サソリの性 ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(結末書いてます)
20世紀初頭のアメリカ西部。金鉱堀りを経て石油採掘に乗り出したプレインビューは、仲間の残した子供を育てつつ自分の仕事に利用する狡猾さで石油業界をのし上がる。新たな石油採掘場所の情報を得たプレインビューはカリフォルニアの地に乗り込むのだが。
ゼア・ウィル・ビー・ブラッドようやく見てきました。しょっぱなから最後まで、安酒のニオイぷんぷんの画面。たまりません。出てくるのもオヤジばっかりだし、綺麗どころは出てこないし。
この映画の評に関しては、すでに幾らでも優れたものが読めるので、包括的な評は辞めておきます。
・仏に遭うたら仏を殺せ「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
http://d.hatena.ne.jp/FUKAMACHI/20080509
・やがて血が水のごとく流される - Lucifer Rising
http://d.hatena.ne.jp/satan666/20080504/p1
・悪魔の得た糧を、神の子は手を出して乞うばかり「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
http://d.hatena.ne.jp/samurai_kung_fu/20080430#p1
・映画「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
http://d.hatena.ne.jp/madogiwa2/
それにしても、プロである深町先生は当然ながら、みんな巧い文章書くなぁ。
さて、凡夫たる私が映画を見て、ふと思い出したのが、映画「クライングゲーム」に出てきたエピソード。
拉致されたジョディが、見張りのファーガスに話して聞かせた寓話。
『川を渡りたがっているかなづちのサソリが、カエルの背中に乗せてくれと頼む。カエルは云う。君を乗せたら僕を刺すに違いない。サソリは答えた。僕が君を刺したら両方とも溺れてしまう。カエルはしばらく考え納得し、サソリを背中に勇敢に川を渡り始める。だが半分まできたところで強烈な痛みを感じ、自分がサソリに刺されたことに気づく。徐々に沈み始めるサソリとカエル。カエルは叫んだ。サソリ君なぜ僕を刺したんだ?溺死すると分かっていながら。サソリは答えた。仕方がないんだ。これは僕の性(さが)だから』
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Namiki/9686/takamura/crying.html
プレインビューは、味方でなければ敵、と考える男だ。味方、といっても自分の意志に従うか否か、であり、従わなければ裏切り、と見なす。息子が独立したい、と主張すると、それを裏切りと決めつける。子供の自立は、親が受け止めなくてはならない必然なのだが、プレインビューはそれを受け止める事が出来ない。愛情を注いだ挙げ句に息子が離れていく、と混乱し、息子を罵り、彼が実子でない事を明かし、忘恩だと決めつける。結果として息子は自立どころか離反していくのだ。
プレインビューはその激烈な性格ゆえ人を傷つけ、自らも傷つく。まさにサソリの性である。
その自らも焼き尽さんとする性はラストで暴走する。自分をコケにしたイーライが経済的苦境、1929年の世界大恐慌による株の焦げ付き、に立たされ訪ねてくると、彼をからかい、嘲笑った挙げ句に殺す。それは自らの破滅をも意味するのだが、そうせずにはいられないのだ。ボーリングはもともと教会が悪魔に見立てたピンをボールで打ち倒すという宗教的遊びから来ている。そのボーリングのピン(男根、悪魔の象徴)で、神の預言者を自称するイーライを殴り殺す皮肉。神さえも味方でなければ敵、のプレインビューの姿は20世紀の世界を切り開いた欲望の擬人化なのである。
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