このエントリーは、
脱原子力はチャンスだよ その1
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20110904/1315116898
脱原子力はチャンスだよ その2
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20110905/1315226340
の続きです。
前回エントリーのような話を持ってくると、次いで登場するのが「(発電)コストが高いから、企業が海外へ逃げる」と騒ぐ連中です。新聞記者にも多数いてウンザリしますね。もともと、私は企業が海外へ出る事はそれほど大きな問題とは思っていません。開発途上の国家と違い、日本は成熟型に脱皮するべきであって、為替レートが違うのに価格面で対抗するようなバカな真似は続けられるわけはありません。適当に企業が出ていけば、為替レートは下がり適当な水準で均衡します。重要なのは再配分や雇用を維持することであって、価格低下のために人を削りまくり通貨の流れを淀ませる企業を守っても得るものはありません。
ま、それは別の機会に詳述しますが、それを置いても自然エネルギー開発を進める事には重要な意味があるのです。というのも、産業界は実際には自然エネルギー利用へ軸足を移し始めているからです。
私が一番よく読む新聞は、朝日新聞でも赤旗でもありません。実は日経産業新聞です。
日経新聞に比べてメーカーを主とする産業に関する記事が充実していて、どちらかといえば企業の技術デモの役割を果たしていますが、この数ヶ月の間に大きな変化がありました。昨今、紙面で多くを占めているのが、「省エネ」と「自然エネルギー」関連技術記事なのです。
そうした記事を丹念に辿ると、面白い事が判ります。
米倉弘昌経団連会長といえば、露骨なほどの東電と原子力擁護で多くの人々の顰蹙を買いました。
米倉経団連会長:「脱原発なら経済成長落ちる」 − 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/biz/news/20110720k0000m020142000c.html
経団連:楽天の退会届受理 米倉会長「誤解がある」と反論
http://mainichi.jp/select/biz/news/20110628k0000m020037000c.html
経団連会長「東電は被災者。東電の賠償は国が負担し、皆で東電を支えるべき」
http://alfalfalfa.com/archives/2940162.html
経団連会長「福島事故の東電の奮闘に頭が下がる。甘かったのは東電ではなく国だ。それと国有化は全然ありえない」
http://blog.livedoor.jp/newskorea/archives/1487276.html
今、彼の人は新政権下で原子力推進再開を期待してウハウハなのでしょう。でも、その米倉氏のお膝元、住友化学を含む住友グループを見ていくと少し違ってます。
「半導体・オブ・ザ・イヤー2011」でグランプリ(住友電工)
http://www.sei.co.jp/newsletter/2011/08/6a.html
当社の「白色LED用6インチGaN基板」が、半導体産業新聞の主催する「半導体・オブ・ザ・イヤー2011」の半導体用電子材料部門で、グランプリを受賞しました
本賞は、重要性を増している最先端のIT機器・産業を支える半導体製品・技術を表彰し、業界の技術および市場のさらなる発展に寄与することを目的として1994年に創設。半導体用電子材料部門は、17回を迎える今年新たに設置され、記念すべき第一回目のグランプリを頂くことができました。
このたびグランプリを獲得した「白色LED用6インチGaN基板」は、LEDチップの小型化、高放熱性による高出力化に寄与します。また、優れた熱伝導性や、高速の電気応答性、高耐圧といった特長を有していることから、パワーデバイスの有望な材料です。
今後、量産技術を確立し、白色LEDやパワーデバイス等の分野において、GaN基板のさらなる普及を加速していきます。
この、GaN(窒化ガリウム)単結晶基板は照明用白色LEDの高効率化(高輝度化)、大量生産に道を開くものです。つまり、照明の省エネルギー化を進めているんですね。また、GaNは、パワー半導体と呼ばれる大電力制御に欠かせない素子を高性能化させます*1。これら、パワー半導体の一番大きな市場として期待されるのが、自然エネルギーなのです。
住友大阪セメント、Liイオン2次電池に用いるリン酸鉄の特許ライセンスを取得
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20110705/193109/
住友大阪セメントは、Liイオン二次電池の性能向上の鍵を握る材料のライセンスを取得しています。高性能なLiイオン電池の大市場が何かは言わずもがな、ですね。
住友金属工業も大型の自家発電施設を持っています。もし、発送電分離が行われれば、効率の良い新型発電設備にして売電も見据える事が出来るでしょう。
自然エネルギーや電力自由化は経団連会長のお膝元でもマイナスにはならないのです。むしろ、従来に比べて市場拡大が見込める状況になろうとしているのです。
もっとハッキリと自然エネルギーシフトを見据えているのが電機産業です。白物やAV、IT市場が成熟し、先細りで海外展開も思わしくない電機産業にとって、創エネ・省エネは有望な次代の市場に成りうるからです。太陽光発電はもちろんですが、家庭用蓄電システムなども力を入れています。
パナソニック、2013年に誕生する藤沢市の「スマートタウン構想」を発表
〜太陽光と蓄電池を標準装備。自動車や自転車のシェアリングも
http://kaden.watch.impress.co.jp/docs/news/20110526_448578.html
「世界の未来像」をつくる街 柏の葉キャンパスシティ
スマートシティ、健康長寿都市、新産業創造都市の
実現に向けた取り組みが本格化
http://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2011/0712/index.html
必ずしも、その方針に賛成とは云えませんが、電機産業にとって大きなチャンスとなっている事は確かです。韓国・中国勢との競争で疲弊した電機産業に新たな技術と市場獲得の機会を与えます。実は、このジャンルでも中国勢の伸長は著しいので、積極的な支援をすべきだと思うのですが。「原子力が無いと経済が落ち込む」という人々は、本当に何も判っていないというか、調べようともしないのですね。
「自然エネルギーでは半導体は製造できない」という意見もよく出ます*2。
でも、これもくだらない意見です。自然エネルギーの導入が進んでいるドイツにはインフィニオン社があります。
infineon Technologies
http://www.infineon.com/
まだ、全部自然エネルギーに置き換えてもいない、導入も進んでいないうちからデマを飛ばすのは止めましょう。この手のくだらないデマに対しては、水道を例に取ってみればいいでしょう。
日本の電力供給は電圧も周波数も変動の少ない「高品質」です。水道でいえば高度浄水された水道ですね。でも、皆が高品質の水道が必要かといえばそうではないわけです。多くの用途が風呂やトイレである日本において、全量を高度浄水する必要はない。飲用や調理などには「浄水器」を利用したり(実際、皆そうしてますよね?)、スーパーで「アルカリイオン水」とやらを買ってきて利用したりするわけです。
電力でも同じです。以前、説明しましたが、家庭用に限らず現在の電器製品に使われるのはインバーターを通しますから高品質の電流はいりません。産業用でも必要なところは限られます。そういうところでは、「自家発電」でもいいし、バッファーや精度の高いインバーターを設置すればいいのです。その方が送電設備も簡素化出来ますし、コストダウンに繋がるでしょう。
さらにつけくわえるなら、
三菱総合研究所、三菱電機、青森県八戸市の3者は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)からの委託事業「新エネルギー等地域集中実証研究」の一環として、太陽光発電などの再生可能エネルギーのみを用いて商用電力系統と同等の高品質な電力品質を得ながらの自立運転に世界で初めて成功したと発表した。
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20071114/1195029911
この記事は2007年のものなので、いい加減、ダメな認識を曝し続けるのはやめましょう。