シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

消費税による「買い控え」とは何か

さて、このところ景気判断が下方修正されたりしているようですが、しかし、相変わらず消費税が景気を冷え込ませている、という事を政権を始めとして認めようとしませんね。その現実逃避ぶりには驚嘆します。
消費税増税後、ずっと消費動向は下がりっぱなし。増税を含めて物価は上がりっぱなしで、実質賃金は下がるし、年金受給額も下がっているわけですから、消費が落ち込むのは当然という気がいたしますが、あくまで、天候不順やらのせいにして、(そのうちに)消費は持ち直す、という「予測」に固執し続けています。
この「消費増税後の買い控えによる落ち込みは想定内。そのうち消費は持ち直す」という楽観的?予測では、半年近くも消費が落ち込む、という事態に直面すれば、実際との乖離を認めざるをえない、と考えていたのですけど、そうでは無いようです。
政権が致命的な失策を認めたがらないのは判りますが、メディアまで現実逃避を続けるのは困りますね。
とうとう本末転倒な意見も出る始末。

 谷垣禎一法相は18日、長野県軽井沢町で開いた谷垣グループの研修会で講演し、安倍政権が年内に判断する消費税の引き上げについて「10%にもっていけない状況になると、アベノミクスが成功しなかったとみられる」と述べ、予定通り10%に上げるよう訴えた。

谷垣法相、消費税引き上げを訴え 明言しない首相を牽制
http://www.asahi.com/articles/ASG8L5D1GG8LUTFK00T.html

「引き上げなければ、社会保障の将来に黄信号がともり、『アベノミクス』がうまくいかなくなったから、引き上げないという判断をしたとの烙印を押される」と述べた。

公明代表、消費税10%「引き上げなければアベノミクス失敗の烙印」
http://www.sankei.com/politics/news/140924/plt1409240004-n1.html


しかし、メディアで膾炙される「増税による買い控え」ってのはどうなんでしょう。あたかも、気分の問題であるかのような扱われ方。

以前、消費税増税は致命的な経済活動低下をもたらす、と指摘したことがあります。

再配分を増やすのは景気が回復してから、と主張する人もいるが、話が逆である。景気の回復には再配分が必要なのだ。先ほどの税収推移とGDPの推移を比較すれば、この20年近く富の偏在が進んでいる。富の偏在が進むとどうなるか?可処分所得が減った人々は消費を抑えるようになる。その数が増大すれば産業に悪影響だ。(略)
広く(低所得層に)配分されれば市場活性化に役立つのに、寡占化されれば循環を止めてしまう。強欲が富の偏在を生み、それが実体経済を不調に追い込む。

くだらない単位
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20110126/1296032428

まず、現在の貧困層、つまりセーフティネットが想定とする人々に対して、消費税増税はダメージにしかなりません。たとえば、税率を5%から10%に上げるとすれば、収入(年金、失業保険、生活保護を含む)が支出にほぼ等しい貧困層には、5%の物価上昇と同じ意味になります。

セーフティネット・クライシス
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20080514/1210756931


現在のように非正規労働層が増加し、年金受給する高齢者世帯も増えれば、気分の問題ではなく、事実上、物価上昇に追従した消費は不可能だ、という事はすぐに判りそうなものです。貯蓄が無い世帯は3割にも達しています。現在ではもっと多いかもしれません。


「家計の金融行動に関する世論調査」[二人以上世帯調査]
http://www.shiruporuto.jp/finance/chosa/yoron2013fut/pdf/yoronf13.pdf


彼らは(収入≒支出)ですから、実質収入が減れば、それに伴って消費も減るのは避けられません。生活必需品に関しては消費を減らすことは不可能ですから、耐久消費財購入を抑えるか、遊興費のようなものを減らすことになるでしょう。実際、景気動向を見る限り、そのとおりになっています。
消費税が最も重く圧し掛かってくるのは、支出を削りにくい若年層と子育て世代ですから*1、これで少子化対策だの女性社会進出促進だの、よくも実態とずれた話をするものだ、と感心するほどです。


にもかかわらず、メディアでも政府でも有識者とやらでも、消費増税に伴う景気減退は「気分の問題」と捉えられている、というのはどういうことなのか。事実を糊塗するためのウソならまだ救いがあります。むしろ、本当に「気分の問題」と考えているのなら厄介ですね。
確かに政権幹部にせよ、メディア関係者にせよ、有識者にせよ、充分な収入があるでしょうから、彼らにとっては増税後に消費を減らすも増やすも「気分の問題」なのでしょう。
正規労働層の収入が増える一方で、非正規労働層の収入は実質で減少しており、格差は増大するばかりです。その収入が増加した富裕層からの視点で、
「そのうち消費税にも馴れる。そのうちに消費は回復する」
と考えているのだとすれば、それは実態が見えていない、見ようともしない、ということです。
では。

*1:高齢者にとっても重い負担だが、彼らはすでに生活必需品を保有している。若年層は収入が少ないうえに、今後入手せざるを得ないものが多い