シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

赤い帝国の恐怖

なんか昨日のエントリーは反響があったんですけど、その前のエイプリルフールネタはスルーされているんで結構へこんでおります。
くそ、来年こそは面白いネタを作ってやるぜ。


さて、その“人工衛星と称する長距離弾道ミサイルテポドン2号”の打ち上げに失敗したらしい北朝鮮に関するエントリーですが、次のような反応がありました。


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http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20090406/1239029479

namawakari 政治, なるほど “年配者までが「北朝鮮のミサイル」にビビるのがサッパリ判らない”さすがにソ連はそんな馬鹿なことはしないだろうという奇妙な信頼感があったのかも。北朝鮮は意味不な国ってイメージが定着しているからかな。

fuldagap 冷戦期は「全面核戦争が始まったらみんな死ぬ」みたいな諦念に似た感じがあったけど、冷戦後は(北のに限らず)限定核戦争が想定され「運の悪い地方が壊滅的被害を受ける」って感じで、それが恐怖感になるのでは


予想していた反応ではあります。「北朝鮮は(冷戦期の)ソ連と違って、何をやらかすか判らない。だから、連中の動きは注視して備える必要がある。」
つまり、旧ソ連暴力団の組頭あたりだとすれば、北朝鮮はシャブ中のチンピラ、みたいな感じでしょうか。組頭に比べれば力はたかが知れているが、“キレれば”何をするか判らない、という感じですよね。日本における報道をトレースする限り、なるほど一理あるように感じます。


ですが、それは恣意的に作られたイメージなんですよ。なぜって、かつての旧ソ連もそういう(キレやすい)悪者として扱われていたからなんです。


冷戦期においてソ連といえば悪の代名詞でした。レーガン大統領は本当に一般教書演説の中でソ連を「悪の帝国(evil empire)」と呼んで明確に敵認定しております。それ以前の「雪解け」とか呼ばれた時代など気に掛けない発言で、米ソの関係は悪化します。私が青春を送った時代というのはそういう時期であったわけで、もちろん田舎のガキであった私も「ソ連てあぶねぇ国だな」と思っておりました。
もちろん、レーガンが「悪の帝国」よばわりするのもまったく故無き話ではなく、1979年には現在に至る混乱の元である「アフガニスタン侵攻」を引き起こしましたし、さらに遡れば「プラハの春」に伴う「ソ連*1侵攻」と「民主化運動の弾圧」が起きたわけです。
それ以前、1956年にも「ハンガリー動乱」がありました。傘に仕込んだ毒物によってブルガリアの亡命者ゲオルギー・マルコフが暗殺される、という事件もありました。ソ連によるあからさまな民主化活動に対する弾圧、は「悪の帝国」と呼ぶにふさわしい態度であったのです。


一応、付け加えておけばアメリカだって中南米やアフリカ、中東における非合法活動に数々は決して誉められるようなものではありませんでしたが。


従って、今と同じくアメリカの強い影響下にある日本においては、ソ連といえば悪の親玉にして、何をしでかすか判らない連中、のイメージがあったわけです。


で、レーガンの「悪の帝国」発言から半年ほどして、その不気味さに輪を掛けるようなトンデモない事態が起こります。


大韓航空機撃墜事件です。


事件当時、消息が知れなくなった大韓航空のニューヨーク発ソウル便は、「事故にあった」とか「領空侵犯によってソ連に拿捕された」だとか情報が錯綜していました。「ソ連軍機に撃墜された」の情報だって当初は信じられない話としか思えなかったのです。「民間機が領空侵犯したから撃墜だって?」
しかし、それは事実であり、しかもソ連はその事実を認めようとしなかったし、事実が判明した後も謝罪さえしようとしませんでした。
ソ連の姿勢に変化が見られるようになるのはゴルバチョフの登場まで待たなくてはなりません。それまでソ連は「他国の民主化活動を弾圧し、他国に侵攻・支配を行い、民間機さえも撃墜する」、危険に満ちた「悪の帝国」であったわけです。
現在の北朝鮮とは比較にならないほどの悪役ぶりです。


戦力を考えても判ります。戦略核兵器については先述したとおり。世界を数回破滅に追い込むだけの核兵器と、それをバラ播く手段を保有していました。来るべき「第三次世界大戦」における主戦場と想定されたヨーロッパにおいて東側(ワルシャワ条約機構軍)は西側(NATO軍)より陸上戦力に勝り、アメリカはそれに対抗すべく「戦術核兵器」の配備を進めます。もちろんソ連もそれに対抗します。「限定的」と唱おうとも、一度エスカレートすれば、核兵器の応酬になるのではないかと怖れられました。
北朝鮮あたりのシャバいハッタリあたりとはレベルが違う「対立」です。


極東においても同じです。日本の陸上自衛隊のほとんどの戦力は極東ソ連軍の日本侵攻/北海道上陸を阻むべく配備されたものです。北方領土問題も今とは比較にならないほど、そういえば北方領土にあのころ騒いでいた自民/民社党政治家がシカトを決め込んでいるのはどういう事なんでしょうね、喧伝されており、日本に対するソ連の「北の脅威」が叫ばれていたわけです。


我々の世代以上は、こうした「北の脅威」とそれに伴う「核の応酬」の直中にありましたし、同時に「ノストラダムスの大予言」が流行った頃でもありましたから、私などは21世紀など来ないんじゃないか。21世紀など迎える前に絶滅するんじゃないか、と本当に思っておりました。というか、「ノストラダムスの大予言」自体が、米ソ冷戦とその結末の不安に巧く便乗する事で流行したとも云えるわけですけど。


北朝鮮はそれに比べれば遙かに小粒の「悪の帝国」でしかありません。北朝鮮がかつてのソ連より危険に見えるとすれば、それは連中の実像を“誰かが”膨らましているためです。それを必要とする者が“こちらの”側にいるためです。


皆様、少しばかり過ぎた時を思い起こしてはいかがでしょうか。さすれば北朝鮮の脅威、など大した事じゃ無い事に気づきますよ。

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