シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

脱原子力はチャンスだよ その5(5/5)

このエントリーは


原子力はチャンスだよ その1
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20110904/1315116898


原子力はチャンスだよ その2
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20110905/1315226340


原子力はチャンスだよ その3
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20110910/1315639169


原子力はチャンスだよ その4
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20110913/1315914333

の続きです。


この話も一応これが最後です。
さて、産業が海外流出する話ですが、前に述べたとおり、勝手にすればいいと思っています。
出ていく事も決して悪影響ではない、という事以外にも、企業のハッタリにすぎない、という事情もあります。


そもそも、「出ていく」と恫喝する企業の挙げる新興国、中国・タイ・インドネシアベトナム・マレーシア…、どの国も慢性的に電力不足です。出掛けてみれば判りますが、しょっちゅう停電があります。経済発展に伴う電力需要の増加に電力供給が追いつかないんですね。当然、電力の質もよくない。でも、進出する企業が相次いでいる。これはどういうことか?
一つは、電力供給を優先して貰っている。ただ、これは進出先の都合によって影響を受ける。自国資本を優先する政策となれば、電力供給もおぼつかなくなります。
もう一つが、自己で賄うこと。大概は、日系企業群は同一の工業団地へ合わせて進出しますから、その団地レベルで発電所を持つ事が出来ます。
であれば、日本でも同じですよね。電力供給を自分達には質の良い電力を廻してくれ、と要求しても良いし、幾つかの企業工場群で共同の発電所を持っても良いわけです。そのどちらでもなく、「原発を始動しろ!でないと、出ていくぞ!」
というのは、単なる難癖に過ぎないのです。


また、企業の海外移転には夥しいコストが掛かります。
人材、人材育成、労働力、労働力調達手段、用地、交通アクセス、部品/部材供給、顧客、経営、etc…。様々な問題を粘り強く解きほぐして、ようやくその国に根を降ろせるのです。覚悟と長期的展望が必要な話であって、単に「電気が高いから出ていく」みたいな甘い話はありません*1
出ていくところは、どうやっても出ていきますし(莫大なイニシャルコストを回収するため)、出ていく詐欺をはたらくところは、その程度のランニングコストさえケチっているわけですから、莫大なイニシャルコストを気前よく出したりはしません。


むしろ、日本においては独占の弊害である高い電力料金が、妨げになってきました。静岡県の中部、現在は静岡市になりますが、蒲原にある日本軽金属蒲原製造所は国内ではアルミ精錬を行う唯一の工場です。


日本軽金属株式会社 蒲原製造所
http://www.nikkeikin.co.jp/pages/kaisya_annai/06seizoukyoten/seizoukyoten_dtl/kanbara.html


アルミ精錬には莫大な電力が必要なため、日本ではアルミ精錬業は潰滅しました。なぜ、蒲原製造所が残ったか、というと、自前の水力発電所を持っていたからです。


参考:(こちらに蒲原製造所の水力発電用導水管が載っています)
http://blog.goo.ne.jp/voyage-voyage/e/cbd9e49c96a0b2e5abeaffa8adabca73


でも、アルミ精錬業が出ていくような状況に異論を唱えていた「原発推進派」っていましたかね?日本では、電力料金に全ておっかぶせる「総括原価方式」を取っています。高コストにした方が利益になる。それが、原子力を進める理由の一つともなりました。そういった構造にクレームを付けたりしなかった方々が、自然エネルギーを「高い」と騒ぐのは、あまりにバカすぎます。今更何言ってんの?


前にも説明したように、成熟段階にある(進むべき)日本において、全ての加工産業を残すことは不合理で不可能です。いかに人件費をケチり、こき使い、値切って、海外市場での価格競争力を維持しようとしても、為替レート次第で全てチャラになります。為替レート自体、抱え込む外貨量によってシフトしますから、どこかで限界がくるのです。故米原万里さんは、それをパスカルの定理に喩えて説きます。むしろ、得た外貨を効果的に再分配によって内部循環させて内需を活性化する方が良い。
一部産業が国外へ出れば、為替レートが下がることによって国内生産と国外生産の価格競争力が均衡する時が来ます。どの企業も、本音では出ていきたくない。均衡状態になる時を待った方がいいか、打って出る方がいいのか、ババ抜きみたいなものなのです。だからこそ、出ていく詐欺を行っているとも云えるわけですが。


日本が行うべきことは、ひたすら輸出産業を維持し続ける事ではありません。均衡レベルで国内経済が充分に廻る構造を作り上げること。今まで進めてきた政策は明らかにダメな方向にありました。税よりも、電力よりも、内需を創ること。それが、求められる事なのです。そして、自然エネルギーにはそのチャンスがある。原子力固執するなら、チャンスを失う。


虎視眈々と自然エネルギー市場進出を狙う企業と話をして感じるのは、政府が本腰を入れるかどうかを疑っている、という事です。本腰を入れるなら、驚くほど巨大な産業が立ち上がるでしょう。ドイツなど比では無いほどに。でも、脱原子力が進まなければ?
投資も進まず、諦めて国外市場に活路を求めるかするでしょう。
みなさんはどちらがお好みでしょう?
では。


この後、少し頂いたコメントに回答するエントリーを上げていきます。

真夜中の太陽 (中公文庫)

真夜中の太陽 (中公文庫)

*1:法人税が高い!」も同じ話