シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

エネルギー問題をいかに解決するか

先日メールをいただきました。

シートンさんから見て今後エネルギー問題を根本的に解決するであろう発展の可能性のある技術の分野はいったいなんだと思いますか?もしよろしければご意見をお聞かせください。

という事で、このところ返答について考えていたのですが、その答えはブログネタになるな!と思ったので、ここで開陳いたします。


まず、重要な点ですが、


・現在の人類のエネルギー使用量は明らかに過剰である
・よって現在のエネルギー問題を解決する(代替的)技術というものはない


と考えております。


参考:「温暖化」という誤解
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20100312/1268406706


人類が化石燃料を使用し始めた200年前(石炭は200年、石油は100年)からエネルギー使用量は指数関数的に増加してきました。その結果として温暖化のような問題も生じているわけですが、それ以外にも環境に与えるダメージは増加しています。つまり、現在のようなエネルギー消費は、どんな代替的手段があろうとも地球生態系にダメージを蓄積させる。エネルギー使用は単純に二酸化炭素や熱排出に留まらないからです。原子力であろうとも、自然エネルギーである太陽光であろうとも、その点は変わりません。
したがって、エネルギー総消費量を減らすこと、がまず重要になります。ここにおいて、どのような手段を取るか、で効果の度合いが変わってきます。最も効果的なのが、社会的構造を変化させることです。そこにおける効率化の作法(メソッド)が3つ。


・逆ピタゴラ装置
・カスケードスタイル
ダイバーシティ


まず、逆ピタゴラ装置ですが、ピタゴラ装置はご存じですよね。様々なギミックを組み合わせて、目的の動作を行う機構です。如何に多数のギミックを盛り込むかが面白さの鍵です。その逆、とはつまり、なるべく単純なプロセスで効果を得る機構を想定する、というものです。


例えば、都市内交通を考えるにおいて、ITSによる統御、電気・水素スタンドの設置、区画整理を伴う街路拡張、を行って「自動車による都市内交通」を進めるより、トランジットモールを進め、徒歩・自転車による移動をメインにした都市内交通の方がエネルギーも消費も抑えられるわけです。
個人宅で考えるよりも住居集合*1によって、移動とエネルギー消費、土地利用を効率化出来る、という考えもあります。
シンプルな手段で解決できるシステムを構想すること。これが大事なんですね。
このような例は結構あります。
以前、「アイガモロボット」というものが紹介されました。


アイガモロボット
http://www.com.rd.pref.gifu.jp/~imit/research_aigamo.php


アイガモ農法のアイガモ管理が大変、という事で構想されたそうです。バカバカしい話です。
アイガモ農法が優れている点は、アイガモが除草と同時にそれをエサとし、糞が肥料となる点にあります。また、稲に付く虫も彼らのエサになるわけですね。したがって、生態系に負荷を与えず、複数の効果を得る事が出来る(ここはカスケードスタイルとも関連します)。また、アイガモは食肉・羽毛として利用可能となります。アイガモロボットには除草作用しかなく、その作製・管理・作動にはエネルギーも資源も要するわけです。
なるべく生態系内の循環に沿ったやり方、それもシンプルなスタイルを選択し、その最適化を設計する。それが、逆ピタゴラ装置の考え方です。


カスケードスタイルは、一つのシステムでそのプロセスを再利用するスタイルです。
例えば、最新鋭の火力発電ではガスタービンで発電し、その廃熱で蒸気タービンを回しさらに発電を行います。そのさらに廃熱を給湯に利用し、さらに温度が下がった廃熱は暖房に利用する。こうしたシステムは多段式の滝のようと云うことでカスケードスタイルと呼ばれます。
現在、燃料電池利用の「エネファーム」などでは、固体高分子型燃料電池によって発電と給湯を行っています。これもカスケードスタイルの一種。質の高い(温度が高い)エネルギーから質の低い(温度が低い)エネルギーへ、徐々に利用を変えていく。そのような利用システム、それもいかに多数のプロセスを繋げる事が出来るか、を設計する事がポイントです。


ダイバーシティ、多様性は、一つには多数の代替手段を持つことを指しますが、さらに、それによって構築されるシステムがフラクタル(相似性)、スケール保存性を持つ事が重要になります。
つまり、個人から個人宅→地域→都市の順でスケールが上がっても、その基本構造が維持されるようなスタイルが必要だ、という事ですね。都市構造については、「パタンランゲージ」をご覧ください。
エネルギーに関して云えば、個人宅での小規模発電、地域での中規模発電、都市での大規模発電、etcというような形でリスクヘッジと効率化を図る、ということです。個人宅レベルなら屋根上の太陽光、地域レベルなら下水発酵メタンによる発電(後述します)、都市レベルでならゴミ焼却発電、などが考えられるでしょう。


これら3つに注意を払い、社会システムから機構にいたるまで構想すること、これはなかなかに興味深いので、挑戦してみると面白いですよ。こうした考えの手掛かりとしては、パーマカルチャーや近自然学が参考になります。


Permaculture
http://en.wikipedia.org/wiki/Permaculture


山脇正俊のホームページ
http://web.mac.com/masatoshiyamawaki/homepage/profile-jp.html


ここまでを踏まえながら、なお今後に期待できるエネルギー源について述べるとすると、以下の4つとなります。


太陽光発電
風力発電
・波力・潮力発電
バイオマスを燃料源とする酸化物イオン伝導型燃料電池発電


太陽光発電に関しては特に説明は不要ですね。ただ、私は色素増感型は実現しないだろうと考えていますが。
2つほど興味深い研究を紹介。


非追尾型太陽光集光技術[PDF]
http://www.hikari-energy.jp/research/taiyoukou/shuukousheet3.pdf


このタイプなら高価な高効率化合物タイプも安価に利用できるようになるでしょう。


太陽光と太陽熱のハイブリッドソーラーシステム - EOLニュース
http://www.eco-online.org/eco-news/energy/2009082818.php


これは、まさにカスケードスタイルの応用です。


風力発電に関しては、オフショア風力発電が有望でしょう。波力、潮力発電も有望ですが、海洋環境破壊に繋がらないレベルに留める必要があるでしょうね。
最後のバイオマスを燃料源とする酸化物イオン伝導型燃料電池発電ですが、酸化物イオン伝導型燃料電池には次の三種類があります。


・アルカリ型燃料電池AFC
・溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)
・固体酸化物型燃料電池SOFC


私が一番有望だと考えるのはSOFCですが、もし水の分解によって水素抽出が簡単に行われるようになった場合には、AFCが最も有望でしょう。
MCFCとSOFCは水素以外も燃料に出来るため、バイオマス、例えば可燃物ゴミや木材、下水汚泥のメタンを燃料として利用できます。高効率も特徴ですから、材料系研究者にとっては、今後最も有望な研究課題といえるかもしれませんね。


いずれにせよ、全てをスッキリ解決する手段はありません。王道は無いのです。
今後、我々研究者はこうした点に留意しながら試行錯誤を続けるでしょう。メールをくださった方、研究頑張ってください。例え研究が形にならなくても、決して無駄にはなりません。研究に費やした日々は必ず社会に貢献すると信じています。
では。

近自然学―自然と我々の豊かさと共存・持続のために

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未来のシナリオ―ピークオイル・温暖化の時代とパーマカルチャー

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時を超えた建設の道

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1/2 追記

khwarizmi 科学 リンク先の光エネルギー研究所見たけど,反射減らすだけで導波できる構造になってないから現時点では全く期待できない技術.光関係技術の目利きなんて出来ないんだから言及しなければいいのに.

SOH-1は無(減)反射構造だけど、SOH-2は導光構造のシミュレーション結果も出てます。たまたま、この会社は知ってたから載っけたけど、MITなんかも研究しているよ。


参考:MITが新型の集光式太陽電池を開発、レンズや追尾装置が不要に
http://www.nikkeibp.co.jp/news/manu08q3/578144/


ナノインプリントで屈折率制御することは既に行われているから、ロール・トゥ・ロールで実現する手法も研究されているけど。

参考:CANON TECHNOLOGY HIGHLIGHTS 2O1O
http://www.canon.co.jp/technology/pdf/tech2010.pdf

2/6 追記


id:khwarizmiさん

光エネルギー研究所の尾崎豊氏にkhwarizmiさんの疑問についてお尋ねしました。
回答を頂きましたので、了承の上でこちらに掲載いたします。

−−−−−−ここから回答−−−−−−

おっしゃる通り光線追跡シミュレーター(自作)で入射光の追跡を行ったものです。

この時全ての反射屈折光を追跡します。
その中で内部に取り込まれる光線と外部に放射される光線が発生します。
追跡光線は反射屈折をすると2本の光線になりますので追跡光線数は指数関数的に増加します。
実際のシミュレーションでは一定強度(1/10000)以上の光線を追跡し以下の光線は無視しています。
平均的なシミュレーションでは入射エネルギーの99.9%以上の光線が対象になります。 

それぞれの光線の強度、方位を集計したものがSimulation結果として出力されます。


ある目的を持って作成したSimulation Modelによって光線追跡を実施するわけですが
Simulation結果はこの点を考慮する必要があります。

SOH-1ではシート表面からシート内部に取り込まれる全ての光線(シート表面から反射(放射)される光線と途中で無視される光線以外)をSimulationした場合は結果を表面捕捉光Simulationとしています。
この場合シートの片面にプリズム形状を形成したSimulationモデルになります。


SOH-1の両面対称形状のシートの場合にはその表面から捕捉した光線がシート裏面から放射される光線を捕捉光線としています。
入射光線側と裏面の屈折率が1の場合空気中からシートを通って裏面の空気中に出てくる
光線の割合を Simulationすることになります。
また裏面の屈折率を1.33にすると水中への入射エネルギーのSimulationとなります。

太陽光発電素子への入射を想定した場合には素子の表面形状と反射率を考慮したモデルを作成し素子の内部に入射される光線を捕捉光としています。

SOH-1の場合裏面に透過してくる光線を直接利用する目的ですので導光路の概念はありません。
光を集光して利用する場合利用する対象をモデル化する必要がありSOH-1の場合面から面への応用を想定していますのでいわゆる導光路を必要としないと考えています。

一方SOH-2はシート表面から入射する光をシート内部に閉じ込めシートのエッジから取り出す用途を想定しています。
この場合エッジまでの距離がありますので光を逃がさないような導光路が必要になります。
しかし集光する機能である以上導光路に光を取り込む仕掛けも必要になります。この仕掛けは逆に導光路の光を取り逃がす出口にもなります。この仕掛けがシート面内に光を閉じ込める効率を決定します。

私どものアプローチはこの問題を多層化したシートの幾何光学的な構造で最適化することです。
ホームページにアップしている情報はSOH-2の簡易構成としてそのアプローチの一部を紹介しています。
実際には集光層と導光路の組み合わせ構成を機能的に最適化して設計しております。

ただし、最終的な構造については社外秘として公開していません。

MITでのアプローチはシート内部に入射して入射光を色素により散乱させ導光路内の全反射条件を満たす散乱光を平面内に導光する仕組みと理解しています。
しかし 導光路内の捕捉光は他の色素により再度散乱されます。導光路内の全反射条件を満たさない散乱光は導光路外に放射されることになります。導光路内の屈折率が高いと散乱時に全反射条件を満たす確率が高くなり導光路外放射光は少なくなります。またシートのサイズが大きいと散乱確率が大きくなります。
従って色素の濃度とサイズのバランスが重要になるのではないかと考えています。

この構成では最初の散乱では入射光の方向を大きく方向を変える特性がある色素が必要ですし、2度目以降の散乱では入射光をあまり散乱しない特性が要求されます。単層、単一の色素では実現は困難と考えています。むしろ2回目の散乱を起こさない導光路構成にする必要があります。

−−−−−−ここまで−−−−−−

今後疑問がありましたら、ご自分でお尋ねください。
では。

*1:集合住宅ではない事に注意