シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

映画化希望 ビジネスホラーの傑作「セブンイレブンの罠」

東北地方の小都市であるコンビニエンスストア店長が自宅兼店舗で自殺した。この一見のどかに見える街に何があったのか。


なんてエピソードから始まるコンビニ商法にメスを入れたルポ。すでに、深町先生がレビューを書かれたので、ご存じの方も多いと思う。


コンビニ。バブル後の夢を食らって
http://d.hatena.ne.jp/FUKAMACHI/20091119


まあ、こちらもコンビニ問題については興味があって、何度か取り上げてみたりしたので多少は知識もあったのだが、問題点を整理されると改めてセブンイレブン(とそのライバルチェーン)のえげつなさに身震いする思いがする。


冒頭のコンビニオーナーなのだが、土地も資産もある地元の名士クラスの人物が、“時代の流れ”に乗っかって、セブンイレブンフランチャイズオーナーになる。場所柄もいいし、コンビニの問題点、「ロスチャージ」と「オープンアカウント」に苦慮しつつ店を経営するも、とうとう「ドミナント」によって、休み無し、アルバイト掛け持ち状態にまで経営状況は悪化。自殺に追い込まれる。その様子は転落と呼ぶに相応しいほどの姿だ。愕然とさせられるのは死後の話。彼にはセブンイレブン加盟店の共済保険が掛けられており、セブンイレブン本社はあくまで取りっぱぐれない。子どもの教育資金を稼ぐために、それでも店舗を維持しようとする妻は、夫の死を「好きなことをやって亡くなった」と主張するのだ。浮かばれない話である。


フランチャイズオーナーを追いつめる問題点はちょっと述べた「ロスチャージ」「オープンアカウント」「ドミナント」。
ロスチャージについてはすでに述べているが、廃棄商品分(ロス)を売り上げに含めて本部への上納分(チャージ)を水増しする会計手法。
オープンアカウントはその名に反して、領収書、請求書、明細書など独立商店なら自己管理できるはずの会計内容を一切明らかにしない会計手法。こんなぼったくりバーみたいなやり口を明朗会計(オープンアカウント)と呼ぶのだから、悪質なジョークかニュースピークというところか。
ドミナントとは、同一商圏内に同一フランチャイズ店を集中出店させて競争を促す手法。これでは、どんなに売り上げがあろうともたまったモンじゃない。ドミナントを仕掛けられる売り上げ金額は大体80万/日だそうだ。
かなり大雑把な説明だから、その手口の詳細は是非手にとって読んでみて欲しい。


こうした手法によってどんどんオーナーは追いつめられていくわけだが、一方で当然ながらセブンイレブン本体の稼ぎは半端じゃない。記載されていた営業利益率のデータを見て驚愕した。この十数年間の商業不況下においても利益率が3割以上。年によっては4割を越える。これは、どうみても小売業の利益率じゃない。つまり、そのツケはオーナーが被り続け、耐えきれなくなれば冒頭のエピソードのようになるのだ。


さて、深町先生はこの「セブンイレブンの罠」を読んでのレビューを自己実現個人主義の話と絡めて説明されているけど、自分はちょっと違う印象を持った。


セブンイレブンの開業には自己で土地・店舗・開店資金を持つAタイプと土地・店舗は本部用意で僅かばかりの自己資金で開業できるCタイプがある。このどちらも起業を勧める雑誌などに広告を載せているのだが、開業時にはガッチリとオーナーの資産状況が把握される。開店後はもちろん「ロスチャージ」「オープンアカウント」「ドミナント」によって売り上げは吸い上げられ、資産も食いつぶされていく。恐ろしい話だが、セブンイレブンのオーナーになると、売り上げ金を本部へ直納されてしまうため、一般金融から借金も出来ないらしい。そうなると、しきりに本部から借金しろと迫るようになる。もちろん、闇金並みの高金利(らしい)*1。こうした状況に叛旗を翻そうとも、ドミナントや慢性的過労状態にあるオーナーたちは分断されて切り崩される。売上金を自己管理しようとすれば、どういう権限かゾーンマネージャー(地域管理者)がヤクザ顔負けの恫喝を掛けてくる。とうとう、破綻に追い込まれれば担保物件は本部のものとなってCタイプ店舗の基となり、オーナーが自殺したり過労死してもフランチャイズオーナーに強制された共済保険によって、さらなる利益を得るわけだ。
最初から最後までまったく無駄なく効率的にオーナーを喰い物にするプロセスなのである。


自分も勘違いしていたのだが、こうしてセブンイレブン商法を俯瞰してみると、これは小売業ではない。ずっと、えげつない手段を使った商法だ、と思っていたのだが、そうではなく、小売業を装った詐欺なのだ。豊田商事が金を商品としてあつかったように、セブンイレブンは小売業による独立、という商品を扱った詐欺なのである。豊田商事などよりえげつないことに、単にオーナー達の資産を吸い上げるだけでなく、小売りを通じて広く利益を上げていく。
従って、セブンイレブン本部は詐術のプロなのである。素人が太刀打ちするのは不可能だ。実際、会計事務に長けたオーナー達でも会計に疑問を持つまでも、そして叛旗を翻すまでも時間がかかっている。誰であろうと騙される可能性がある。他人事ではない。


この本のオビには高杉良氏が「小説化したい想いに駆られる!!」と推薦文を書いているが、この部分はスティーブン・キング絶賛!!でも構わない感じがする。
それくらい、市井の人々がセブンイレブンの罠に嵌って底無しの沼に引きずり込まれるかの描写は恐怖を誘う。
これはもう、ビジネスの世界を舞台にしたホラーだ。新ジャンル、ビジネスホラー。


現在、国内のセブンイレブン加盟店舗は12000以上だという。


参考:


マスゴミとセブン・イレブンの正体
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20090120/1232459210


セブンイレブンの罠

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*1:すべて売り掛け、買い掛けを含めて本部によって秘密にされてしまうため