刺したのか、もう一人の自分とは何か、何が不安だったのか、最後に自分とどう折り合いを付けたのか。まったく理解できない。
テルーも最後の唐突な竜への変身はいったい何だろう。それらしい伏線あっただろうか。アレンに真の名前を伝えるシーンに竜が登場するが、あれが伏線なの?竜が登場したのもビックリだったが、それが伏線ですよ、というのにはさらにビックリだ。
主人公がこれだから、他も同じ。テナーとゲドの絆の深さを示すところ無し。クモって、まさかあれが「世界の均衡を破る存在」なの?手下が10人もいないんじゃ強敵と感じさせられないだろう。
こんな具合だから、最後まで何をやっているのかさっぱり理解できなかった。「終」の字を見た瞬間腰が抜けた。いったい、何が解決したというのだろう。
ジブリ映画から引っ張ってきた部分は幾らでも窺える。屋根が抜けてぶら下がるところとか、階段が破壊されてジャンプして駆け上がるとか、人質を取られて塔の上で取り合いとか。
パクリだ、と言うつもりはない。ただ、引っ張ってきたものが充分に生かされていない事は確かだ。結果としてただパクったようにしか見えない。
ゲド戦記の映画化はアーシュラ=K=ル=グィン自身がジブリに求めた、と聞く。この映画の脚本はル=グィンに見せたのだろうか。これ見せて上映OKになったとは到底思えない。
もちろん、やりたいことの方向性は見える。シュナの旅がもう一つのモチーフだそうだが、どちらかというと、太陽の王子ホルスの大冒険の方が根底にあるような気がする。
でも、その辺がキチンと脚本に盛り込めていないし、演出も未熟だ。
全てが中途半端で未熟、ずばり経験不足と云えるだろう。それは仕方ないことだと思う。監督第一作であることを考えれば、ここまで作った事はむしろ驚嘆する。
未熟な監督をフォローし、脚本や演出にダメを出して練り直させ、作画や進行を統御する人はいなかったんだろうか。鈴木プロデューサーは何をやってたんだろう。
未熟な監督を育てるのなら、短編などから始めてもよかったし、ゲド戦記に拘るなら第一作から連作で作ってもよかった。これは、こないだの窪田晴男氏のコラムそのままが云える。大人として新人を育てる覚悟が周囲に無かったのだ。
ただ、背景の絵はキレイだったし、菅原文太も香川照之もよかった。岡田准一も違和感がない。及第点は到底やれないが、経験を積めば結構いい作家になる気もする。
ただし、この映画が失敗であったと認識する事が必要だ。映画館は満席だった。興行収入もそれなりに伸びるだろう。他に強敵はいないし。
これを自身の力と驕るようでは困る。
ホテルルワンダとか白バラの祈りとかヒストリーオブバイオレンスなんかの映画評も書いてあるんだが、タイミングを逃してお蔵入り。
DVD発売か何かと絡めて出そうかな。
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