シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

銀河巾幗英雄伝説

田中芳樹と銀英伝 アルスラーン戦記 創竜伝

前回エントリーでさんざん「田中芳樹愛」を語らせて頂きましたが、やはり触れないわけにはいかないでしょう。銀河英雄伝説
銀河英雄伝説」ですが、刊行が1982年、ということもあり、色々とツールやガジェットなどで「古いなあ」と思わずにはいられないことがあります。
とりわけ、住居や社会インフラの発展しなさ加減はスゴイ*1
田中氏はエッセイで「未来の宇宙を舞台に歴史モノを再構築する」ことを目指した旨述べており*2、その面から云って、ガジェット類が古く感じられることは些細な問題でしかないわけですね。
例えば、現在の技術進展から考えて、超光速航行を可能とするような未来社会で人工知能が実用レベルではないことはあり得ません。戦術・戦略用の人工知能はラインハルトもヤンも超えるでしょう。ですが、それでは好敵手同士の戦いは無くなってしまうわけです。ですから、この世界には有効な人工知能は存在しない、そういう舞台を用いたわけです。実際、内容自体は未だに古びたところがありません。


しかし、社会制度や人の意識などは現在のものをキャラクターに活かした方が、もっと面白くなるかもな、と思うところもあります。
例えば、主人公の幾人かの性別を変えるとか。ラインハルトとキルヒアイスは、女性キャラの方がグッと話に膨らみが生まれるのではないでしょうか*3
ラインハル子・フォン・ミューゼル(仮)とジークフリー子・キルヒアイス(仮)ということにして進めますと


姉の宮廷での権勢を背景に士官学校に特例として入り、若輩で美貌の女性ということで二重に侮られつつも実力で軍内部の階級を駆け上がるラインハル子(仮)。そのラインハル子(仮)に憧れて従い、共に覇道を目指そうとするキルヒアイス。皇帝の寵愛を背景に強かに宮廷を牛耳り、権力を手に入れようとするアンネローゼ。さらに、ラインハルトをライバル視しているヒルデガルド。
とか云う方がキャラも立つような気もします*4
さらに、ラインハルトに従う提督たちも、その実力を認めつつ心密かに魅かれる、とか。それってベルばらか。


同盟側は、その国是から云っても、もっと女性登用が進んでいても不思議ではないのですが、ヤンを女性にすると、微妙にキャラが立ちにくいので、男性のままの方が面白いか?かわりに、ローゼンリッターを“女性がメインの白兵戦闘団”にするとか(まさに、ヤン・レディジェネラルズ(楊家将演義)!)、シトレ元帥やビュコック提督、レベロやホアンあたりは女性キャラの方が断然面白いと思う。


いや、自分で二次創作すればいい、という意見もありますでしょうが、私が書いてみると、キャラが勝手に動き出し、イゼルローン要塞攻略後の大遠征をヤンが阻止してしまうのです。
どうやって、大遠征を止めるのか?それは、


同盟軍内外に遠征軍首脳による反乱の噂を流すこと。


歴史を見る限り、権力者に不満を持つ軍高官に大兵力を与えて離れた本拠地を設けると、よく反乱が起きます。
梁の候景とか隋の李密とか唐の安録山とか宋の高祖、明の永楽帝とか。そして、権力者側もそれを警戒して、軍の実力者を粛清したり、兵力を分散したり、監視を付けたりします*5
もともと同盟軍首脳の大半が帝国領内への遠征に反対なのは同盟評議会も承知しているわけですし、過半数を越える艦隊と難攻不落の本拠地を持ったらその軍事力は本星を凌ぎます。


実際に反乱が企てられているかどうか、その噂があやしいかどうかは、あまり関係有りません。
同盟首脳陣は、自分達が選挙目当てで出兵を決めた、という後ろめたさと、軍首脳部に対する不信感で、勝手に噂を信じ込んでくれます。というか、信じなくても、その可能性を思いついただけでも、彼らは安心して大兵力を一カ所に集めることは出来なくなります。


噂が評議会へ伝われば、彼らは出兵と撤退のリスクと利益を秤に掛けて内部分裂するでしょう。いずれにせよ、出兵は一時見合わせ、そのままなし崩し的に中止となり、軍首脳部を持ち上げる形で本星への帰還を促すことになります。そして、自分達の失態を取り繕うため社会の要請に従い、軍の縮小、招集者の復帰、を進めざるを得なくなります。
ヤンの望んでいた、数十年かそこらの平穏な時代、が到来するわけです。


一方、帝国側はあらかじめ大規模な焦土戦、同盟軍が深く侵攻してきたら戦わずに後退し、敵兵站が延び切った段階で補給線を断ち反撃に出る、を準備していたわけですが、同盟の侵攻が突如中止になると、多くの惑星を物資の無い状態で孤立させつづけることになります。早く収拾を付けたくても、同盟の出方が読めないので、戻ることも容易ではありません(各星系に物資を送ろうして再度同盟の侵攻があれば、帝国側が大打撃を被るので)。
結果として、ラインハルトの失態ということになり、降格は免れず、元帥府が無くなれば登用した提督らは散ってしまいます。特に、オーベルシュタインはラインハルトの庇護を受けられず、逮捕されるか、彼自身が逃亡を選択するか、ということになるでしょう。ラインハルトの権勢はずっと小さくなり、そして抑え込む力は強まるでしょう。

皇帝が崩御すれば、ラインハルトの軍事的才幹が生きることになるでしょうが、それでもラインハルトの進長と、帝国内の混乱が収まるのは、ずっと先のことになります。ラインハルトは自身の後背を脅かされないように同盟と和睦するかもしれません。


こうして私の妄想では、ヤンが噂を流すだけで成り行きがどんどん変わってしまうのです。そして、戦史を始めとする歴史に通じているヤンが、この手を思いつかないとは思えないので、私が二次創作するとなると、どうしてもこうなってしまう。つまり「銀河非英雄伝説」になってしまうのでした。
では。

*1:とはいえ、刊行当時にこうした技術発展を考慮しているのは素晴らしいです

*2:講談社文庫「書物の森でつまずいて…」中、アイザック・アシモフの「銀河帝国興亡史シリーズ」評にて

*3:当然、「薬師寺涼子シリーズ」が念頭にあります

*4:道原かつみ版「銀河英雄伝説」では、フェザーンルビンスキーがルビンスカヤになっていますね

*5:粛清の例として、明の袁崇煥が挙げられます