シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

あらかじめ告げられていた原油流出事故

「私は正当な分け前が欲しいだけだ。それは全部私のものだ」
アメリカ石油小売業大手、コッホ社経営者であるウィリアム・コッホが先住民居留地からくすねた石油の帳簿を見て言ったセリフ
(金で買えるアメリカ民主主義 より引用)


アメリカ南部、メキシコ湾における原油流出事故、日本ではどういうわけかあまり取り沙汰されませんね。なぜでしょう。アメリカでの報道は凄い規模で、検索してみるだけでも莫大な記事が引っ掛かってくるんですけど。
おそらくはチェルノブイリ原子力発電所事故に匹敵する史上最大規模の環境破壊なのですが、まだその実感が無いんでしょうか。


2010年メキシコ湾原油流出事故
http://tinyurl.com/27lgvcj


原油流出は深さ1500mの油井からの噴出、ということもあり、現在のところ止める有効な手立ては無いようです。核爆弾使用を検討、とか云う記事が出るくらいですから。水圧を考えても蓋は厳しい。どこも同じですが、穴を開ける事は難しくありません。開けた穴を完璧に塞ぐ事、これは非常に難しい。


「メキシコ湾原油流出は核爆弾で止められる」と露新聞報道
http://slashdot.jp/idle/article.pl?sid=10/05/13/0220247


この原油はメキシコ湾内に留まらず、フロリダを汚染し、さらに北大西洋海流にのってアメリ東海岸北アフリカ、ヨーロッパまでも到達する可能性が出てきています。特にアメリカの東海岸は入り組んだ場所が多い。汚染されればあらゆる意味で深刻な影響を与えるでしょう。


流出原油:大西洋海流で欧州まで到達?(動画)
http://wiredvision.jp/news/201006/2010060423.html


原油流出で米メキシコ湾岸の野生生物に破壊的影響
http://www.ifaw.org/ifaw_japan/media_center/press_releases/5_4_2010_61540.php


さて、流出の原因は流出防止策を怠ったBP社にある、という意見が大勢ですが、そもそも流出防止策などありません。


原油流出:事故原因はBP社の「経費削減」
http://wiredvision.jp/news/201006/2010061623.html


経費ケチったBP社はもちろんですけど、もともとこんなところに油井開発を認めるべきではなかったのです。現在、対応の不備を責められているオバマ大統領ですが、ちょっとだけ(ほんのちょっぴりだけ)同情します。もともと、彼は沖合油田掘削には反対していたのですから。
あの、史上最悪の似非大統領ブッシュによって沖合油田掘削は禁止を解除されました。


ブッシュ大統領の沖合い油田掘削禁止令解除
http://blog.goo.ne.jp/taraoaks624/e/6b5c41becfa8a555f5d3af16c552187c


共和党候補であるマケインもそれを支持しています。副大統領候補だったサラ・ペイリンらはアラスカの油田開発にもゴーサインを求めていました。


ホッキョクグマが不安そうに見つめる米大統領選の行方
http://y-sonoda.asablo.jp/blog/2008/08/25/3709468

マケイン陣営は、エネルギー価格高騰に対処するため、米本土沖の海底油田開発規制の解除を声高に訴え、規制解除に反対してきたオバマを攻撃。


結局、オバマも禁止解除に応じたのでクソである点は変わりませんが。
さて、このような顛末は、予言されていた、としたらどうでしょう。いえ、別にロックフェラーの霊言、とかじゃ無いですよ。それは、実体験に基づいて指摘されていた事なのです。


何回か取り上げていますが、グレッグ・パラストの「金で買えるアメリカ民主主義」には示唆に富む事例が数多くあります。
例えば、南米各国で吹き荒れた「新自由主義」の嵐が「小泉改革」とやらとうり二つであること、とか。
その中でBP社の関わった原油流出事故「バルディーズ号事件」の顛末も、今回の事故との相似点に驚かされます。詳しいことをご存じない方は、wikipediaの説明をどうぞ。


エクソンバルディーズ号原油流出事故
http://tinyurl.com/2beah3j


エクソン社の対応は極めて今回のBPと同様に拙いものでしたが、それはつまり「経費削減」(というよりリスクを最初から無視)からきたものだったのです。

彼だってレイキャスレーダーをちゃんと見ていさえすれば、ブライ暗礁に座礁することなどなかったはずだ。しかし、レーダーを監視できるはずがない。電源が入っていなかったのだから。複雑なレイキャス・システムを動かすには非常に経費がかかる。そのため、つましいエクソン社の経営陣は、エクソン・バルディーズ号が座礁する一年前からレーダーを修理せず使えないままに放置していたのだ。

メモによれば、その会議の席上、バルディーズ号の操業責任者のテオ・ポーラセックは重役たちに対し、プリンス・ウィリアム湾の中央 まさにエクソン・バルディーズ号が座礁した場所 で油が流出したら、現在の装備では拡散を止めようがない、と警告した。オイルフェンスなどの装備のためには、数百万ドルが必要だった。これは法律で義務づけられていたし石油会社も監督当局に導入を約束していた。しかし、会議の席上、彼の提案は否決されてしまったのだ。この石油合弁企業には、油拡散を防ぐもっと低コストの手立てがあった わざわざ面倒なことをするには及ばない。内部文書によれば、彼らは分散剤をまいて、立ち去ればいいのだという。そしてこれこそが、実際に起きたことだった。
(グレッグ・パラストの「金で買えるアメリカ民主主義」(角川文庫) 第6章 ピノチェト将軍、ペプシコーラと反キリストなどなど 起こるべくして起きた大惨事 より引用)


原油流出:懸念される「分散剤」の環境汚染
http://wiredvision.jp/news/201006/2010061423.html


で、新自由主義者アジビラ、ウォールストリートジャーナルがこんな事を書いてますね。ふざけた連中です。


BPの流出対応策、米政府の誤った予測に基づいていた(WSJ
http://jp.wsj.com/Business-Companies/node_75848


でも、このへんも先例があるわけです。

酔っ払った船長についての虚報はブリティッシュ・ペトロリアム(BP)社の関与を隠す、格好のカモフラージュになった。実はこの会社、エクソンよりもたちが悪いと言えるのだが。

しかし、私は、アリエスカ社(シートン注:BPの傘下にあったアラスカ油田開発企業)がアメリカ政府に対して虚偽の報告書を提出していた事実を、BP社のロンドン本社は流出事故の九年も前から知っていたことを突き止めた。
(略)
BP社はウッドルの手紙も、ハメルのロンドンへの出張も、悪化する一方の「流出対策」に関して発せられた多数の警告も表沙汰にしたくはなかった。アリエスカ社がウッドルの不満を聞きつけると、彼らはウッドルに不倫の証拠をつきつけた(すべて捏造されたものであった)。そして、数日以内に州外に退去し、二度と戻ってこないことを条件に彼を買収しようとした。


再び政権の座に返り咲いた「サッチャーの弟子達」は、逆ギレを噛まします。


米大統領がBPいじめた」 原油流出で英世論逆ギレ?
http://www.asahi.com/international/update/0618/TKY201006180475.html

【ロンドン=有田哲文】メキシコ湾での原油流出事故を巡り、米国内で高まる国際石油資本・英BPへの批判に対し、英国の世論が「逆ギレ」気味だ。イラク戦争や金融産業の振興などで共同歩調が目立った米英関係に、すきま風が吹くおそれがある。

 オバマ米大統領がBP経営陣と会談して補償基金を出させたことを、保守派の大衆紙デーリー・メールは17日付の1面で「オバマ大統領がBPをいじめた」と書いた。オバマ大統領の「(BPの最高経営責任者が)私の部下ならクビだ」といった言葉も問題発言として取り上げられる。ロンドンのジョンソン市長はオバマ大統領の言動が「反英国的だ」とかみついた。

 BPはもともと英国石油の略だったが、01年に正式社名をBPと改めて英国離れを果たした。株主は英国に40%、米国に39%。キャメロン首相は12日のオバマ大統領との電話会談で「BPは経済的に重要だ。英国にとっても米国にとっても」と述べた。

 両国関係への悪影響を心配する声も。保守党の若手議員カーズウェル氏は「オバマ大統領は選挙を気にして国内向けに発言しているのだから、無視すればいい。こちらが大騒ぎして反論すれば、米英の貿易や商業の関係に悪影響が出かねない」と話した。


英国政府、公けにBPを擁護-米メキシコ湾沖原油流出事故で
http://jp.wsj.com/Business-Companies/node_69902

英石油大手BPは10日、英国政府から初めて公けに支援を得た。オズボーン英財務相英米両国におけるBPの「経済価値」に言及。さらにキャメロン首相は、週末にオバマ米大統領と電話会議でBPに関して話し合う予定だと述べた。
ヘイワードCEO AP

BPの原油流出監視センターで記者会見するヘイワードCEO(3日、米テキサス州ヒューストン)

 メキシコ湾沖で起きた原油流出事故への対応をめぐり、BPは米国政府・議会からの激しい政治的圧力にさらされている。

 BPとオバマ米政権との間で対立が高まるなか、キャメロン英首相までもこの問題に関わることになった。同首相はアフガニスタン訪問中で、今週末にはオバマ米大統領と電話会議が予定されている。

 オズボーン英財務相は、キャメロン首相が10日、同相にBPのヘイワード最高経営責任者(CEO)に電話連絡するよう求めたと語った。

 同相はウォール・ストリート・ジャーナルに宛てた電子メールによる声明の中で、「首相は、建設的な解決策が必要であり、英米両国民にBPがもたらす経済価値を思い起こすべきだとの点を明確にしている」と述べた。

 英国の保守党議員や一部の産業団体はオバマ政権がBPと同社の配当支払いについて非難していることに懸念を示した。配当は英公的年金ファンドや米ファンドにとって大きな収入源であるためだ。

 しかし一部の株主は10日、政治的な批判を鎮めるために目先の配当は諦めざるをえないと表明している。BPは昨年105億ドル(約9600億円)の配当を支払った。

 米司法省高官は、9日の議会公聴会での質問に答え、同省はBPと掘削請負会社のトランスオーシャンが、株主に対して配当を支払うだけの原資を保有しているかどうかをめぐる問題を検討している、と語った。また同省高官は10日、BPが求められている賠償要求の支払いに十分な資力を有していると確信しているが、同社が実際に支払うことを確認したいとしている。


適切な対応を「故意に」取らなかったことは明白ですが、環境破壊を招いたことに対する責任追及を「虐め」と賞するわけです。サッチャーのしっぽ連中は。でも、善良なイギリス人達は心配する必要などありませんよ。
BP社はバルディーズ号事件においてもビタ一文たりとも払わずに済ましたのですから。

アラスカの油田でのBP社の卑劣な役割は、1969年、この石油企業グループがアラスカ全州で最も価値のある土地、後にバルディーズ原油基地が建設された土地をチュガッチ先住民から購入したところからはじまった。BP社とアリエスカグループが支払った金額はたったの一ドルだ。

10年近く前に、陪審によってエクソン社は50億ドルの支払いを命じられた。これは誰もが聞いたことのある事実だろう。しかし、同社がまったく支払いをしていないことは、聞いたことがないはずだ。判決からもう10年がたっている。


市場関係者は安心していいです。BP社は今回だってうやむやにするでしょう。今のウチに株を買っておけば大儲けですね。年金運用だって大丈夫。
ツケはいつだって弱き者が被るのです。それを正当化する言い訳が「経済」なのです。素晴らしいですね。経済。
では。

金で買えるアメリカ民主主義 (角川文庫)

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