シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

自滅する地方 自滅した浜松 その2

えー、いきなりアクセス数が増えたと思ったら、黒的九月さんの御指名がかかるという事態。


浜松市ヤバイ!政令指定都市なのに廃墟っぷりが凄い! (秒刊SUNDAY)
http://www.yukawanet.com/sunday/2009/01/post_271.html


この記事は引用されているエントリー「浜松がヤバイ」と直接関係するわけじゃないのだが、以前に浜松の郊外化が問題だ、と指摘していたので気になるところ。


・自滅する浜松
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20071022/1193042445


正直なところ、コンパクトシティがらみの包括的にエントリーをまとめていたところだったのだが、ちょいと記事に該当するところを取り上げてみようかと思う。


さて、該当するエントリー、コメント欄などでも「恣意的に浜松の人気が無いところ、静岡の人気のあるところを選んで撮影している」という指摘がされている。これに関しては指摘されている事は大方正しい。
浜松駅周辺で人通りの多いところは、「メイワン」から遠鉄百貨店、もう取り壊されているフォルテの付近、そこからスタバ前のスクランブル交差点を経てザザシティへかけての通り、ここにはサゴーなども含まれる、だからだ。


逆に言うと、浜松駅周辺で人気のあるのはそのあたりぐらい。写真にも写っている鍛冶町あたりは確かに人気が無い。ザザと通り向かい合わせの肴町は浜松の歓楽街だが、行き交う人は年々減っている。アクトシティは本当にひどくて、グルメ街の客の入りは少ない。店が気の毒になる。


グルメ フロア別:アクトタワー
http://www.act-tower.co.jp/gourmet/index.html


・「大盤振る舞い」に影/浜松市asahi.com マイタウン静岡)
http://mytown.asahi.com/shizuoka/news.php?k_id=23000120805160001

浜松の街の人通りは減っている。市商工部が毎秋実施している中心市街地の歩行量調査によると、平日は01年の1日あたり27万7014人から、06年は約15%減の23万5092人。休日は01年の39万9552人から、06年は約35%減って26万280人に落ち込んだ。

静岡では駅北から紺屋町、呉服町にかけて人の往来は多い。おでん街でも有名になった青葉通り、今や全国的にも珍しくなった映画街である七間町。歓楽街にあたる両替町。さらには御幸町、伝馬町、鷹匠、も人の流れはとぎれない。駅ビルパルシェ、松坂屋、丸井に109、PARCO、伊勢丹、と全国の地方都市では撤退が相次ぐデパートもそれなりに元気がある。


・シーン2 映画館街は死なず
http://mytown.asahi.com/shizuoka/news.php?k_id=23000140901050003

七間町など静岡駅周辺にも、都市型シネコン進出のうわさが浮かんでは消えた。七間町が生き残っている理由を興行会社「静活」の元取締役営業本部長、斉藤隆さん(67)は「街が発展して商店がひしめいているお陰で、シネコンに欠かせない大型駐車場のスペースが作れない。これがシネコン進出を阻んだ大きな要因」と説明する。


だから、湯川さんの記事は、強調はしているがおおむね間違いではない。


が、静岡市に対する評価はちょっと違う。なぜなら

逆に静岡市は町の中心に、ワンダーランドを築き、郊外には一切建設禁止にしており、町の中心に人がにぎわいます。


現在では静岡市は郊外出店を規制していないから。


参考:動き出すか東静岡(上)
http://mytown.asahi.com/shizuoka/news.php?k_id=23000140807180001

地元の相川鉄工と三菱地所(東京)が発表した。静岡市葵区柚木にある約2万6千平方メートルの敷地内に、洋服や食品などの店舗や、ドラッグストア、複合映画館(シネマコンプレックス)といったテナントを入れる構想だ。

だが、この計画を伝える新聞記事を前に、静岡商工会議所の長嶋誠一郎・常務理事は青ざめた。「市内の客の流れが大きく変わってしまう」

 静岡市は昨年度から、旧静岡と旧清水にすでにある都市機能を生かしたコンパクトな街づくりを目指す「中心市街地活性化基本計画」の策定を進めている。あくまでメーンは旧静岡、清水の商店街だ。

 葵区両替町の映画館「日映」の森岡功樹・営業統括マネジャー(43)は「間違いなく打撃を受ける。いったいどうしたらいいのか」と頭を抱える。

小嶋善吉市長は4日の定例記者会見で、市街地への影響を問われ、「情報がなく答えようがない。ただ、こちらで調整させることはできない。相乗効果が出てまち全体で活性化されるといいと思う」と答えるにとどめた。


・セントラルスクエア静岡
http://www.c-square-shizuoka.jp/


静岡中心街の衰退を防いだのは、市の施策というより、日米構造協議で「非関税障壁」とも指摘され、静岡が象徴ともなった「大店法」による。


・浜松は確かにヤバイが、静岡が持ち上げられると複雑
http://d.hatena.ne.jp/RRD/20090126/p1


で弊害について語られているが、中心市街を維持した点での功績は否めない。だが「規制緩和」によって静岡でも郊外化は進んでおり、静岡市民が中心市街の商業地で買い物をする率は下がっている。じゃあ、なぜ静岡の中心市街は賑わっているのか?といえば、それは周辺からの「ストロー効果」による。とくに旧清水市の中心街の衰退は半端じゃない。もちろん、地元である志太地域も静岡へ吸引され、同時に郊外型大規模小売店舗、イオンやアピタ、各種ロードショップによって商店街はボロボロにされている。以前紹介した焼津駅から港にかけての商店街は浜松など問題にならないほどひどい。


浜松はこの郊外型大規模小売店舗によって食い尽くされた。記事中のイオン志都呂店だけでなく、さらに巨大なイオン市野店やサンストリート浜松などがある。コメント欄にもあるけど、浜松や近郊の人々は駐車場が面倒で有料(買い物すればタダになるが)の市の中心部にわざわざ出掛ける事はなく、郊外のどでかいショッピングモールへ出掛けるのだ。自分も何回か志都呂店や市野店に行った事があるが、辟易してくる。やたらデカイ駐車場。雨の日だったために車を止めるだけでえらい手間。迷いそうな駐車場から店内に入ると、そこは“擬似的な”街並みだ。だいたい、ショッピングモールってのは「商店街」の事。自分たちの近くの商店街を潰して、わざわざ車で「商店街」を散策に来るのだ。
しかも、全館空調で広い店内は照明で煌々と明るい。なのに、

「イオンは、これまでも1991年から継続して実施しているショッピングセンターなどの敷地にお客さまとともに植樹する「イオンふるさとの森づくり」やお客さまのご協力のもとレジ袋の削減に取り組む「買物袋持参運動」、さらに風力発電太陽光発電などの自然エネルギーの導入、省エネルギー、グリーン購入など、環境保全活動に積極的に取り組んでおります。」

http://www.aeon.info/news/newsrelease/data/1172663_789.html


・滋賀に環境配慮型SC イオンモール、太陽光活用(47NEWS)
http://www.47news.jp/news/2008/11/post_416.html


なんてのうのうと抜かすのだ。車で多数集客し、安価な商品を世界中から集配し、巨大店舗を照明・空調する段階で環境に配慮、なんてのはなんの意味もない。


環境問題だけではない。なぜ郊外化を止め中心市街へ再集中させるべきか、といえば、郊外化は自治体の財政を圧迫するからだ。インフラ整備を行う面積が拡がればそれだけ必要な経費は増大する。


公営企業・公社等の財政状況/下水道事業
http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/admin/finance/18pub_co/08_3.htm

今、黒字経営をしているのですか

平成18年度決算では319百万円の赤字となっています。


浜松が置かれている状況を考えればいい。浜松の市面積が広いのは多数の市町村が合併したためで人口が集中して「都市」と成り得たわけではない。なのに、浜松は合併前から旧浜北市近郊や三方原台地、佐鳴湖周囲、浜名湖周辺まで開発を拡げている。結果としてスプロール化は進み、財政は圧迫されている。市財政の問題点は、郊外化によるインフラ整備・維持費などが増大していることによるが、市の財政再建策はその点を省みない。未だに「車の便を良くするため」に「道路を新設・延伸・拡幅」を進め、街を拡散させている。一方で、衰退する市中心部活性化事業を行っているが、衰退の理由が「郊外化」にあり、対策は「郊外化を止める事」。それを郊外化を止めるどころか拡大しているのでは何の効果も発揮するはずがない。
どこの自治体も中心市街活性化策として中心部の駐車場確保や中心部の再開発=道路拡幅を進めるが、それは「中心市街」の「郊外化」に過ぎない。メリハリのある地域を漫然と「ファスト風土」に変えるだけだ。
今、浜松で起きている事、それは「市全域の『ファスト風土化』」なのである。


さて、未だに中心市街や商店街の衰退を住んでいる商店主達の「努力欠如」「自己責任」に帰せようとする動きがあるが、それは間違いだ。なぜなら、こうした状況は日本だけの現象ではない。各国モータリゼーションが進み、それに合わせたインフラ整備=郊外化を進めた結果、どこでも「中心市街、商店街」の衰退は進んでいるからだ。アメリカでは日本とは比較にならないレベルで、知人の話だと州をまたいで買い物に行くようなショッピングモールがあるという、ショッピングモールの寡占と地域経済衰退が起きている。
ダウンタウンを自動車・石油産業のために破壊したロサンゼルス。そしてカリフォルニア州が財政苦境に立っているのも決して「郊外化」とは無縁ではない。一方でカリフォルニアでも鉄道と鉄道を中心としたまちづくりは見直されている。その手本となっているのは実は日本。


・Transit-oriented development(Wikipedia
http://en.wikipedia.org/wiki/Transit-oriented_development


郊外型大規模小売店舗とは地域経済を破壊する寄生虫のようなものだ。しかも、その地域が衰退すれば「経済原則に基づき」あっさりと撤退する。跡は居抜きされればましな方で、うち捨てられた廃墟として残る事もままある。日本の先を行くアメリカでは、これらの商業施設跡を“Greyfield land”と呼んでいる。既に社会問題化し始めているのだ。


・Greyfield land(Wikipedia
http://en.wikipedia.org/wiki/Greyfield_land


車による移動は便利だし、ショッピングモールの何が悪いんだ、という意見もあるだろう。
しかし、均一化され多様性を失い寡占化された商業が素晴らしいとは思えない。車による移動が便利というのは、運転出来るものには恩恵であっても、子供や高齢者、社会的弱者にはダメージだ。安い商品は地域の生産を損ない、就労機会と賃金抑制に繋がる。そして、何より自治体の財政悪化に繋がる。
そろそろ、車移動一辺倒であった交通と街のあり方を見直してみた方がいいんでは無いだろうか。


少なくとも、自転車であちこちを移動し、各地を見て回った私はそう思う。


追記:
自分のところには「自滅する地方」で色々エントリーを書いております。ご興味のある方はご覧ください。


参考・関連サイト


・道路財源と郊外型大規模店 (不動産屋のラノベ読み)
http://d.hatena.ne.jp/Lhankor_Mhy/20080407/1207568214


・郊外型大規模店は、地元の利益を吸い上げ、それを中央(東京)に持って行ってしまう (株式日記と経済展望)
http://blog.goo.ne.jp/2005tora/e/f37f0521d9ba96e3332df8036eaabb8e


・歩ける範囲 (Chromeplated Rat)
http://schutsengel.blog.so-net.ne.jp/2008-02-12


ファスト風土に陽は暮れて (シロクマの屑籠(汎適所属))
http://d.hatena.ne.jp/p_shirokuma/20080107/p1


・わが町南陽の廃墟 (深町秋生のベテラン日記)
http://d.hatena.ne.jp/FUKAMACHI/20080916


参考文献

地方を殺すな!―ファスト風土化から“まち”を守れ! (洋泉社MOOK)

地方を殺すな!―ファスト風土化から“まち”を守れ! (洋泉社MOOK)

大型店とまちづくり―規制進むアメリカ,模索する日本 (岩波新書 新赤版 (960))

大型店とまちづくり―規制進むアメリカ,模索する日本 (岩波新書 新赤版 (960))

衰退を克服したアメリカ中小都市のまちづくり

衰退を克服したアメリカ中小都市のまちづくり

都市計画の世界史 (講談社現代新書)

都市計画の世界史 (講談社現代新書)