本当にあったコワい話
旧知の企業から研究開発に関する相談がありました。
「お久しぶり、シートンさん」
「どうも、ご無沙汰しております。今日はどうしたんですか?」
「いや、ちょっと相談があって」
「へー、どういった御用です?」
「前に、シートンさん達に開発してもらった技術があるじゃない。」
「はいはい。その後、あれはどうなりました?」
「おかげさんで、業界トップの性能って評価してもらって売ってたんだよね」
「あ、それはどうも。ありがとうございます」
「…だったんだけど…」
「だけど?」
「他社が新製品を出してきて、それがウチのシェアを喰い始めているんだよね」
「ありゃ、それはどこです?」
「EB社さん」
「…そりゃ、業界最大手じゃないですか」
「そう。で、シートンさんに新技術を開発して貰えれば、と思って」
「あー、なるほど。ちょっと考えている技術があるんで、太刀打ち行くかは判らないですが、実用化出来るよう開発してみます?」
「じゃあ、お願いします」
「で、予算はどれくらい出せますか?」
「予算?」
「ええ、共同研究となればそちらにも相応に出してもらわなくてはならないですから。まあ、なるべく負担が小さくなるようにしますよ」
「予算は…、ありません」
「は?」
「予算は無いんです。当社の今季の予算計画に入っていないんで」
「えー、じゃあ、来年度に盛り込んで貰うなら、当初はこちらで予備実験を進めましょうか?」
「あー、それは良いですね。是非、進めて貰えば助かります」
「じゃあ、来年度、共同研究を行なうことでいいですか?」
「でも、来年度も予算は無いですけど」
「えっ!それじゃあ困りますよ。本チャンに当てるお金が無いんじゃ、こちらも計画立てられないですし。来年度の研究開発予算ちゃんと付けてくださいよ」
「シートンさんだけで何とかなりませんか?」
「ならないですよ。それじゃあ、こちらでの予備実験も出来ませんよ」
「そこを何とか」
「じゃあ、本業では無いですから、アイディアはあげますよ。そちらの設備で実証出来れば、使って構わないですよ」
「設備は、、、無い」
「無いって、今使っているヤツは?」
「設備フル稼働状態なんで、空きが無いんです」
「それは、好景気そうでイイですね」
「おかげさんで」
「いや、皮肉なんです。せめて土日くらい空きませんか?」
「え、シートンさん、土日に出てきて実験してくれるんですか?」
「タダ働きで、土日にそちらに伺うなんてイヤですよ。でも、条件振りが必要なら協力しますが」
「無理です。人がいないので」
「まあ、土日に出てくるのは厳しいですよね」
「土日も出勤してますが、そうではなく、研究開発に振れる人がいないんです」
「すいません。もう、何言ってるかわかんないです。カネなし、ヒトなし、設備なし?これで、業界最大手の技術に勝てっていうんですか?」
「何とかなりません?」
「なりません!!」
「安く、設備の変更もいらず、性能の優れた技術、出てきませんかね?」
「そんな虫のいい話があったら、私が欲しいわ!」
少し縮めたものの、話の内容はほぼこの通り。本当に、こういう話が出てきたんだよ!
一応は大企業なんだけどね。
企業との共同研究で思い知ったことなんだが、とにかく安く値切りたがるし、導入もイニシャルコストもケチるのに、ランニングコストは無頓着。長期的に見て得だ、とか、この技術を導入して高付加価値を付ける、とかいう話が通じにくい。
大企業でもこれなので、中小企業となると、新規開発に当てられる人材・金・設備はほぼ無い。親会社の要求をこなすのでいっぱいいっぱい。これで、イノベーションだ、新規産業だ、といっても対応出来るだけの余裕が失われている。
トヨタ方式の「乾いたゾウキンを絞る」効率化は、上位の企業にとっては都合が良いが、下請関連企業の力を損なっているとしか言いようがない。
こうして考えると、日本の技術は優れている・スゴイ!的なのは勘違いで、日本の技術は(その中身の割には)安い、のだ。だから、薄利多売を目指すし、(その技術による)製造コストを転嫁出来ない分、社員の給与も上げられず、残業頼みになってるんだろうな、と思う。