テルモピレーに死す
面白いんだか、面白くないんだか今ひとつ判りづらい「300」。
自分が習った世界史だと、テルモピレーの戦い、はスパルタ陸軍がペルシャのギリシャ遠征軍に完敗(=全滅)した戦い、だった。まあ、ペルシャ戦争だと主として取り上げるのは、どちらかといえばアテナ海軍がペルシャ海軍を破った「サラミス海戦」か、別になるけどマラソン起源のエピソードとなった「マラトンの戦い」の方が詳しいのだから仕方がない。あまり興味が無かったのだ。
まず、「銀英伝」じゃないが、地元なのに相手より多数の兵数を用意できなかった点で、スパルタには問題があった。これは、スパルタが軍事独裁的都市国家で、少数支配層が多数被支配者層に君臨する、という体制だった事も効いている。わざわざ圧政的な支配層のために戦う物好きはいない、というわけだ。よく云われる「スパルタ教育」は、支配エリートを育てるための特異な育成手段であったが、他国(他都市国家)に備えた軍事力養成としては今ひとつだった。
実際、スパルタがギリシャ世界を席巻したのは、都市国家時代末期でアテネが衰えてからのことで、スパルタ自身も特異な支配体制を改めてからのことだ。ギリシャ世界を制覇した期間も長いことではなく、テーベやマケドニアにその座を譲ることになる。
ってわけで、未だに見ていない「300」なんだが、話だとペルシャ側の描き方が無茶苦茶な一方、スパルタ側は「高潔な文明の戦士」という感じだという。それでギリシャなどヨーロッパ側ではヒット御礼状態だが、ペルシャ(=イラン)側では、上映禁止状態とのこと。
別にこういった描写は、今までだってアクション映画なんかじゃ当然だったのだから、今更気にするのもどうかとも思うけど、「歴史的エピソード」に擬してある点で、“悪質”と取られたのかもしれない。
「歴史的エピソード」に擬しているが、“悪質”といえば、町山氏が載せているグリフィスの「国民の創生」とかリーフェンシュタールの「意志の勝利」「オリンピア」などがある。「国民の創生」はKKKの正当化を行っている(らしい)し、「意志の勝利」はナチスのプロパガンダフィルムだ。現在上映中の「アポカリプト」ももの凄い(らしい、未見)。詳しい指摘は
*映画「アポカリプト」が行ったマヤ文明破壊
http://ep.blog12.fc2.com/blog-entry-622.html
を見てもらうことにして、かなりひどいというのが感想。
メル・ギブソンは「パッション」でも、反ユダヤイメージや、イエスの都合の良い神格化を図っていたりするが、源流はどのへんにあるのだろう。歴史的エピソードを基にしていると考えると「ワンス・フォーエバー」も、結構悪質だ。もっと遡ると、「ブレイブハート」に行き着く。
個人的には「ブレイブハート」は、好きな映画BEST.10に入る*1のだが、歴史的事実、という点だけを取れば正しいとは云えない。
ギブソンの演じたウィリアム・ウォレスは正しくスコットランド史上最高の英雄だが、同じく英雄であり、映画ではウォレスの理解者にして友人、後継者たるロバート(ロバート・ザ・ブルース)はちょっと映画とは違う。映画でもウォレスはスコットランド貴族の裏切りにあうのだが、実際にはロバートもその裏切り者の一人である。ウォレス亡き後、貴族間の抗争に勝ち抜きスコットランドを統一、バノックバーンでイングランドを破って、スコットランド支配を確固たるものにした。ウォレスの失脚無くしてスコットランド王ロバート、はあり得なかっただろう。映画ではそのへんは体よく処理されている。まあ、その程度ならフィクションとしての許容範囲だろう。でも、メル・ギブソンはこのへんから、歴史的エピソードを活用する術を覚えたのかも知れない。
この手の歴史的エピソードを悪用した典型例は西部劇だ。以前、第七騎兵隊のカスター中佐*2をヒーローとして取り上げたビデオを見つけてビックリしたことがある。ウーンデッド・ニーの戦い(虐殺)を考えた場合、アメリカ人ならともかく、日本人がカスターを英雄視する需要自体存在しないように思われたからだ。
西部劇の中で、歴史的エピソードをもっとも悪質に利用したのは「アラモ」である。
アメリカ人入植者が独立を宣言するテキサス。それを阻止せんと大軍を擁してアラモへ向かうメキシコの独裁者サンタアナ。僅かばかりの義勇軍兵士とアラモ砦に立て籠もるビル・トラヴィス、デビー・クロケット、ジム・ボウイなどの快男児達。果敢に戦い、ついに玉砕したアラモ義勇軍だったが、サム・ヒューストン率いるテキサス独立軍は、ついにメキシコ軍を撃破。テキサスは独立を果たすのだった(のちにアメリカに編入)。
って、このエピソード、どうみても「300」じゃん。「アラモ」のエピソードを無邪気に肯定できなくなったためなのかな。
というわけで、ジョン・ウェインの「アラモ」くらい面白ければ、「300」も楽しめるかもしれない。
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