シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

ヨーロッパは天国じゃない

まだまだ頑張る石井氏。あいかわらずグダグダな文章。


・ヨーロッパは理想の地なのか
http://wiredvision.jp/blog/ishii/200712/200712181100.html

ヨーロッパは理想の地なのか?

「出羽守(デハノカミ)」という言葉が、私の働くメディア業界にあります。時代劇で使うのではありません。

いや、もうその手のグダグダな衒学趣味はいいから。で、本題に入ると、やっぱりトンデモなかほりが…。

しかし、事実を検証するとヨーロッパが理想的な社会を作り上げたと言えません。また、日本が環境・温暖化対策で、他国に比べて極端に遅れていることもありません。

同じGDPを生産するために、どの程度のCO2を排出するのかを比べてみましょう。日本を1とした場合に、EUは1.7、アメリカは2.1、中国は 10.8、ロシアは19.7です(注1)。

いや、だから“GDP”を比較しても意味無いから。しかも、比率を測ってもしょうがないって。「温室効果ガス放出」の絶対値が問題なんだから。いくら、GDP比率上げようとも、絶対値でCO2換算濃度を上げてしまえば、気候変動の食い止めにならないし。

ロシア19.7、を見れば、この比較のしかたがヘン、って気付きそうなものだけど。GDPの内訳を考えれば、サービス・金融なども大きな要素を占めるわけで、CO2∝GDPって事にはならないんだけど。

個別の産業を見ても電力、鉄鋼、セメント、紙など、日本の製造業は、世界トップクラスのエネルギーの効率性を持ちます。2度の石油ショックの経験から、産業界を中心にした省エネ努力を進めたためです。

このへんの認識の甘さについて問題があるのよ。


・できるか−6% (京都新聞 via:書を守るもの さん)

日本は自他共に認める「省エネ大国」。しかし今、その「神話」が崩れかけている。先進各国や途上国の一部で省エネ政策やエネルギー転換が進んだ一方、日本では火力発電所や鉄鋼、セメントなど一部の産業でエネルギー効率が悪化。他国の追随を許し始めている。
 世界エネルギー機関(IEA)の各国産業エネルギー消費比較によると、六〇年には欧米の二倍以上だったエネルギー効率が二〇〇〇年代に入り同等となり、〇四年には英国に追い抜かれた。
 日本経団連の業種別のエネルギー効率比較でも、日本は製紙産業のエネルギー効率でドイツや韓国に敗北し、セメントでも韓国に後れを取っている。
 火力発電所の効率悪化も顕著だ。国内の火力発電所からの二酸化炭素(CO2)排出量は〇四年、一九九〇年比で11%も増加した。

http://www.kyoto-np.co.jp/info/ecology/dekiruka/index.html


つまり、もともとエネルギー効率の低かった他国は、地道に効率改善に取り組んだが、日本はむしろ改善を怠ったわけ。
実際、90年代を通じて海外への(汚れ)産業移転を考えれば、エネルギー効率は“劇的”に悪化している。

最近はあまり目立った政策を打ち出せず、昔日の勢いのない経済産業省ですが、これまでの省エネ政策は国際的な評価を受け、多くの国の参考にされています。たとえば、環境面でもっとも進んだ技術の機械・家電製品を参考に規制を設け、他の企業が追い付くように競争をうながす「トップランナー方式」という政策を行ってきました。これは民間の力を活かしながら、省エネを推進した有効な政策でした。

もともと、家庭部門のCO2排出比率は高くない。もちろん、家電メーカーの省エネ対応と「トップランナー方式」は素晴らしいことなのだが、問題は、CO2排出比率の高い産業部門に対して同様の規制を掛けなかったこと。
たとえば、電力はCO2排出で大きな位置を占めるわけだが*1、日本の火力発電所の効率向上は進んでいない。
一番、問題なのがJ-POWER(旧電源開発)の持つ石炭火力。これもトップランナー方式で制約を掛け、必要なら補助を出すことで効率の高い火力へ換える事が出来た。
最新鋭コンバインドサイクル発電の場合、効率が一気に10%以上も上がるのだ。


・コンバインドサイクル発電
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB%E7%99%BA%E9%9B%BB


産業でやはり問題なのが製鉄。これも、次世代型の製鉄法が登場している。


神戸製鋼と米国SDI、次世代製鉄法の商業機プロジェクトを次世代製鉄法開始
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071121-00000021-rps-ind


地道な研究を行ってきた神戸製鋼には頭が下がる思いだ。だが、製鉄法の変更には莫大な費用が掛かる。転換を進めるための的確なインセンティブが必要。ところが日本政府は製鉄会社に対してトップランナー方式の制約を掛けたりしていない。
そんな後ろ向きな態度では韓国産業界にも遅れを取るだろう。


ポスコ、新製鉄技術「ファイネックス」を開発(朝鮮日報
http://www.chosunonline.com/article/20070531000014


日本の太陽電池産業については、今までさんざん述べてきた。的確な政策を導入しない、もしくはスポイルする事で、遅れ出している。
下の記事は、少々怪しく思うものの*2、ドイツの積極的なコミットが生んだ実例の一つだ*3


・新興企業Nanosolar、超低価格の薄膜太陽電池パネルを商業化(IT media News)

同社は太陽発電システムメーカーの独Beck Energyとともに、ドイツの太陽発電所から契約を受注。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0712/19/news026.html


もっとも問題なのは、国土、しかも平野部、の狭い日本にドカスカと道路を建設し、自動車を溢れさせるほどに走らせ、さらに道路を増やそうとする、下らない政策。
運輸部門における対策はまったく行われていない。有効な施策としては、後述の「都市内自動車締め出し」とか運輸のモーダルシフトなどがあるが、行おうとする様子がない。口ばかりだ。


モーダルシフト
http://www.pref.osaka.jp/kowan/port_sales/site/modalshift.htm


こうした実例を見ていくと、次のように云える脳天気さに呆れる思いだ。

個別の政策でも、ヨーロッパが進んでいるとは限りません。たとえば、自動車の速度制限は日本に比べヨーロッパは緩やかです。国土にしめる森林面積も、7割弱の日本よりヨーロッパ諸国は少ないはずで、環境負荷は高いと思われます。EUの運営する排出権取引制度も、それはEU域内の排出権のやりとりのみで、効果は域内にとどまっています。EU企業が、アジア・アフリカに生産を移す可能性もあります。(注2)

本の森林、特に人工林は価格低迷と輸入木材によって荒れ果てている。知り合いの林学者には「緑の沙漠」と呼ぶ人もいるくらいだ。一方、日本の輸入する木材の多くが温帯域以外の天然林。つまり、国内の森林を荒涼とさせ、海外の森林を破壊しているのだ。
森林が重要と考えるなら、国内木材使用と輸入材制限は欠かせないはずなのだが、政府がそれに乗り出す気配は無い。


それに、優れた政策はEUには限らない。たとえば、アメリカでもポートランドなどは先進的政策を取っている。ブラジルにはクリチバがある。


ポートランド
http://www.geocities.co.jp/NatureLand/5908/portland.html


クリチバ
http://www.geocities.com/Tokyo/Ginza/5416/world/curitiba.html


問題は、どこが優れた政策を取っているか、にあるのであって、とりわけ「EUがすばらしい」と言ってる訳じゃないのだ。

こうした日本の環境・温暖化面での誇るべき姿が、国際社会の中で強調されていません。日本はEU諸国よりも、効率的にエネルギーを使う社会を作りあげているのです。

誇るかどうかは別として、このような日本の態度はNGONPOや各国には見透かされている。だから、相手にされないし、「化石賞」まで贈られるハメになる。

EU諸国は1980年から90年代に、酸性雨防止や廃棄物の管理など域内の環境の取り決めを数多く締結しました。その経験が、政府にも、産業界にも、社会にも蓄積されています。どのようなPRを進めれば国際交渉の場で自ら有利な立場に立てるのか。条約の国内へのインパクトはどのようになるのか。彼らにはノウハウがあります。別の機会に詳述しますが、EUは自国に有利な形で、温暖化問題の国際制度を組み立てています。

日本においても環境問題は他人事じゃなかったはずなのだが、そのへんのノウハウを蓄積する事を怠ってきた。その点が問題なのよ。

京都議定書の国際交渉を行った旧通産省の官僚が、EUと日本の政府の力量の差をみて「B29に竹やりで立ち向かった太平洋戦争と同じことをしてしまった」と敗北を認めていました。こうしたEUの「したたかさ」にも、目を向けるべきでしょう。そのPRのうまさが「EUは温暖化の面で素晴らしい社会を作り上げた」というイメージを日本の一部に植え付けているようです。


だからねぇ、こんなタコな事を大まじめで語ってしまう石井氏は、あきらかに勉強が足りない。

EUを称える「デハノカミ」がちらほらと日本に登場するようになりました。

ある会合で、国会議員のスピーチを聞いたことがあります。その人はドイツの環境配慮型の交通制度を現地視察したそうです。パーク・アンド・ライド(市街地周辺に駐車場を整備し、市内乗り入れを制限する街作り)、路面電車の復活や地域を循環する小型バス、ガードレールの木製化などを紹介した上で、「EUは進んでいる。日本は頑張らなければならない」と話していました。

神奈川県鎌倉市など、多くの自治体でパーク・アンド・ライドは行われていますし、路面電車や地域バスの整備を行う自治体も増えています。森林の多い長野県は、田中康夫前知事の提唱で、ガードレールの木製化を一部で行いました。人間の考えることは洋の東西を問わず、大きく変わりません。日本をもっと知ってほしいと、残念に思いました。

石井氏がまるで理解できていないのが、ビジョンを描き、包括的な政策を取る事の大事さだ。
だから、ドイツ各都市の都市政策と鎌倉を比較してしまうワヤをやってしまう。

で、鎌倉のパーク&ライドについては、以下が詳しい。


パーク&ライド再考(中編) (ECO JAPAN)
http://www.nikkeibp.co.jp/style/eco/special/070316_parsaikou02/index.html

・鎌倉パークアンドライド


●システム実施日

土・日曜・休日(1/1〜1/8・4/27〜5/6・7、8月の土日、休日を除く) 

◎なお、由比ガ浜地下駐車場は平日も営業しております。

http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/dorokanri/homepage/parkandride.htm


・市内住民の自動車については考慮せず
・公共交通の便のいい鎌倉まで自家用車で来ることは不問とし
・観光客の一部の誘導に留まり
・かつ、日が限られている

点で、包括的な都市政策などではない。もちろん、試みは評価するし、順調に進んで欲しいとは願っている。これがきっかけでカーフリーな社会への手掛かりが出来れば良いとも思う。
が、フライブルグあたりの政策と比較すること自体がナンセンスなのだ。


・環境先進国 ドイツ
http://www.german-consulate.or.jp/jp/umwelt/alltagsleben/freiburg.html


フライブルク駐在員レポート
http://www.geocities.jp/freiburg2004report/


フライブルクLRT
http://homepage1.nifty.com/wanpaku/lrt/Freiburg/freiburg_top.htm


日本でまったくこの手の試みが無いか、といえば、そうではない。


富山市が取り組むコンパクトなまちづくり[PDF]
http://www.env.go.jp/council/27ondanka-mati/y270-06/mat01-1.pdf


・「コンパクトシティ」−青森市の事例−
http://www.jcci.or.jp/machi/h050218aomori.html


・「コンパクトでにぎわいのあるまちづくり」を目指して[PDF]
http://www.pref.yamagata.jp/ou/shokorodokanko/110003/publicfolder200702197780488472/publicfolder200703159620074477/copy2_of_aee.pdf


ようやく萌芽が見えかけている。これらをコミットするために必要な事は何か?それが、本当に石井氏に必要な視点だろう。

ある国際NGO(非政府組織)のエネルギー政策案を聞いたことがあります。自然エネルギー中心の経済構造に日本を変えるとしていましたが、その実現プロセスを深く考えていませんでした。電力会社や石油会社など、そのNGOが敵視する産業界の手助けが、エネルギー政策の見直しでは必要です。それを指摘すると、担当者は激高し、私はお叱りを受けました。

「温暖化でこのままでは世界は滅びるんです! 私たちが社会を変えます。EUではそうなりました。そんな発想をする人がいるから、日本はダメなんです」

もちろん、タフでしたたかな交渉こそが必要な事は云うまでもない。
しかし、電力会社や石油会社は、“極めて”後ろ向きな連中であることを無視しても仕方がない。
電力会社の後ろ向きさについては今までも原子力を絡めて散々説明してきた。
一方で、石油業界はどうかといえば、とりわけバイオマス燃料に関して後ろ向きさが目立った。


バイオマス燃料と二つの方式・政府VS石油業界の対立構造と現状をまとめてみる
http://www.gamenews.ne.jp/archives/2007/01/vs.html


海外では普通にエタノール混合比10〜20%が行われている。ブラジルでは100%まで存在する。石油業界の横車で日本では3%までに留まった。導入されている国では日本車も多く走る事から、業界の言い訳は滑稽なものだ*4
このような後ろ向きな連中と折り合うには、安易な妥協は無意味な事は明らかである。

夢や理想は大切ですが、現実に落とし込まなければ「絵にかいた餅」というべき無意味な空想になります。取材活動で本音をもらした私も問題でしたが……。


なぜ、石井氏は“石油業界”や“電力業界”の連中に、「現実は大切ですが、夢や理想を追わなければ「未来」を失う事になりますよ」とは云ってやらなかったのだろうね。
おそらく、
「温暖化対策など言ってると経済は落ち込むんです! 私たちが社会を支えます。EUではそうなりました。そんな発想をする人がいるから、日本はダメなんです」
と担当者は激高し、お叱りを受けただろうけど。
本音を漏らす対象という点で、石井氏には根本的に“イヌ”体質があるようだ。

温暖化問題を語る論者の大半は、まじめで真摯に地球の未来を考えています。また「デハノカミ」の皆さんも、善意で発言していることは疑いありません。ですが、日本だけがこの問題で、特に遅れていることはありません。「EUでは……」と話し始める人がいたら、「日本も頑張っています」と、事実を淡々と述べましょう。


ま、示してきたように、日本も頑張っている、という実態はない。というか、あったのだが、現在はむしろ後ろ向きで場当たり的対応に留まっているのだ。
記者というのは、詰まらないお追従をお偉方に言って、言い訳の材料をやることか?
そうじゃないだろう。自分に必要な活動は何か、もう一度考え直すんだね。

*1:原子力に関する話題は止めておく

*2:CIGS型の太陽電池は、深刻なインジウム不足を促進させる可能性がある

*3:ドイツはご丁寧に複数企業に発注することでリスクヘッジとコストダウンを狙っている

*4:自分としては、現在のバイオマス、とりわけバイオエタノールに関しては良いモノとは思わない。が、この問題は、バイオエタノール自体の是非とは意味が異なる