シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

本を出します

今度、本を出すことになりました。タイトルは「地方都市 七つの大罪」です。ここで一生懸命取り上げてきた地方都市問題についてまとめたものです。文も新たに書き起こして写真も撮り直しました。もう少し定量的データを加えてみましたのでよかったら買ってください。


このブログでのタイトル「自滅する地方」に比べてもおどろおどろしいタイトルですが、ちょっと事情があります。


ブログに「本を出させてください」と載せてしばらくすると一社だけ反応がありました。
民明書房、という出版社です。みなさん知ってましたか?自分は話を頂くまで知らなかったのですが。


民明書房大全 (ジャンプコミックス デラックス)

民明書房大全 (ジャンプコミックス デラックス)


「我が社からどうですか?」


とメールに連絡があったので、二、三回のやりとりの後、直接お話しする事にしたのです。
お茶の水近くの喫茶店でお会いしたのは、富樫さんという編集の方でした。元気ですが、意欲の空回りしそうなタイプです。量が少ない割にはやたら熱いエスプレッソを啜りながら、企画について話します。


「今度、我が社も新書を出しますので、そのラインナップに加わって頂くと云うことで。」


なるほど、創刊時に集中的に発刊するわけですね。


「そうですか。新書なら手に取りやすいですね。」


調子を合わせます。巧くいけば夢の印税生活か。


「魁(さきがけ)新書ですよ。」
「さきがけ?ちょっと変わった名前ですね。」



さて、富樫さんは私の話を、フンフンと頷きながら時折手元のメモに書き込んだり目を落としたりしながら聞いていました。そこで、驚くべき発言が飛び出ました。


「で、その地方が滅びるのは悪の秘密結社のせいなんですね。」
「え、何?そのひみつけっしゃ、って…。」
「いや、ほらよくいるじゃないですか。世界の裏の裏を牛耳る秘密結社。イルミナティとか、フリーメーソンとかコミンテルンとか。」
「あ、いや、その、裏の裏は表じゃないの?って、問題はそこぢゃない。どうしていきなり秘密結社が。よくもいないし。」
「だって、地方が滅びるのは秘密結社が仕組んでいるんじゃないんですか?」
「どうしてそうなる。説明したじゃないですか。中央省庁と地方自治体の予測と施策の失敗だと。誰が悪いとかいう話でも無いんですって。まして、どこに秘密結社の要素が…」
「でも、その方が絶対受けますって。」
「そんなところは受けなくていいんですよ。」
「受けないと売れませんよ?」
「う、…」
「売れないどころか、手に取ってくれないかも」
「…、秘密結社の陰謀なら、売れるの?」
「どうでしょ?」


なぜ、私に尋ねる?


「まぁ、どうでもいいじゃないですか。秘密結社のせいって事にしましょうよ。」
「そ、そんな。」
「とにかく、ウチの編集方針ではそういう方向でいく、という事で。」


秘密結社の手帖 (文春文庫)

秘密結社の手帖 (文春文庫)


何か違う話になりそうです。


「で、風水とかで地方都市の運命が左右されると。」
「え、風水?」
「ほら、竜穴とか何とかあるらしいじゃないですか。そこから気が出たり入ったりするのが。」
「す、すいません。そういうネタはちょっと疎いんで。」
「いいんですよ。風水ってのは凄いんでしょ。中国の皇帝が風水に基づいて都を築いたそうですね。そのために栄華を誇ったとか。」


中国の王朝は結構戦乱や天災に見舞われているんですけどね。遷都もしょっちゅうですし。風水に効力があるなら、そんな事が起こるのはおかしい筈なんですが。でも、富樫さん、すっかり風水を盛り込むことにノリノリです。


「どうです?コミンテルンが闇の風水に基づいて都市の竜穴を押さえてしまった。だから、都市が衰退するのだ。その闇の建造物を取り壊して光の風水によって都市を蘇らせる、と。」


完全定本【実践】地理風水大全

完全定本【実践】地理風水大全


「それから、コンパクトシティっていうんですか?これも中国が発祥なんですよね。」
「いや、これは和製英語でして…」
「ですから、魂魄屠という古代中国の武将が編み出した、幻の奥義ってことでいきましょうよ。」


何かまったくかけ離れた話になってます。もう、この話降りよう。


「いやー、この本、売れますよ。断言します。増刷間違いなし。」


ほ、本当? い、印税ガッポガポ?



「ガッポガッポです。で、この内容でどうですか?」
「はい、書かせて頂きます。」


頑張ろう。


「それで、タイトルはどうしましょう?」
「そうですね。シートンさんの希望は?」
「自分の希望はブログエントリーのタイトルと同じく『自滅する地方』でいきたかったんですが、既に内容が合わなくなっているし…」
「じゃぁ、『地方都市 七つの大罪』というのでいきましょう。」
「…なんですか。七つの大罪って。」
「さぁ? 何となく格好いいでしょ。「大罪」。それっぽくって。」


日本が犯した七つの大罪 (新潮文庫)

日本が犯した七つの大罪 (新潮文庫)


それっぽいって、何がだろう。


「七つってのは意味があるんですか?」
「13では多いでしょ。」


サラリーマン13の大罪

サラリーマン13の大罪


聞くだけバカだった。


「いいんですよ。タイトルなんて、とにかく本を手に取らせるのが目的なんですから。」
「そんなもんなんですかねぇ。」
「とにかく、泥船に乗った気で私を信頼してくださいよ。」


間違ってます。それとも、わざとなのか。


かちかち山 (まんが日本昔ばなし)

かちかち山 (まんが日本昔ばなし)


「ところで、他にはどんな本が出るんですか。」
「そうですねぇ。蚊の本が出ます。」
「蚊?ですか?」
「そうです。蚊も気に入った血液と気に入らない血液がある、と。で、気に入らない血は拒否する、という研究結果に関する本です。」


なんか、思いっきりニッチなニーズのような気がするんですが。


「タイトルは『断るカ』です。」


断る力 (文春新書)

断る力 (文春新書)


富樫さんがバッグから本を取り出して見せてくれます。


「“蚊”がカタカナなんですね。それに、この堅太りした女性は誰です?」
「この女性の掌をよく見てください。」
「あ、何か付いてる」
「蚊が留まってるんです」
「ちっちゃ!、ところで作者の名前は…」
「勝 間和代(かつ まわよ)さんです。」


何か頭の中で警戒音がします。


「ほ、他には」
「ある高校野球部の女子マネージャーが、トラック運転手の配送技術を学んでチームを甲子園に導くという岩崎夏梅(いわさきなつめ)さんの『もし高校野球の女子マネージャーがトラッカーのマネジメントを読んだら』。
それから、悩んだ時は、その悩みに効く事を考えるのがいいよ、という『悩にいいことだけをやりなさい!』。」


「脳にいいこと」だけをやりなさい!

「脳にいいこと」だけをやりなさい!


「も、もういいです。」
バッグから次々本を取り出そうとする富樫さんを止めます。
「他の本はそろってますからね。シートンさんもサッサと仕上げて、早々に出しましょう。」


というわけで、間もなく私の本が書店に並ぶはずです。よかったら、買ってやってください。
ではまた。


地方都市 七つの大罪
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