アルスラーン戦記 完結おめでとう!
先日、アルスラーン戦記が完結する、という噂が流れまして、“そんな日が来るものかよ。そんな甘い噂に振り回されるとは、まだまだだな。”などと思っておりましたら、本当に、光文社のサイトにてアナウンスされているではありませんか。
田中芳樹 アルスラーン戦記最終巻発売記念ページ
https://www.kobunsha.com/special/arslan/
うーむ、世の中に何かが起こる前兆なのか、それとも何か起こったのか、などとヒドイことを考えたのですが、同サイトに「「#アルスラーン名場面」をつぶやいて、サイン入り全巻セットをゲット!」というような事が載せられておりました。私はツイッターをやりませんので、ここでアルスラーン戦記の思い出について語るといたしましょう。
他の人々の大半は、「銀河英雄伝説」から「アルスラーン戦記」や「創竜伝」へ進んだのではないか、と予想するのですが、私の場合、ちょっと違った邂逅をするのです。
- 作者: 田中芳樹,星野之宣
- 出版社/メーカー: 東京創元社
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そもそも、私がアルスラーン戦記(以下、アルスラと略す)を知ったのは、アルスラが創刊されたばかりのことです。
作者、田中芳樹氏と赤木毅氏の対談*1で、角川文庫の書き下ろしキャンペーンが契機、というコメントがありますが、まさに、そのキャンペーンで発刊された数多くの作品に書店で出会ったのでした。
- 作者: 田中芳樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/11
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当時、本を買う小遣いが乏しかった私は、同じく本好きの友人と、本をシェアしておりました。つまり、互いに「俺はこの本買うから、お前はあれな。」と打ち合わせて、買った後に貸し合うのです。こうやって何人かで買えば、乏しい小遣いでも読む本の世界が拡がるわけです。で、その時、角川文庫新刊が平積みになった一つに「王都炎上」がありました。
- 作者: 田中芳樹,山田章博
- 出版社/メーカー: 光文社
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しかし、実はアルスラは私の興味を引きませんでした。なぜなら、当時私は田中芳樹のことが好きではなかったからです。徳間ノベルスから出ていた「銀河英雄伝説」は本好きの私の興味を引きはしましたが、そのタイトルと、表紙裏のあらすじから想像される話がどうにも気に食わなかった。
「銀河」で「英雄」、スペースオペラだって?
その頃、私はアンチヒーローもの、を好んで読んでおりました。最近はアンチヒーローという言い方をあまり耳にしませんが、要は“正義の味方”“英雄”ではない主人公、であり*2、代表的なのが、平井和正の「ウルフガイシリーズ」、主人公の犬神明*3というところでしょうか?正義のためではなく、己の誇りと生存を掛けて戦うタフガイ。この犬神明はのちのヒーロー像に大きな影響を与えたらしく、その造形が似た主人公はあちこちの作品で用いられています。
狼男だよ アダルト・ウルフガイ・シリーズ (NON NOVEL)
- 作者: 平井和正
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閑話休題
というわけで、「英雄」という言葉があまり好きではないうえに、「銀河」を舞台にしたスペースオペラ、というのも気に入らなかった。E.E.スミスの「レンズマン」シリーズ*4じゃないんだから。私の中では、スペースオペラ、などというのは子供の読むモノ、というイメージであったのです。
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その頃好んで読んでいたのが、J.P.ホーガンの「星を継ぐもの」等の、いわゆるハードSFだったから、銀河を二分して戦う銀河帝国と自由惑星同盟、なんて設定自体、もうお腹一杯、誰が読むかよ、という感じだったのです。今考えると、食わず嫌い、ということでしょう。
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ちょっと長い説明ではありますが、よって「王都炎上」は今一つ私の興味を引かなかった。ただ、表紙のイラストには魅かれました。今、光文社ノベルス版では、丹野忍氏のイラストですが、角川文庫版では、天野喜孝氏だったのです。というわけで、“作者は気に入らないが、表紙は気になる”本としていました。
で、一方で友人は、この「王都炎上」ともう一つ、火浦功氏の「大熱血」に興味を魅かれたようでした。というわけで、友人と私で買う本を決める段にあたり、候補はこの二つとなりました。どちらがどれを買うのか?大熱血の挿画はゆうきまさみ氏、当時「究極超人あーる」で見知っていたこともあり*5、私としては「大熱血」の方がマシだな、と思ったのです。結局、どちらを買うか(所蔵をどちらにするか)について、ジャンケンで決めた結果、私が「王都炎上」となりました。ちょっと、ガッカリしたのですが、それが後の運命を決めようとは知る由も無かったのです。
未来放浪ガルディーン(1) 大熱血。 (角川スニーカー文庫)
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自分のものとなった「王都炎上」。さっそく読み始めると(読み終わったら、友人に貸す予定になっていますから)、いきなり惹きつけられました。登場人物がどうにも魅力的だった。
主人公のアルスラーンは大国パルスの王太子でありながら、気取った様子の無い少年。父王や母后からやんわりと疎んじられている。なんて描写で主人公に感情移入します。で、トドメが、アルスラーンが隠遁したナルサスを軍師に迎え入れる時の言葉。ナルサスもあっけに取られたのですが、読んでいるこちらもあっけに取られ、そしてアルスラーンの度量に感心したのです。当然、この部分を描き切った作者にも敬意を表し、「これは、銀英伝をバカにしない方が良いかもしれない」などと思ったのでした。
結局、日本でもヨーロッパでもない中世ペルシアをモデルにする、というセンス、王侯らしからぬ振舞いの王太子を主人公にして、王者の責務というものを問う態度、といい、私の好みでありました。読み終わる頃には、一人の田中芳樹ファンとなっていたのです。ただし、「銀英伝」に手を付けるのは、しばらく先のことになります。
読み終わった後、友人と交換した「大熱血」。これも非常に面白かった。しかし、大きな欠点が火浦功氏にはありました。続巻が全然出なかったのです。
現在では信じられないことでしょうが、アルスラの続き、「王子二人」は半年ほどで発刊されました。シリーズものを待ち侘びる身としては、キチンと続き出るかどうかは大きい。
というわけで、泣く泣く「未来放浪ガルディーン」は諦めることとしたのです。アルスラではシリーズものの続きがちゃんと読める、という幸せを噛みしめて。まあ、皆様ご承知ではありましょうが、それはまもなく裏切られることとなるのですが、その頃には今更足抜け出来ないほどに、ずッポリ嵌まっていたのであります。
今に至るまでに、角川文庫から光文社ノベルスへ舞台を移し、コミカライズは二度、一度は映画化され、TVアニメ化もされるという中、望まれるのは完結。当時14歳だったアルスラーンも良い歳のオッサンになっていても不思議ではないわけでして、彼の戦いを見守るのもこれで終わりか、と思うと感慨深いものがあります。
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田中先生、おめでとうございます。そして、ありがとう。
これから、「創竜伝」も、「薬師寺涼子」もどうなるのか、また、ライフワークである中国時代もの、後漢の光武帝や明の鄭和、三大奇書の翻案などもお待ちしております。では。
- 作者: 田中芳樹
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