シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

本当にあったもう少しコワい話

先週、仕事の愚痴を書いたら、エライ反響があったので驚いております。
少し、付け加える必要がありそうなので、新たにエントリーを立てました。


本当にあったコワい話
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20180720/1532093202

研究開発に関するスタンスは人による

先日取り上げたエピソードですが、その企業とは以前にも仕事を一緒にしております。その際は、企業側数人、そして潤沢な資金は無かったものの、設備の利用を融通してくれましたし、実験と検証作業でも共同で行うことが出来ました。ですので、ニッチな業界ではありましたが、業界最強の技術と評価を受けることが出来たわけです。
現在、その企業は当時より売り上げも利益も大幅に増えているはずですが、研究開発に対するスタンスは書いた通りです。実は、担当者が替わったのです。前任者は、共同研究の必要性とビジョンを持っておりましたから、経営陣に掛けあって、予算と設備の使用、開発人員の確保に努めてくれました。それが、社にとって必要だ、と認識していたからです。
その方が退社されて、後任に替わってから、ちょっと縁遠くなっていたのですが、しばらくぶりに出た話がアレ、だったわけです。つまり、人次第なのですね。
ちなみに、前任者の方は退職後、自分で事業を立ち上げ、私と一緒に仕事をしております。

トヨタの話

コメントを見て誤解されている方が多かったのですが、トヨタ本体は研究開発に多額の投資を行なっております。ただ、彼らには問題点が多々あります。仕事の愚痴だったので、思いっきり省きましたが、誤解を解くため、ちょっと説明いたします。

トヨタは研究開発に多額の投資をしていますが、彼らはその成果の導入に対して極めて慎重です。「石橋を叩いて渡らない」というか、「石橋をゾウを渡らせてから渡る」という感じです。トヨタに対して自社技術をアピールしたい企業は、かなり厳しい品質保証を突き付けられます。それら全部下請持ちなのです。
昨今でも、トヨタは下請けに対して価格引き下げを要求しています。人手不足による賃上げ、円安による原材料価格高騰があっても値下げを要求される。結果、トヨタ方式の「カイゼン」は下請企業の余力を奪います。研究開発に人を割けませんし、充てる予算も無い、設備も空かない、という状況はこうして生まれます。
もちろん、アイシンやデンソー豊田織機といったメガサプライヤはトヨタに対しても価格交渉力があります。値下げ要求を呑まなくても、容易に他に乗り換えることは出来ないからです。こうした企業は高い技術力を持つ事が出来ます。
ですが、「値下げを呑まなければ、他に発注先を変更するよ」と恫喝される中小企業には、こうした高い技術を生む余力が無いのです。
日本メーカーの技術は決して低くはありません。日本メーカー製部品が多く利用されているアップルのiPhoneが価格で勝負していないことから判ります。問題は適正な価格で売ることが出来ないこと、つまり付加価値を生む戦略が無い事です。

イニシャルコストとランニングコストについて

イニシャルコストとランニングコストの関係については、実は「品質管理」が大きく関わっています。品質管理の話に関しては、そのうちにエントリーを立てようと思いますが(仮題「“匠の技”が日本の産業を潰す」)、日本企業の品質管理が大きな問題なのです。これは、現在の品質偽装の問題とも関係します。
掻い摘んで説明すると、品質管理は、製造工程の工程全体において戦略的に管理すべきものであり、特に川上側での対応が重要なのですが、日本のメーカーでは、川下側にそのツケを負わすことが多い。このため、ある一定の品質基準を越えると、品質管理に莫大な手間が掛かり、それがランニングコストを膨れ上がらせるのです。
キチンと、こうした製造工程を組んで最適化を図ろう、というビジョンが無い。このため、いくらイニシャルコストを掛ければ、これだけランニングコストを削減できて、品質も維持出来る、というような計算が出来ないのです。せいぜい、それぞれの工程で部分的最適化を図り、ここでは幾ら浮いた、あちらではいくら浮くはず、という「カイゼン」になってしまうのです*1
これが、新しいもの、新しい技術が生み出された場合、それを上手く活かすことが出来ない状況を生んでいます。


企業に大量の内部留保があり、金融緩和で大量の資金が金融機関に溢れ、人手不足で生産性向上がまったなし、なら、イニシャルコストを充分に掛けて、生産性が高い設備・工程を導入していくべきだと思うのですけどね。
まあ、海外への工場移転を目論んでいる企業にとって、国内工場への投資はムダなんでしょうね。
では。

*1:トヨタ式の「カイゼン」を取り上げていますが、実際にはトヨタでも工程全体の最適化、というのがカイゼンのキモです。ですが、中小企業は余力が無いため、工程全体を組み直したり見直すのは難しく、部分的にみみっちい「カイゼン」になっています