シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

自滅する地方 公共事業編

八ッ場と書いて「やんば」と読む。今回の騒ぎが無ければ、みんな読めるようにならなかったでしょうね。こんばんは、地図と漢字は読めるが空気が読めない男、シートンです。連休楽しく過ごされましたか?


あまり楽しくない休みを送られてきた方々といえば、そう、ダムに沈むはずだった村々の方達です。最近の民主党政権、というか、前原国交相カリカリきているようですね。
ダムに関して言えば、もちろん「脱ダム」「ダムはムダ」には賛成ですし、民主党政権には頑張って頂きたいと考えております。その一方で、地元住民の複雑な思いというものも判らないでもありません。


前原国交相、八ツ場ダム視察 住民ら意見交換会を拒否
http://www.asahi.com/politics/update/0923/TKY200909230166.html


もちろん、以下のような話もあるわけですけど


八ッ場ダム」建設推進派、「一般市民」に見せかけて実は「町議」。その人の名は「星河由起子」
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20090924/1253791809


ずっと維持されてきた利権構造というものがあり、そこに纏わる薄汚いやり口があろうとも、やはり土地を泣く泣く手放さなくてはならなかった人々が「今更中止だと?オレ達の断腸の思いで差し出した土地はムダだったというのか!」と憤るのも当然だと思います。従って、利権構造とそれに癒着する連中と住民は切り分けて考えるべきでしょう。現在のところマスコミがこのへんをキチンと区別して扱っている様子はありませんが、前原国交相は比較的慎重な姿勢を保っており、良いことではないかと思っております。
しかし、ダム中止反対派の会談不参加には考えさせられましたね。今まで公共事業に伴うこうした懇談や会見の場というのは、とかく「推進」の口実に使われてきました。環境アセスメントさえも、それが「事業不適格」を導き出す事は無くて、ただただ「事業推進」のお墨付きにしかならなかった事を考えれば、逆の立場に立った場合、「事業推進派」が「(事業)中止の口実に使われる」事を警戒するのは、さすがに事情に精通しているなぁ、と感心してしまいます。


一番ヒドい例が「原発」ですよね。電力会社は「皆様のご意見を伺いながら、原子力発電を進めてまいります」とか平気でのたまわってしまうわけです。「皆様のご意見」とやらが「原子力発電を止めて欲しい」であった場合でも「進めてまいります」なのか、と、「意見を聞く」というのがポーズに過ぎない事を堂々と述べる態度に驚いてしまいます。


閑話休題


さて、自分達の犠牲がムダでは無い、と信じたい気持ちはダムなどの公共事業に纏わる事ばかりではありません。戦争に関わった方々の思いというものにも見られる構図です。自分達の体験や戦友らの死がまったくのムダであったとは認めたくない。「きけわだつみのこえ」「戦艦大和ノ最期」で学徒動員された士官が戦争の意義と云うものと自分の死をどう受け入れるかのジレンマに苦悶する場面があります。

「進歩ノナイ者ハ決シテ勝タナイ。負ケテ目覚メルコトガ最上ノ道ダ。日本ハ進歩トイウコトヲ軽ンジ過ギタ。私的ナ潔癖ヤ徳義ニコダワッテ、真ノ進歩ヲ忘レテイタ。敗レテ目覚メル、ソレ以外ニドウシテ日本ガ救ワレルカ。俺達ハソノ先駆ケトナルノダ」

参考:戦艦大和
http://www4.plala.or.jp/kaseiken/library/lib02.htm


彼らが現在の平和になんらかの形で貢献した、と考えたいというのは当然の事であります。


ですが、その当然の気持ちが靖国のような国家レベルの「死の正当化システム」に絡め取られて悪用されるように、ダムなどの土地収用を伴う公共土木事業の正当化に悪用される事も当然起こるわけです。


建設是非 地元思い交錯
http://mytown.asahi.com/shizuoka/news.php?k_id=23000200905250001

誘致合戦の末、87年、島田市榛原町(現・牧之原市)に空港建設が決まった。約550人の地権者をはじめ、地元住民には降ってわいたような話だった。

 「農地をとられる」。テレビで見た成田闘争の光景が大関さんの頭をよぎった。地権者会会長として「反対」を掲げた。相談なしに決められた政治と行政に対する不信は強く、地権者ほぼ全員が用地買収に応じなかった。

 だが、建設計画が進む中、「茶畑の後継者がいない。この際売ろう」という声があがった。県が補償を提示し始めたころには、しだいに買収に気持ちは傾いた。

 確かに十分な代替地は確保されていた。でも、将来必ず県民の役に立つからという県職員の強い言葉を信じた一大決心だった。「公がほしいと言えば後ろばかり向いていられない」。96年、県と地権者会は用地補償協定を締結した。

 ところが、時代は不採算の公共事業への風当たりを強める。01年、すでに空港建設は始まっていたが、建設の是非を住民投票で問おうと27万人の署名が集まった。石川嘉延知事は「県民の意思を尊重する」と、地権者の前で涙ながらに賛意を示した。

 住民投票が実現すれば世論は建設反対に傾き、自分たちの苦労が無になる。県議会では、そんな危機感を代弁した。「先祖伝来の土地をやむを得ず手放して、次のステップへ進もうと思っていた矢先。地域住民は何を信じたらいいのか。なぜ今なのか、当初の県の議論が足りなかった」
 最大会派の自民党が出した答えは否決。住民投票は実現されないまま、工事が再開された。

 当時の幹事長天野一県議は振り返る。「最初は半々だった党内の賛否が、延長審議のうえ最後には7対3で否決に傾いた。地元住民の感情を知ったのは大きかった」


記事の通り、静岡空港も「土地を手放さざるを得なかった」方々の今更ムダにはできない、という願いが強く作用しました。単なるムダ事業というに留まらず、それが「ムダではない」という正当化までを内包した事業へと変貌を遂げていきます。本末転倒とも云える需要喚起策。需要が無いなら止めればいいじゃないか、と普通は考えますが、ムダにはできない、という元地権者の思いと、ムダと追求されたくない役人、ムダでも利権、と考える政治家・土建屋の奇妙な一致。それが空港建設を推し進め、完成させました*1
けれど、そんな内部の都合と共同幻想は、外部にとっては関係がない。外部からの視点が持ち込まれれば、たちまち解体してしまいます。


日航、国内29路線廃止 神戸・静岡空港撤退
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20090916NTE2INK0615092009.html


静岡空港日本航空が撤退方針 利用の4割、屋台骨直撃 知事「事実ならけしからん」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090917-00000011-maiall-bus_all

日本航空(JAL)が静岡空港の就航便を11年度までに全面撤退する方針を固めたことが16日表面化し、空港を運営する県は大揺れとなった。JAL福岡便(1日3往復)、札幌便(1日1往復)は乗客数全体の約4割を占める「屋台骨」。不意打ちされた格好の川勝平太知事は「道義に反する」と憤るが、経営が窮地にあるJALの翻意を引き出す手だては見つかっていない。6月4日の開港から3カ月余り。空港経営は早くも危機的な事態に直面した。【竹地広憲、松久英子】

 「事実ならば、けしからんことだ」

 川勝知事は16日、記者団に強い口調でまくしたて、JALの姿勢を激しく批判した。

 県空港部は同日朝からJALや国土交通省などへの情報収集に追われた。君塚秀喜空港部長代理は「JAL側から撤退決定とは聞かなかった」と話しながら、「JALが月末に示す再建策案に静岡空港からの撤退が含まれていたら、『黒字路線だ』と訴えて撤回を求めたい」と述べた。

 県議会の代表質問でも、山田誠県議(自民)から空港部の組織改編にからめてJALの撤退方針について質問が飛んだ。川勝知事は「(福岡便の)覚書は利用促進の方策について合意している。撤退はその趣旨に反する」と強調した。

 川勝知事が憤まんをぶちまけたのも、JALの全面撤退は空港の「死活問題」(空港部幹部)だからだ。

 県収入となる着陸・停留料は09年度当初予算で計約2億円。このうちJAL分を約8500万円と見込む。開港から今月6日までの利用者数(中国東方航空は非公表のため除く)は計15万4817人。このうちJAL便は6万6907人で、約43・2%を占める。これがそっくり消えれば、空港バスなど関連業務に影響することは避けられそうにない。

 しかし、JALの方針転換を引き出すのは容易ではない。川勝知事は、福岡便誘致の「切り札」として石川嘉延前知事が導入した搭乗率保証制度の廃止を求める方針を明言。16日も記者団に「(方針は)変わらない」と述べ、この問題での譲歩はないと強調した。

静岡空港における日航の重要性は言うまでもありません。実に着陸料収入の4割以上、利用者数の5割近くが日航によるものです。撤退した場合、静岡空港は厳しい立場に立たされます。それは、単に経営環境が厳しい、というものではありません。元から赤字は確実な状況です。一番の問題は、「静岡空港が無駄な存在である」という事実が顕在化されてしまう、という点にあります。
奇しくも日航が撤退した場合の静岡空港の実績予測は、「空港反対派」の予測に極めて近くなります。


空港はいらない静岡県民の会
http://kuukouno.hp.infoseek.co.jp/sub1.htm


静岡空港の需要は36万人 静岡空港建設中止の会
http://www.s-jichiroren.com/juyo36.html


それでも、彼らだって一年目からこのザマだとは考えなかったでしょう。おそらくは、2、3年後の事を予想していたはずです。誰もが実際にはムダである、と考えつつ、しかし、それぞれの思惑によって進められてきた事業は、一年も経たないうちに、実態をさらけ出してしまった。今後の課題は、「いかに赤字を抑えつつ閉港するか」になってきています。
本当に静岡空港とは何であったのでしょう。


もし、八ッ場ダムが継続されるならば、共同幻想は今しばらく保たれるかも知れません。ですが、ダムには実際に需要も意味もない、という事実は消せないのです。
ムダである、という事実を認め、その上で次に踏み出す意義が問われることになるでしょう。八ッ場ダム予定地の方々はまだ幸せです。完成した後に幻想から覚めた場合は、取り返しの付かない荒野が残されるだけです。今なら取り戻すことが出来る。それが一番ではないか、と思うのですが。
日本中にこうしたムダ事業はゴロゴロしている、というのは何回か述べてきました。そうしたものに費やされる(費やされた)額が如何ほどであるか、を考えれば、何かにつけて社会福祉政策の拡充に対して「財源は?」と尋ねることのくだらなさが判るというものです。


それにしてもです。静岡県財政に多額の負担を強いた事を考えれば、需要予測を行った連中は「詐欺罪」で訴えてもいいんじゃないか、と思いますね。責任の所在を問う事無く物事を進めるのでは、結局再発の基になるだけですから。

ダムはムダ―水と人の歴史

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戦艦大和ノ最期 (講談社文芸文庫)

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*1:そういえば、静岡空港でも第二東名でも「今更止めるのは、建設を続けるより費用が掛かる」というどこかで聞いたような意見が出ていました