シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

奇妙愛博士

なんか、このところ忙しく詰まっていたのだが、世の中例の「飛翔体」なるもので大騒ぎでございましたな。大体、NHKからしてニュースの冒頭から

北朝鮮人工衛星と主張する長距離弾道ミサイルテポドン2号」……」

なんていう始末。ニュースなんだから「ロケット」でいいじゃん、と思っていたのだが、FMのニュースでも同じ呼称を使っていたから、どうやら“政府公認”の呼び方だったらしい。わざわざ日本国政府自らが煽ってくださったわけですな。そんな煽りに乗っかるのも業腹だから無視していたのだが、あちこちで挨拶代わりに

「コワいですね。」

みたいな言葉が出るので呆れてしまった。あんなもののどこにビビる必要があったのか。政府が騒ぐのは単純に脅威を煽りたいだけだろう、というところなのだが、皆そんなものを本当に心配していたわけ?
それにしても、


「騒ぐな」と騒ぐ人たちの騒がしさ

http://blog.goo.ne.jp/kurokuragawa/e/411fef27aafb8167a3e67ec8bce781d1

はっきり言えば主に左のほうの先生方のことだ。「政府は(日本人は)騒ぐな!」と主張するお方がいちばん騒がしいんだから始末に負えない。


ハァ?酷いな。誰の事なんだ?それって。
散々、北朝鮮の脅威とやらを喧伝して、「挑発行為は許し難い」と叫んでいるコメンテータ、なる連中は見られたが、「騒ぐな!」なんて意見をそれほど声高になるほど拾い上げてくれるメディアってあったっけ?“左のほう”の先生の意見なぞキレイに無視されていた、というのが実感だったんだけど。
あったのなら、むしろそこをリスペクトさせてもらうけどね。

私がぼけーっと新聞テレビ世間の雰囲気をながめてみても、普通の日本人の誰も騒いでなどいません(左右の「論客」以外は)。


なるほど。それじゃぁ、私は例外的に騒ぐ人々にぶち当たったと。土曜日は土曜日で、保険屋やら店の店員やら医者やらに
「まだ、(北朝鮮は)撃ってこないようですね。」
みたいな話をされて戸惑ったし。
日曜は日曜で、喫茶店の主人に
「(北朝鮮は)飛ばしてきましたね。」
などと話しかけられて返事に困ったんだけどね。


なぜか静岡の県レベルでも


北朝鮮:ミサイル発射 県危機管理局も緊迫 県内の情報収集 /静岡
http://mainichi.jp/area/shizuoka/news/20090406ddlk22040064000c.html

北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射した5日、県庁の危機管理局に臨時に設置した県の情報収集室では緊迫した雰囲気の中、職員が県内各市町の情報収集にあたった。

 午前11時33分、専用回線で政府から情報を受け取る「エムネット」に「北朝鮮が飛翔(ひしょう)体を発射した」との連絡が入ると、24時間態勢で詰めていた職員ら14人が県内37市町にファクスとメールで情報を一斉送信。太平洋への通過が確認され、同50分を過ぎると各市町の情報を取りまとめた県内4カ所の危機管理局などから「被害なし」の連絡が相次いだ。


なんてやってたんですけど。
どうみても、脅威を煽っているか挑発に乗っているようにしか見えないんですよ。
それにしても、

私が政治家や政府高官、自衛隊幹部だったら「数兆円の税金を費やしたミサイル防衛システム、今使わずにいつ使う(準備をする)のだ!」とクシャナ殿下(「風の谷のナウシカ」)の真似をするに違いない。使わないともったいないとか税金の無駄だと批判されたくないとかいう保身もあるけれど、もちろんそれだけではない。
「超高空からの落下物(人工衛星であれミサイルであれ)に対応できる手段があるのに使わない」ということは、一種のサボタージュであり「日本政府は国民を守る気がないのか」と誤解されてしまう。かといって「人命や財産に被害が及ぶ確率はほとんどゼロなので何もしないほうが経済的です」という説明で国民が納得するとも思えない。

なに言ってるんですかねぇ。政府が本当にそうしよう、と思うなら、“国民が納得出来ない”事なんて幾らだってやってきたでしょう。単純に、自分達に都合の良い形でしか“国民の意見”やら“住民の意見”やらに配慮しない、なんてのはこの間も“炊き出し”の件で説明したばっかりでしょうが。


それにしても、「使わないともったいない」とか、「対応出来る手段があるのに使わない」って凄いな。普通、政治的判断なら「最適と判断される対応をする」のが重要なんじゃないの?無駄に(それこそ日本政府の対応は北朝鮮の子供じみた挑発の鏡写しだ)挑発に乗らない、無意味な事は(以前解説したが、MDシステムICBMクラスには無意味。失敗して途中で落下してくる物体にもまず当てられない。)行わない、国民の間に無用な不安を掻き立てない、事が真っ当な政府の対応というものでしょうに。
いざというときの場合、なんて言ってみたところで、
・自殺者が年間3万人でも対処せず、
生活保護にも失業給付にも本腰を入れず
・交通事故死を根本的に対処する気もない
政府とやらが、その全てに対応するだけの金を注ぎ込んだオモチャで「万が一に備えて」などと言うんなら、それは北朝鮮を嗤えないよな。


人工衛星」打ち上げ自制要請に反発 日中露に北朝鮮大使
http://sankei.jp.msn.com/world/korea/090327/kor0903271240005-n1.htm

同ニュースによると、千大使が「(国民の)生活が困難なのに、宇宙開発に金を使うのは理解できない」と述べると、慈大使は「生活が苦しい国でも平和的な宇宙開発を行う権利がある」と主張。


この、「数兆円の税金を費やしたミサイル防衛システム、今使わずにいつ使う(準備をする)のだ!」という意見、読んで自分が連想したのは、キューブリックの傑作「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」に出てきたタージドソン将軍。ジョージ“アカデミー賞拒否”・C・スコットが演じた役で、映画で忘れ得ない印象を残すのだ。
イカれた将軍の暴走によって核戦争の脅威に晒された中、米ソの首脳陣は必死で、しかし滑稽に危機を回避しようと努める。ところが、タージドソン、彼は典型的な軍人像として描かれている、は「今がチャンスです。ソ連に核攻撃を。」とアメリカ大統領に説く。使えるものは使ってしまえ、の発想ですな。キューブリックは冷戦をシニカルにアイロニカルに描くのだが、しかし、このタージドソンの思考は当時の米ソの核戦略、「相互確証破壊」を端的に表したモノだった。


さて、「博士の異常な愛情(略)」のイカレ野郎の極致、ストレンジラブ博士のモデルは“水爆の父”エドワード・テラーと言われているが、この“物理学者の恥さらし”テラーが“元祖ポピュリスト政治家”レーガンに吹き込んだのが「SDI構想」。俗に言う「スターウォーズ計画」だ。
イカレ博士がイカレ大統領に吹き込んだ詐欺紛いの計画は、冷戦終結を経てもストレンジラブ博士やタージドソン将軍達のオモチャとして残り続けて「MD計画」へと変貌する。
真っ当な科学者で「MD」が役立つと思うものはいない。なぜなら、手間の割には防衛網を突破するのは遙かに容易だからだ。複数弾頭化、弾頭へのステルス処理、囮弾頭、大気圏外でのチャフ散布、etc。こんなモノで「防衛網」と呼べるはずはなく、単純に防衛予算確保の言い訳に過ぎないだろう。


自分が北朝鮮のミサイルとやらを脅威と見なさないのは、その「冷戦」時代を覚えているからでもある。もう、20年も前になるから30前の若い連中が知らなくても不思議じゃないが、年配者までが「北朝鮮のミサイル」にビビるのがサッパリ判らない。
だって、冷戦期には北朝鮮とは比較にならないほどの核ミサイルの照準が確実に日本に向けられていたんだよ?しょぼい、飛ぶんだか飛ばないんだか判らないような代物じゃなく、地下のサイロや深海に潜む戦略原潜に搭載された、打ち出されれば1時間以内に到達し、米軍基地ならびに自衛隊基地とその周辺を壊滅に追い込む威力のある核兵器が存在していた、現在もあるが、わけで、そんな状況で、米ソのパワーゲームに翻弄されながらも、しかし普通に日常生活を送ってきたのだよ。
だとしたら、少なくとも35歳以上の人間はビビッたりしたら間抜けだと思うね。


冷戦期の、特に最も核戦争の危機が存在した、といわれる「キューバ危機」の教訓は、挑発しない、挑発に乗らない、自制して信用がならない相手と感じても粘り強く交渉する、事じゃなかったのかな。冷戦終結もそうして得られた成果だったと思うんだけどね。
その教訓に照らし合わせれば、今回の北朝鮮の挑発に対する一番的確な対応とは、しかも連中の挑発の相手はアメリカだったわけだし、無視する事に尽きたと思うのだ。


ま、それほど「北朝鮮のミサイル」とやらが怖かったら、ストレンジラブ博士のように美女と核シェルターにでも隠れてたらどうかな?そう言えば、タージドソンは日本で言えば、タモ(田母神)さんにそっくりだ。

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