国家戦略特区とはなんだったのか
もう、「相棒」みたいに政治的要素を盛り込むドラマでも“リアリティなさすぎ”と評されてボツ脚本になりそうなほど薄汚い連中がわさわさ登場する加計学園問題ですが、興味深い名前が出てきました。
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柳瀬唯夫、今井尚哉両首相秘書官です。
加計幹部、首相秘書官と面会 新学部提案前に官邸で
学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設をめぐり、愛媛県と同県今治市の担当者が2015年4月、協議のため首相官邸を訪れた際、加計学園事務局長が同行していたことがわかった。また、面会の経緯を知る関係者は、官邸で対応したのが当時の柳瀬唯夫・首相秘書官(現・経済産業審議官)だったと朝日新聞に認めた。
http://www.asahi.com/articles/ASK895HZMK89UTIL04Z.html
前川氏が激白「加計、森友問題では共通の司令塔が存在 菅官房長官への刑事告訴も検討」
「森友問題も加計問題も地方と国が同時に関わり、国の中でも複数の省庁にまたがる案件。そういった多くのプレーヤーをうまく組み合わせて全体を調整する司令塔がいないと、うまくいかない。役所のどこを押せばどう動くかということを熟知した人間がいなければなりませんし、そういう才能を持った人なんて、そう多くはいません。官邸の中でも、私には今井尚哉首相秘書官(叔父は安倍首相と近い今井敬経団連名誉会長)、和泉首相補佐官くらいしか思い当たりません」(前川氏)
https://dot.asahi.com/wa/2017061200060.html?page=2
特に柳瀬という名に聞き覚えがあったので、調べてみたら出てきました。この人、経産省で原発推進の立役者として関わってきた人物なんですね。
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柳瀬が2004年6月に事務方(シートン注:資源エネルギー庁 原子力政策課)の中心にすわってから、原子力委員会は核燃料サイクル継続に向かって動き始めた。
(「日本はなぜ脱原発できないのか」小森敦 平凡社新書 P121-122より引用)
とりわけ、新規建設(シートン注:原発)をせずに稼働後40年で廃炉にすると原発の割合が15%以下になる(事故前は3割弱)との指摘があるのに、「20%」以上の案が多く用意されたことに複数の委員(シートン注:総合資源エネルギー調査会基本問題委員会)から強い批判が出た。
ちなみに、この動きを引っ張っていたのは、同庁(シートン注:資源エネルギー庁)の今井尚哉次長だった。日本原子力産業協会の今井敬会長の甥。元通産政務次官・今井善衛の甥でもある。経産省きってのサラブレッドだ。
(「日本はなぜ脱原発できないのか」小森敦 集英社新書 P63より引用)
もはや、どんなに詐術を凝らそうと原発は維持出来ません。
・世界的な再生可能エネルギーの拡大により、世界各国では原発事業が成り立たない
中東産油国、再生エネルギー傾斜の不思議
湾岸アラブ諸国が太陽光など再生可能エネルギーの導入を加速している。世界でも屈指の市場として浮上しつつあり、日本勢など外国企業が受注争奪戦を繰り広げている。
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO19779910Y7A800C1I00000/
再生可能エネルギー コスト半減 日本は異例、石炭依存続く 英機関2040年予測
再生可能エネルギーとして代表的な太陽光と風力の世界規模の発電コストは、2040年までにいずれもほぼ半減するとの予測を、英民間調査機関「ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス」(BNEF)がまとめた。中国やインドなどでは21年までに発電コストが石炭火力に比べ、太陽光のほうが安くなるという。一方、日本は石炭火力の依存が続くと分析している。
https://mainichi.jp/articles/20170808/ddm/008/020/062000c
太陽光発電がコスト低下で躍進へ、将来最安の選択肢にも−Quicktake - Bloomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-05/OSLC8L6KLVRF01
5年後、再生可能エネルギーは「欧米の全需要」を満たす:IEA報告書|WIRED.jp
http://wired.jp/2016/10/28/renewable-capacity-europe/
・世界市場が存在しないのに国内市場だけでは原子力業界は縮小する
【ワシントン清水憲司】米スキャナ電力は31日、経営破綻した東芝傘下の米原子炉メーカー、ウェスチングハウス(WH)に発注した原発2基の建設を断念すると発表した。建設費の増大で採算が合わないと判断した。建設費は既に地域の電気料金に上乗せされており、地元住民や州政府が東芝などに損害賠償を求める可能性もある。
https://mainichi.jp/articles/20170801/k00/00e/020/245000c
・一方で、逆風が続くため、国内でさえ維持は難しい
原発再稼働 反対55%賛成26%、差拡大
https://mainichi.jp/articles/20170313/k00/00m/010/101000c
・人口減少(生産年齢層激減)、省エネ技術拡大、産業構造の変化により、電力需要は減少
日本の人口減少が過去最大 2016年は33万人も減る
http://www.huffingtonpost.jp/2017/06/02/jinkou_n_16919814.html
YKKAP 国内製造・営業部門のエネルギー原単位を2010年比13.8%削減
http://online.ibnewsnet.com/news/file_n/gy2017/gy170806-02.html
鉄鋼輸出入実績概況2017年6月(一般社団法人日本鉄鋼連盟)
2017年6月の鉄鋼輸出実績(全鉄鋼ベース)は321.2万トン、前年同月比で6.5%減と5カ月連続の減少となった。
普通鋼鋼材輸出量は203.0万トン、前年同月比で10.6%減と10カ月連続の減少となった。
(いちからわかる!)今年は暑いね、電気は足りるの?
http://www.asahi.com/articles/DA3S13074497.html
電力9エリア=10日ピーク時の需給見通し、予備率は東日本21.1%・西日本11.3%
https://www.rim-intelligence.co.jp/news/select/article/622481
・原子力産業は不人気で、人手不足の折、好んで働くものがいない
グローバル原子力人材育成ネットワークによる戦略的原子力教育モデル事業
しかし、現在、我が国において、原子核あるいは原子力と冠した学科・専攻は極めて少なくなりました。また、技術及び経験豊かな団塊世代の大量退職時期を迎え、専門教育を受けた原子力人材不足が世界的に極めて深刻になりつつあります。
http://www.lane.iir.titech.ac.jp/d-atom/Japanese/Overview/index.html
よって、投資も慎重にならざるを得ない。つまり、原子力を維持しようと努めれば努めるほど、世界情勢とのギャップが大きくなり、行き詰った段階での損失はでかくなるわけです。東芝のように。
東芝、赤字9656億円…国内製造業で最大規模
東芝は10日、確定作業が大幅に遅れていた2017年3月期の有価証券報告書(有報)を金融庁に提出するとともに、17年3月期の連結決算を約3か月遅れで正式に発表した。
最終利益は米原子力事業の巨額損失により9656億円の赤字で、国内製造業で過去最大規模となる。
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20170810-OYT1T50052.html
東芝からはもう一つ学べる事があります。つまり、原子力事業が不採算でどうにもならない、ということは既に判っていた、ということ。明白な事実から目を背けて手前勝手で自分達に都合のよりシナリオを描いた結果、それがオシャカになって泣きを入れる。現実は泣いても変わらないわけですが、それでも、“無理を通せば、道理引っ込む”とばかりに、当然視されている上場廃止を免れています。
原発だけでなく、東芝メモリー分社化におけるゴタゴタでも同じですね。ウェスタンディジタルの出方にせよ、SKハイニックスにせよ、勝手に「こうなるはずだ」と甘く見て、結果迷走しています。まあ、こういうことも彼らにとっては「想定外」なんでしょう。外から見れば、想定通りなんですけどね。
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で、この現実と乖離した原子力推進の構図を描いたのが、柳瀬唯夫氏であり、「原子力ルネサンス」を進めたのが今井尚哉氏なんですね。彼らは、原発事故の責任も、東芝を沈みかけている事の責任も取っていません*1。
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結局、これだけ大きな問題が起きたにもかかわらず、経産省では誰も責任を取らなかった。松永和夫事務次官は損保ジャパンに天下っていますし、細野哲弘・資源エネルギー庁長官はみずほコーポレート銀行に行った。結局、誰も責任を問われることがないまま終わってしまったというのは、非常に問題だなと。
で、今井尚哉さんという、今井敬・新日鐵名誉会長の甥御さんが資源エネルギー庁の次長をしていて、原発擁護、東電に対して優しい施策をずっと民主党政権の仙谷由人さんとかに振りつけてきた人なんですが、あれだけ仙谷さんに振りつけてきた今井さんが、政権交代と同時に安倍さんの筆頭秘書官(政務担当の首席秘書官)として官邸に入っちゃった。その変わり身の速さというか、すごい速さで変わっちゃうもんだなと。
柳瀬さんという、先ほどもちょっと名前が出ましたけど、原子力大好きな方(笑)がいらっしゃって――原子力立国計画という、原発を海外に輸出するという政策をつくった方なんですけど――彼も安倍政権に入ってしまった(事務秘書官)。ついこの間まで「仙谷さん、仙谷さん」って言っていたのにコロッと変わって入っちゃうっていうこの変わり身の速さに驚くとともに、仙谷さんって結局使い捨てじゃん、と思いましたね。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35701?page=3
こうしてみると、安倍政権や信者のいう、「国家戦略特区は既得権益層の岩盤規制を崩す改革だ」みたいな話が大嘘であることが判ります。なんせ、原子力なんてものは「既得権積層」が守られる業界の最たるものなのですから。
むしろ、「規制緩和」は隠れみので、「権益の私物化」という方が正しいかもしれませんね。そう考えれば、「オリジナルを捨てて、書き換えた議事録を出します」という舐めた真似をする「国家戦略特区ワーキンググループ」のメンバーの一人が、労働規制改革を主導しておいて、奴隷商人こと人材派遣会社の重役に就いた竹中平蔵なのも納得です(どう見ても利益相反にしか見えないのですが)。
加計関係者発言の速記録「存在しない」特区WGで内閣府
政府の国家戦略特区ワーキンググループ(WG、八田達夫座長)が開いたヒアリングに同席していた学校法人・加計(かけ)学園の幹部らの発言が、公表された議事要旨に記載されなかった問題で、WGは7日、今後公表する詳細な議事録においても、同学園側の発言は「公式発言ではない」として掲載しない方針だと明らかにした。ヒアリングの速記録は作成されたというが、内閣府は「用済みになったので、今は存在しない」としている。
http://www.asahi.com/articles/ASK875QB7K87UUPI004.html
「特区の生みの親」竹中平蔵氏が疑われる原因(佐々木実)
野党議員の念頭にあったのは国家戦略特区諮問会議民間議員の竹中平蔵氏。与党内にも懸念の声はあった。そもそも国家戦略特区制度を提唱したのは竹中氏なのだが、「特区の産みの親」が疑われる原因は特区で優遇される企業との深い関係にある。
特区諮問会議は東京都などで外国人による家事代行を解禁し、参入事業者のひとつにパソナを選定した。竹中氏が取締役会長を務めるパソナグループの子会社だ。兵庫県養父市の農業特区では、竹中氏が社外取締役を務めるオリックスの子会社を選定している。
附帯決議については雑誌の記者から私も意見を求められたが、不思議なことに、その記者もふくめ関心をもつ人々は「もうひとつの企業」を見落としている。
http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2017/08/07/keizai-10/
国家戦略特区とは、こうして一部の連中が「規制緩和」*2をダシにして利益を上げるための仕掛けに過ぎないのでしょう。
その見立てを補強する話があります。
加計問題、なぜか報道されない「当事者」前愛媛県知事の発言全容 : J-CASTニュース
https://www.j-cast.com/2017/07/11302992.html
間抜けな安倍信者たちが、「なぜ、メディアは加戸前知事の発言を取り上げないのか」みたいな事を言ってたりします。しかし、これは読んでみたら、「何回となく特区申請を却下になっている今治市が、「加計学園」とくっついたら下にも置かぬ歓待ぶり。条件面で遥かに勝るライバル*3まで排除してくれた」とハッキリ判るものです。
つまり、今治市の「国家戦略特区」が安倍晋三らに私物化されていることを示すものに他ならず、「みんな知ってる」という扱いにしかならないのも当然なのです。バカはバカなのでこれを読んで大喜びするわけですが。
【リーダー選びの観点】 藻谷 浩介さん
話題の加計(かけ)学園問題についても、感じることは同じだ。十数年前から計画されていたという、加計学園が愛媛県今治市で獣医学部を新設する構想を巡る国家戦略特区の選定基準(いわゆる石破4条件)に照らした内容の乏しさと、1年前に出てきた話ながらよく練り込まれていた京都産業大学の構想の充実ぶり。後者の関係者は筆者に「内容では明らかにウチが勝っていたのに、来年4月という間に合うはずもない期限が出てきて断念を余儀なくされた」と無念の思いを語った。例えるなら、営業マンが有望な新規取引先候補を見つけてきたのに、理由も示されずに却下され、昔からアプローチがあって経営者同士が知り合いというだけの他社が選ばれたようなものだ。全国の規制改革の現場で、どれだけのモラルダウンが生じていることだろうか。
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/teiron/article/347211/
ちなみに、獣医学部を伴う大学新設は、畜産業に関係する獣医、とりわけ公務員不足を解消するため、などというのはヨタもいいところです。
例えば、私の知人には数人獣医師がいますが、信州大学だったり、北大出だったりします。静岡県内には獣医師養成の大学はありません。県内にあるから獣医師が確保出来るわけでは無いし、その逆もしかりです。
もともと、愛媛県の周囲に獣医師養成の大学は結構あります。
ナレッジステーション 日本の大学 学問分野系統別全国大学一覧
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山口県
国立
共同獣医学部 獣医学科[6年制]九州保健福祉大学
宮崎県
私立
薬学部 動物生命薬科学科
http://www.gakkou.net/daigaku/src/?srcmode=gkm&gkm=05002
地図を見れば判ります。愛媛の周囲、距離的にも近い場所に獣医師養成大学はありますから、距離が問題というわけではないのです。
大学新設のために、何年もムダにして、多額の誘致費用を掛けるくらいなら、獣医師資格者の待遇を改善した方が遥かに容易だと思いませんか?他の自治体の公務員給与の倍を支出しても、ずっと安く、確実でしょう。地域の進学者をUターンさせたければ、条件付き奨学金制度を設けてもいい。獣医師を確保するため大学新設、というのは意味が通らない。これも隠れ蓑でしかないのでしょうね。
規制を見直す、ということ自体は悪い事ではありません。でも、その内容は充分に検討(それも透明度の高い環境で)されるべきですし、その旗振り役がどのような人であるのか、ということは充分に注意した方が良いですよ。
でないと、ボラれ放題です。
では。