シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

原子力の不経済学

結構、昔の話なのだが、今頃になってアップ。

予算でみるエネルギー問題
原子力?それともバイオマス

2006/09/01
狩集 浩志(日経エレクトロニクス

 経済産業省が2007年度予算に対する概算要求を発表しました。同省では,原油価格の高騰やアジアを中心とした世界的なエネルギー需要の増大など厳しいエネルギー情勢を踏まえ,省エネルギー対策と原子力の推進,新エネルギー対策,運輸エネルギー次世代化などを重点課題に掲げています。

 原子力については,2030年以降においても発電電力量に占める原子力発電の比率を30〜40%程度以上とすることを目指す「原子力立国計画」に対して,今年度は1900億円と2006年度予算の13%増となる概算要求を出しています。

 一方,運輸部門のエネルギー消費の石油依存度を80%程度とすることを目指す「運輸エネルギー次世代化計画」に対しては,2006年度予算の 20%増となる624億円に強化するとしています。同計画は,バイオマス由来燃料や天然ガスなどを起源とする合成液体燃料(GTL),電気や水素の利用などについて中長期的観点から取り組むというもの。

 注目すべきは,バイオマス由来燃料の利用を図るため,エタノールとイソブチレンを反応させて生成する燃料「ETBE(ethyl tertiary butyl ether)」の給油所への導入実証事業に10億円を,バイオエタノールを3%混合したガソリン「E3」の地域流通事業に8億円を今年度から新規の予算として要求しています。さらに,GTL技術の実証研究への予算を2006年度予算の17億円から72億円に増額要求しています。

 このほかにも,ハイブリッド自動車や電気自動車などの新世代自動車を普及させるため,蓄電池の低コスト化と高性能化を目指す「次世代蓄電システム実用化戦略的技術開発」への予算を2006年度予算の8億円から50億円に増やす要求を出しています。

 2007年度の概算要求は脱石油に対する予算を拡充させているように見えますが,では将来のエネルギー利用のあるべき姿とはどんなものなのでしょうか。特に運輸部門では,バイオマス燃料を使ったハイブリット車をはじめ,原子力発電による電力を利用する電気自動車,水素を利用する燃料電池車など,どれもCO2の排出量を削減し,地球の温暖化現象を防げる手段に挙げられています。

 その一方で,農作物を利用するバイオマス燃料の供給量不安や,原子力発電の放射性物質に対する不安,水素社会実現の困難さなど,それぞれに多くの不安要素があることも確かです。今後のエネルギー施策をどう進めるのか。電力と自動車,産業を含めて筋の通った方向性をもっと前面に打ち出し,効果的に予算を使いたいものです。

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20060901/120688/


日経BPの記事だが*1、政府のというか、経済産業省の政策オンチぶりが出ている。
2007年度の原子力関係予算が1900億円。もちろん、これ以外にもなんのかんのと原子力に費やされる予算はあるだろう。なぜ政策オンチか。ちょっと前まで家庭用太陽光発電ユニットの設置には補助制度があった。僅かな補助だったが応募が殺到していた。現在、この補助制度は打ち切られている。もう充分に事業助成の役目を果たした、というのがその理由だ。その一方で数十倍に達する助成を原子力事業には行っている事になる。もし、原子力に注ぎ込む予算を太陽電池補助事業に回してみたらどうなるか。
現在家庭用でよく販売されているのが4〜5kw程度の出力のタイプだという。これは、販売業者から聞いた話だ。このレベルで総費用600万ほど*2。もちろん、売電しないかぎり元が取れるような値段ではない。余談だが、この価格でもまだ販売は好調らしい。これを1割助成してみる。およそ30万戸に設置補助を出すことが出来る。日本全体の年間住宅着工件数は100万〜120万件程だから、3〜4分の1に達する。総発電能力は120〜150万kw。原子力発電所一基の発電能力に相当する*3。1割補助では応募者が少ない、というなら半額補助でも良い。それでも6万戸、30万kwh弱の発電能力となる。
さらに重要な点は、太陽発電システムのスケールメリットが出てくる点である。1割補助なら1兆円産業、5割補助でも5000億円産業になるわけで、従って生産量増大と競争によるコスト低下が見込めるわけだ。600万よりも価格が下がれば、購入意欲は増し、さらに価格が下がる好循環を期待できる。

これが、原子力に注ぎ込まれるとなると、まったく意味をなさない。原発一基のコストは既に数千億に達している。そのうち1900億など大した額ではないのだ。原子力は大掛かりすぎてその程度の額を注ぎ込んでもスケールメリットは期待できない。
立地問題、廃棄物処理の問題があまりの多く、数年内に原子力で発電量が急激に伸びることもない。


太陽光発電の生産、発電量は日本企業が上位を占めている。おなじみSHARP、京セラ、三洋、三菱電機。しかし、このところ急激に伸びているのがドイツの企業である。ドイツ政府は原子力よりの撤退を決定した後、再生可能エネルギー、とりわけ太陽光発電への助成を積極的に行っている。その結果としてドイツ企業が伸びているのだ。笑えないのが、日本企業の販売実績が国外で伸びている点だ。海外での太陽電池パネル販売が伸びている。国内も伸びは続いているが、それ以上に海外での需要が伸びている。このために原料である金属シリコン生産が逼迫している。新たな生産設備を作りたくても、そんなリスクを冒すことはなかなか出来ない。政府が太陽光発電にハッキリとコミットすれば、リスク回避となり、安心してシリコンを増産できる。


これで、冒頭の政策オンチの意味がわかるだろう。政府の持つ予算と権限は決して小さなものではない。的確に用いることで、望ましい方向に状況をリードしていくことが可能だ。
だが、原子力への妄信的な助成は見事に状況をミスリードしていくことになるだろう。


参考:飯田哲也「エネルギー・デモクラシー」 エネルギーは誰のために
http://hotwired.goo.ne.jp/original/iida/050802/index.html

新版 原子力の経済学

新版 原子力の経済学


追記:写真は旧大東町の大東温泉にある風力発電用風車

*1:日経BPは記事引用を禁じているが、引用の基準を満たしていると判断した

*2:こないだ広告で3.6kwで280万というのがあった。同じく200万切ったものもあった。飯田氏の話だと1kwで60万ほどだというが

*3:もちろん、発電能力は日照に左右される