シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

買ってはいけない

もう、随分と昔になるが「買ってはいけない」の著者の一人、船瀬俊介氏と飲んだ事がある。
当時、「買ってはいけない」が大反響を呼んだころである。
知人が講演会に関係した事もあって、講演会後の打ち上げに付き合ったのだ。


酒宴の中、船瀬氏は自分(シートン)が物理学の研究をしている、と知って
「宇宙エネルギーってありますよね。」
と云った。
自分の専攻は固体物理学なんであまり詳しいとは云えないが、宇宙エネルギーが存在しているのは確かなので
「ええ、存在しますよ。」
と応えたら、周囲の人に向かって
「そう、宇宙エネルギーってのが存在するんですよ。それはどこにでも存在して無限にあるから、宇宙エネルギーが取り出せれば、エネルギー問題は解決するんです。」
と語った。
もちろん、これは大間違いである。
宇宙エネルギーとは、「真空の基底状態のエネルギー準位」を指す。確かに、どこにでも存在するし、無限に存在するが、エネルギーを取り出すなら宇宙エネルギーより”高い準位”か”低い準位”が必要だ。その準位の差が取り出せるエネルギーになる。


平たく云ってしまえばこうだ。海水は大量の熱エネルギーを持っている。その熱量自体は人類が費やす熱量より遙かに巨大だ。しかし、その巨大なエネルギーを取り出す事は出来ない。出来るのは、海水より高い熱源を用意するか、低い冷源を用意する他無い。エネルギーとは量の問題では無くエントロピーの問題なのである*1、が船瀬氏に限らず勘違いする人は多いのだ。

 はじめが「物理的インフラ」。これはいわゆるインフラ、道路や電気、ガスなどの社会整備基盤を指す。2つめが「エネルギーインフラ」。3つめが通信インフラ、4つめが金融インフラだ。今回は主に2から4つ目のインフラについての話で、まずエネルギーについて。量子力学の大家であるディビット・ボームの言葉を引用しながら、全く新しいエネルギー資源の実現について紹介された。

 ボームは「1立法センチメートルの中に我々が知っているすべてのエネルギーより多くのエネルギーが含まれている。」と言い残している。ピーターセン氏はこういうエネルギーを“ゼロポイントエネルギー”と呼んでいる。
 空間からエネルギーを取り出せるといった考え方は、物理学の鉄則中の鉄則であるエネルギー保存則をひっくり返すような印象があるため、ほとんど科学の現場では無視され続けた考え方であり、一部の“ニューサイエンス”と呼ばれる人たちの間でのみ扱われてきた。今まで“オカルト”的な言葉で片付けられてきた領域にもその調査を進めているようになったことは興味深いことである。あと3〜5年くらいでこのエネルギー源の実用化の見込みがあるという。そうなれば現在のエネルギー源である化石燃料、ウランなどのように遠路から運び、廃棄物や多くの問題を出しながら使われるものが作り出す世界とはまったく異なる様相を呈すだろうという。

持続可能な社会の青写真 5つの大転換

http://www.ecology.or.jp/member/sust/0011.html


そんな話をしながら、船瀬氏はキリン「一番搾り」も飲んでいたし、店の餃子も食べていた。ハッキリとグルタミン酸調味料の味がするヤツを。


船瀬氏が講演や宴会でしきりに語っていたのは、「商品に対する(消費者の)選択」だった。
それも、消費者がキチンとした知識を得た上での選択だ。現在も含めて、消費者が正確な知識や先入観、真っ当な選択肢を持ったことがあっただろうか。


例えば、コンビニで焼きそばパンを買ったとする。これは単に自分の好みだが、そのパンには当然含まれている物が書かれている。
ソルビン酸Na、アスコルビン酸、結着剤、膨張剤、天然着色料、甘味料、etc。
え、やきそばやパンにそんな物入れる必要あるの?と考えても、なにせ入っている。仕方がない。調べてみれば、「ソルビン酸Naは保存料、アスコルビン酸酸化防止剤、結着剤はハムに入れるのか、膨張剤はパンを膨らますらしい、着色料はどれだろう、甘味料って何?」となる。何のことはない、消費者側の問題ではない。メーカーが製品出荷に必要、と云うだけの話だ。町のパン屋さんで作りたての焼きそばパンを買う分には、そんな添加剤は必要ない。
だが、町のパン屋さんは、大手メーカーに駆逐されている。
身近に手に入るものは、大手メーカーや流通大手を経なければ手に入らなくなりつつある。


そういう状態で叫ばれたのが「買ってはいけない」だった。


確かに、「買ってはいけない」の内容にはハッキリとした間違いや疑問点は多い。
だが、市場の寡占化が進み、手に入れられる物の選択肢が狭まり、たとえ表示がされていても、なんのために添加物が含まれているかを知らない。入っている事が当然、の先入観の中ではインパクトがあったのだ。それゆえに評判になったといえる。


買ってはいけない論争」の後、雪印乳業問題やBSE問題があった。そこでは、常に生産者側の論理で生じた問題が消費者側にツケを廻すという状況があった。


食品添加物が有害か有害でないかは、本来大きな問題ではない。何故含まれているのか、誰のために含まれているのか、含まれていない物は選択できるのか、自分たちで考える事こそが重要だったのだ。
選択肢を設けた後で、リスクを甘受する選択をする、それは有りだと思う。
それは、食品に限った話ではない。
電気製品にしろ、何にしろ、本当にそれは必要なのか、他に選択肢はないのか、それが必要だ、と思いこまされていないか。
先入観を取り払って、自分の必要とするものを見直してみる事が大事だと思う。


新・買ってはいけない〈2006〉 (『週刊金曜日』ブックレット)

新・買ってはいけない〈2006〉 (『週刊金曜日』ブックレット)

食品の裏側―みんな大好きな食品添加物

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追記:写真はパーマカルチャーセンターで頂いた食事

*1:エネルギーの質、つまりエントロピーの大小を考えるのをエクセルギーと云う