シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

事業仕分けについて雑感

自滅する地方について上げようと思っていたのだが、これはちょっとな、と思ったので一言。


もうだめかもしらんね(伊藤剛のトカトニズム)
http://d.hatena.ne.jp/goito-mineral/20091118/1258497943

この政権のコンセプトをつきつめると、知的な達成に向けてがんばることや、人生の向上心みたいなものが排除され、ただ生きているだけの人が賞揚される社会が待っているような気がします。

先端研究はいらない、文化的な啓蒙もいらない、ただただまんべんなく均等に子供手当てを支給することが求められている、というわけですから。


科学も、文化も、芸術も、よく考えられたもの、洗練されたもの、先端的なもの、つまり受容できる人の人数が必然的に少なくなるものはいらない、という社会です。


だって「文化大革命」ですよ。

比喩として言っているとして、ではこちらも比喩で返せば、この先にあるのは「下放」じゃないのか、「ポル・ポト」じゃないのかと思います。


「仕分け」の具体的な様子を聞いていて感じたのは、「専門家よりも、何も知らない人間のほうが正しい」という姿勢です。

マスコミで仕事をしていると、よく「それじゃ読者は分かりませんから」的なことを言われたりします。

ちがうよ。読者は分かるよ。少なくともおまえよりはよっぽど頭がいいよ。

構造的には、それとよく似ています。

仮想的に「大衆」を設定して、そこに依拠することで、どれだけでも考えずにものを進めてしまえる。

結果、行き着く先は「馬鹿こそが正しい」「ものを考えていない人間が正しい」という社会です。


まぁ、科学研究に対してリスペクトしてくださるのはうれしい限りなのだが、ちょっと違和感がある。
というのもだな。すでに20年ほど科学研究なんてのは「成果は?」「何の役に立つの?」「結果が出るまでの見通しは?」のような感じで「仕分け」されてきたからなんだわ。
自分は理学系の固体物理の実験屋だったから、予算なんてのは削られ放題で、科研費を申請しようにも、申請書に何て書こうか苦労したものだった。だから、なるべく予算を掛けないように頑張るとか、他の研究室から分与されてくる金だとか、いろいろ融通した。学会発表なんて自費だったから、車で延々と4人乗りで出掛けたり、健康ランドやカプセルホテルに泊まったりした事もある。
外部資金を取ってくるともなれば、実用性についての話は当然出てくるから工学系に比べれば状況は厳しい。もちろん、自分の研究は先端とは到底呼べないようなものだったが、常に「役に立つかどうかなんて基準を今持ち出すなよ」というのは実感としてあったのだ。
特に独法化以降、学内でも「選択と集中」は容赦なく進められた訳で、その段階で「何も知らない人間が判断する」状況は当然のようにあった。
で、その自分達が削られる一方の結果としての「選択と集中」であったのが、スパコン研究であった筈なのだから、当然「役に立つ」と判断されるだけの価値がある、とこちらも考えていたのだ。
ところがだ、事業仕分けで示されたスパコン研究の説明は信じられないほど貧弱な代物だった。
「え?これで説明しているつもりなの?」
これが正直なところの気持ち。だって、こちとらずっと「何も判らないド素人」に「どのような価値を持ちうるのか、たとえすぐに役立たなくてもどういった意味があるのか」について散々説明し続けてきたわけですよ。悪いけど、自分のやっている研究の価値について説明する、なんて学部生でもやってることですわ。だって、就職活動で訊かれるものね。
自分がやっている(やっていく)研究がどういうものなのか、「何も判らないド素人」の就職担当者相手に、(彼らが飽きない程度に)手早くまとめて、しかも説得力を持たせなくてはならない。
しかも、議事録を見る限り、仕分け人は救いの手を伸ばしている。
どう見ても、スパコン研究のプレゼンターが自覚が無さ過ぎたとしか思えない。
自分は一見ムダに見える研究であっても、それが最先端でなくても研究や研究者に金を出してやるべきだろうとは思う。が、その一方で自分の研究がどう位置づけられるものなのか、それはもっと研究者も自覚的であるべきだと思うよ。それは、金を引き出すためだけじゃなく、自分の研究について客観的視点を持ち込む、という点でも重要だろう。
最先端の研究、ということで、少し甘えすぎていたんではないか、というのが自分の感想。
これを機に、スパコン研究の意義についてもっと練り直して、より良き研究にしていける事を願っている。せっかく、オレ等の削った金を使っているんだからね。


ちなみに、自分はスパコンを使う研究とは縁がないのだが、実験結果を照らし合わすためにシミュレーションを掛ける事はある。で、昔はSGI製のONYX搭載のワークステーションで数時間ブン回してやってたシミュレーションがパソコンレベルでも十分可能になった。それも、数年前にはPC-UNIX上でないと不可能だったのが、XP上で可能なプログラム、それもネット上に公開されてたりする、で可能になった。だから、個人的には最先端のスパコンよりも手軽に高速で走るマシンやプログラムが手に入る方がよほど研究に有意義だなぁ、などと思う。
単に(短期間に終わるであろう)一位を目指すより、それが有効に使える環境も含めて研究して欲しいものだと思っているのだ。


で、このほかSpring-8なんかも意外に仕分け人はよく見ていると思うよ。だって、愛知県でも放射光施設の建設が進められているんですわ。


名古屋大学 小型シンクロトロン光研究センタ
http://www.nusrc.nagoya-u.ac.jp/


「完成したら使いにきてください」なんて誘われたりしたぐらいで、全国で同様の施設が増えれば、Sprig-8の位置づけだって変わってくるだろう。


科学ってのは確かに「ド素人」には判りにくい部分がある。説明する時に「こんな説明じゃ全部は伝えきれていない」と考える事も確かだ。が、やはり「判らないくせに文句を付けるな」という態度は結局あまり結果を生まないと思う。伝えきれないまでも、自分の行っている研究に対して自覚的であるべきだ。でないと、旧ソ連テクノクラートと同じような事になるだろう、という気がする。