もやもや気分
件の「西松建設事件」。なんか、こうもやもやとしたものがある。
自分は政権が変わる必要があるだろうな、と考えるが、さりとて民主党シンパというわけでもないし、小沢一郎を支持しているわけでもない。どっちかといえば、菅直人が首相になった方がいい、と考える方だし、もっといえば社民党の保坂氏の方が尚良し、とする方だ。
それでも、やはりこの一連の流れにはどうしてもスッキリしない訳で、それはもちろん、
「なぜ、この時期なんだ?」
ということ。検察側の弁としては「時効が迫っている」という理由が説明されたりしたわけだが、しかし、継続的に西松建設は迂回献金していたわけだから、この時期に狙い撃ちという感は付きまとう。
しかも、この一連の騒動の容疑について見てみると、西松建設は「社員に賞与の形で支払って、(迂回用の政治団体に)献金していた」というのだから、言葉通りにとるならば受け取る側が迂回を知らなくても仕方がない、と云えるだろう。これを立件出来るとすれば、もっと確実な証拠、小沢氏側が要求していた、という立証が必要なはずだ。
なのに、検察側の意図的なリークからは
小沢氏秘書側、西松に献金請求書 東京地検が押収
http://www.asahi.com/national/update/0307/TKY200903070113.html
民主党の小沢代表の資金管理団体「陸山会」をめぐる違法献金事件で、陸山会が、「西松建設」から同社のダミーとして使われていた政治団体経由の迂回(うかい)献金を受ける際、西松建設に請求書を出していたことが関係者の話でわかった。献金を受け取った後は領収書を発行していたという。
なんて話が飛び出てくる。
幾ら何でも違法献金の請求書と領収書、なんて何のために切るのだ?収支報告書にも帳簿にも添付出来ないだろうに。件の政治団体がダミーであるなら、そちらに請求書を出しても要求内容は西松建設に伝わるだろう。
このリークから漏れ伝わる話はこんな感じで、さっぱり理解出来ない。
しかも、だんだん話が酷くなっていく。
この迂回献金の発端は、小沢氏の元側近、現自民党岩手第4区の支部長にして、次の総選挙では小沢氏と対決する「高橋嘉信」氏なのだという。
via : id:Prodigal_Son さん
西松建設献金問題の発端は次期衆議院選挙で小沢の対抗馬となる元秘書だった!?
http://d.hatena.ne.jp/Prodigal_Son/20090306/1236314972
なのに、この高橋氏はスルー状態。そのうちに
小沢代表元秘書の現職議員、参考人聴取へ 西松事件
http://www.asahi.com/special/09002/TKY200903100208.html
西松建設の巨額献金事件で、小沢一郎民主党代表の元秘書で現職の民主党衆院議員が、小沢代表の資金管理団体「陸山会」の会計処理などにかかわっていたことが10日、関係者の話でわかった。東京地検特捜部は、この議員から参考人として事情を聴く方針を固めたもようだ。
なんて記事が出たから、
“ようやく調べる気になったか。しかし、朝日も間違ったな。民主党衆院議員じゃなくて、自民党だろ”
と思っていたのだが、本当に「民主党議員」の方だった!
石川議員参考人聴取へ 陸山会の元事務担当
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2009031102000097.html
準大手ゼネコン西松建設の巨額献金事件で、東京地検特捜部は、小沢一郎民主党代表の資金管理団体「陸山会」の事務担当者だった元秘書の石川知裕衆院議員(比例北海道)について、参考人として事情聴取する方針を固め、聴取に応じるよう要請した。
この人が次の選挙で当たるのが、中川(酒)だったりする、となると、あまりに露骨じゃないか?と疑念が湧いてくる。
だって、長年(20年!)金庫番であったはずの高橋氏は釈明だけでOK!なんだ?
小沢元秘書の高橋氏、西松事件関与を否定
http://mytown.asahi.com/iwate/news.php?k_id=03000000903100003
西松建設の違法献金事件をめぐり、約20年にわたって小沢一郎・民主党代表の秘書を務めた元衆院議員の高橋嘉信氏が9日、奥州市内で演説し、「微動だにすることは何一つない」と事件への関与を全面的に否定した。
しかも口利きなんてのは、与党側に働きかけてこそ、のものであって、もちろん「小沢王国」ならそれなりの影響力はあろうが、与党側代議士の方がどう考えても利益供与を行うにたる存在だろう。なぜか、二階、森、といった大物?は秘書を逮捕したりはしていない。
タイミングのあまりの良さ?に「国策捜査」の言葉も飛び交う始末。
こんな言葉まで登場してしまう。
西松建設事件 政府高官「自民側は立件できない」
http://www.asahi.com/special/09002/TKY200903050292.html
政府高官は5日、西松建設の違法献金事件について、首相官邸で記者団に「自民党側は立件できないと思う。特に(違法性の)認識の問題で出来ないだろう」と述べ、自民党議員に捜査は拡大しないとの認識を示した。民主党は小沢代表の公設第1秘書の逮捕を「不公正な国家権力の行使だ」と批判しており、政府高官が捜査の見通しに言及したことは、波紋を広げる可能性もある。高官は同夜、「(議員側に)西松建設から献金を受けた認識があるという傍証がない限り(立件は)難しいという意味だった」と釈明した。
自民党側では森元首相や二階経済産業相、山口俊一首相補佐官らが、西松建設OBが代表を務める政治団体から献金やパーティー券の購入を受けている。
検察側から随時報告を受けているか、それとも「恣意的な捜査」で無い限り、こんな言葉を吐ける訳も無いのだが。釈明が釈明になっていない事に気づいたか、麻生らは間抜けな対応を取る。
首相「漆間副長官と記者、受け止め方にずれ」 西松事件
http://www.asahi.com/special/09002/TKY200903090108.html
麻生首相は9日午前の参院予算委員会で、西松建設の違法献金事件に絡んで「自民党側は立件できない」とした漆間(うるま)巌官房副長官の発言について、「オフレコの記者懇での発言が誤って報じられた」と述べ、報道機関の誤報であるとの認識を示した。首相が発言を否定する漆間氏を擁護したことで、批判の矛先は首相にも向かいそうだ。
麻生首相、「誤報」発言を撤回 漆間氏発言問題
http://www.asahi.com/special/09002/TKY200903090289.html
麻生首相は9日午後の参院予算委員会で、西松建設の違法献金事件に絡んで「自民党側は立件できない」とした漆間(うるま)巌官房副長官の発言を、報道機関の「誤報」と述べた同日午前の発言を撤回し、「副長官の記憶と記者の受け止めにずれがあったというのが正確なところだ」と述べた。一方、漆間氏は記者会見で、自民党に捜査が及ばないという趣旨の発言は「記憶にない」として、改めて否定した。
で、漆間氏はこんな名言を残す。
漆間副長官「そういう発言したことないという記憶になった」
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090309-OYT1T00843.htm
漆間(うるま)巌官房副長官は9日午後、首相官邸で記者会見し、西松建設の違法献金事件を巡る東京地検の捜査が自民党には及ばないとする見通しを示した自らの発言について、「私と3人の秘書官の記憶を突き合わせた結果、そういう発言はしたことはないという記憶になった」と述べ、発言自体を否定した。一方で、「メモを取っていたわけではないし、録音もしていない。もし私の記憶に誤りがあれば(事実と)違うのかもしれない」と語り、記憶にあいまいな部分が残ることも認めた。
つまり、「オフレコ」が建前の言葉だから、「そんな事は云っていない」と主張したいわけだが、ハッキリと否定してしまえば、建前を破って録音データを開示するものが現れるかもしれない。だから、「違うのかもしれない」などと曖昧に逃げているわけだ。
ここまで並べてみると、かなり控えめにとっても恣意的に小沢氏を狙い撃ちしている感は拭えない。
じゃあ、これは政権側の「国策捜査」なのか、というと多分違うんだろう。
むしろ、検察側が自分達にとっての損得勘定において、小沢氏、というか民主党の勢いを削ぎたい、と考えての結果じゃないか、と勘ぐるところだ。「陰謀論か?」の意見もあろうが、自分の念頭にあるのは「ロッキード事件」でも「ライブドア事件」でも、ましてや「ムネオハウス」でも「ミラーマン」でもない。
三井環氏の件である。
三井環 ホームページ
http://www012.upp.so-net.ne.jp/uragane/
他の事件については知らないが、この事件はあまりにあからさまな検察による狙い撃ちだった。この件で結局、検察裏金問題はどこへやら。検察というものの怖ろしさを思い知った事件だった。
三井氏にしろ、小沢氏にしろ、まったく後ろ暗いところが無い、とは自分は思わない。それを許容せよ、と云うつもりもない。だが、叩けば僅かであろうと埃の出るのは皆同じだろう。三井氏の場合、それは暴力団関係者との親交であり、小沢氏の場合は迂回献金だった。でっち上げる必要など無い。潰したい人に合わせて墓穴を掘る。それが検察の力であり、恫喝手段なのだろうな。
つまり、検察の問題とは、検挙した事だけにあるのではなく検挙しない事にもある。恣意的な選別、それ自体が問題なのだ。
こうして考えていくと、小沢氏が代表辞任をしないのは、複雑な気分だが、支持せざるを得ない。
民主党としては小沢氏が辞任して新しい代表を選ぶ方がダメージは少ないだろう。自分としても菅氏の再登板の方が望ましい。しかし、それは危険だ。
小沢氏、当面続投 進退は「総選挙勝利が行動基準に」
http://www.asahi.com/special/09002/TKY200903100325.html
小沢氏が秘書逮捕後に国民向けに謝罪したのは初めて。報道各社の世論調査で代表辞任を促す意見が過半数を占めたことには「収賄罪か何かの被疑者のような報道で、辞めた方がよかろうと思われてもむべなるかなと感じる」と報道を批判。進退については「(政治資金)収支報告書の事務処理の問題以外に何ら明らかにされていない。(捜査の)最終的な結論が出るまでは、現時点では全く考えていない」と強調した。
もし、小沢氏が「自分は何もやましいところはないが、混乱を招き国民の皆様にご迷惑を掛けた責任を取り」辞任したとする。このような事になれば、検察が恣意的な捜査をちらつかすだけで、その人の評判を落とし有権者の行動を左右させる事になる。
やはり、そういう事はまずいと思うのだ。
参考:
私の視点 ワイド 違法献金事件 検察には説明責任がある ジェラルド・カーティス
今回の東京地検特捜部による小沢一郎・民主党代表の公設第一秘書の逮捕と事態の展開には、解せない事がある。逮捕から1週間余りたつのに、検察当局は強制捜査に踏み切った理由などについて、国民に対し公式の説明をしていない。これは一体、どうしたことか。
私は、公共事業に絡む建設業界と政治家の腐敗構造が無くなっていない事実を軽視するつもりはない。また、検察が不正献金の問題を追及するのも当然の事である。
しかし、この事件は普通の政治スキャンダルとは質的に違う。数ヶ月以内には総選挙が行われ、政権交代が取りざたされている。その微妙な時期に、「政治資金規正法違反」という形式犯で、次期首相になる可能性がある人物の公設秘書をいきなり逮捕するとは、極めて異例である。だからこそ、検察の説明責任が問われるのだ。
検察が自民党のために動いたとの憶測が出たり、民主党から「国策捜査」の批難が飛び出したりした。検察当局は沈黙を守るが、マスコミは「関係者によると」などの形で様々な情報を流している。公共事業をめぐる「あっせん利得」の疑いがあるとか、事件はさらに二階経済産業相に飛び火するとかいう報道が事実のように語られ、当局のリークなどによる巧妙な情報操作への疑念も生じさせている。検察当局は、逮捕した秘書の拘留期限が来る3月24日に記者会見し、起訴か否かも含めて事情説明すると見られている。だがこの間、逮捕されただけでも世間的には「有罪」の印象を持たれ、次期首相の最有力候補の政治生命をも奪いかねない。
私は、小沢氏の肩を持ったり、特定の政党の側に立ったりするものではない。検察が政治的に動いているとか、検察のやっている事が怪しいとかいうつもりもない。
しかし、総選挙を前にして、動き出した検察が沈黙し、公の場で説明しないという事は、国民の間の政治不信ばかりか、国家権力に対する不信感を深める事になりかねない。この危険の重大性こそを、検察は認識するべきである。
なぜ、検察の説明責任を求める声がもっと強く出てこないのだろうか。朝日新聞は3月10日、「民主党、この不信にどう答える」と題した社説を掲げたが、どうして「検察、この不信にどう答える」と問いかけないのか。検察のやる事は絶対に正しく、疑う余地がないとでも思っているからなのか。マスコミは検察側が不機嫌になるような報道を自己規制して控えているからか。
検察当局は、現時点ではまだ捜査中なので、すべてを明らかにする事はできないという立場なのだろう。だがそうであれ、記者会見をして説明できることは説明し、話せない事は話せないと言えばいい。肝心なのは、国家権力を行使する機関の姿が国民に見えることだ。
国家権力があくまでも公平・公正に使われていると国民が信じられる事が、民主過ぎの絶対条件である。いま日本では政治家もマスコミも、さらに国民一般も、この問題にあまりにも鈍感になっていないか。
今回の事件は一人の野党リーダーの問題だけではない。党利党略ばかりを考えず、法治国家としてのプロセスの正当性を守る意味においても、麻生首相をはじめとする与野党の政治家達は、検察の責任者が公の場に出てきて国民に説明責任を果たすよう求めるべきだ、と私は思う。
(朝日新聞 2009,3,12 朝刊 より全文引用)