天涯無限 書評
先だって「アルスラーン戦記(アルスラと略す)」についての思い出を語りましたが、最終巻「天涯無限」を読みましたので、少し感想を。
いや、結構な「皆殺しの田中」状態。ちょっと趣は「タイタニア」と似た感じですね。「タイタニア」は著者が「途中で行き詰った」と漏らしているので、斬って捨てたかな、と思っていたのですが、アルスラも結構な死屍累々です。マヴァール年代記にも被るかもしれません。個人的には、アルスラのモチーフとなっている「王書」中の最大の英雄のあの人が登場して感動です。
以下、ネタバレ注意
もともと、アルスラは著者が物語の一パターンである「貴種流離譚」をひっくり返したらどうだろう?ということで始められたシリーズです。主人公のアルスラーンは王家の血を引いてはおらず、宿敵ヒルメスこそが「貴種」であり、“正統な”物語ならアルスラーンこそが敵役になるわけですね。
で、最終巻では、ある意味、物語の一パターン、「成長し偉業を成し遂げる主人公」を壊してしまいました。アルスラーンは成長し偉業を成し遂げますが、天寿は全うできません。そして、王を失ったパルス国は長い混乱の時代に入ります。まさかの展開でした。
彼の遺志を継ぐのは嗣子ではなく、そして従者エラムでも、その子でさえない。かつての大将軍キシュワードの子アイヤールでもなく、その子ロスタムなのです。ちなみに、ロスタム、は「王書」中最大の英雄で、彼はイランの王には就きません。
正統な物語の構造を上手く壊しながら、それでもしっかりとした骨格と魅力的な登場人物が登場するアルスラは、まさにファンタジーの金字塔です。
ちなみに、蛇王ザッハークの正体は薄々予想していました。ザッハークがかつての魔術によって造られた、というのは、アルスラ世界が遠い未来の文明が一度失われた先、ということなのか(つまり、ザッハークは魔術とも見紛う「生命工学」によって造られた存在)、それとも魔術によって造られたものなのか、どちらなんでしょうね。
そして、ザッハークが語る“真実”、ザッハークや魔物らを生んだ者たちの傲慢さ、は現在重要な指摘だと思いました。
ちょっと、この「創物主に造られたとしても、創物主に従わなくてはならないとか、敬意を払う必要は無い」という点は、今度論考したいと思ってます*1。
アルスラーンの理想は果たしてロスタムによって実現するのでしょうか?この先を考えることも魅力的ではあります。また、ザッハークに叛旗を翻した若きカイ・ホスローの話も面白そうです。
では。
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