シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

なるほど、ナットク。

このところ忙しかったものですから、なかなかニュースに触れる機会も短かったのですが、それにしても理解に苦しむニュースがありました。これです。


徴用工、首相「あらゆる選択肢を視野」政府の対応本格化

首相は、元徴用工への賠償については1965年の日韓請求権協定で解決済みだとし、判決について「国際法にただせば、あり得ない」と改めて批判した。今回の原告にも言及。当時の労務動員の方法として「募集」「官あっせん」「徴用」があったとし、原告4人は「いずれも募集に応じた」と説明した。

https://www.asahi.com/articles/ASLC15300LC1UTFK01B.html


徴用工というか、強制労働問題については以前も触れているのですが、日本政府の対応は明らかに問題があるので、まあ、こういう判決が出るのも当然かな、と思っていたので、日本政府の反応は意外ではありませんでしたが残念なものでした。
それにしても、ここで安倍首相が言う「国際法」って、なんでしょうかね?ちょっと私にはわかりません。
ナチスによるユダヤ人迫害にせよ、トルコのアルメニア人大虐殺にせよ、アルゼンチンやチリの市民迫害にせよ、植民地の旧宗主国側の人権問題にせよ、“過去のことをほじくり返す(これ自体が加害者側の論理なわけですが)”話はゴロゴロしているわけで、どういう根拠があって、「国際法にただせば、あり得ない」なんて言っちゃったのかサッパリ判りません。
まあ、いつものとおり、特に判ってもいないのに大風呂敷広げた、というだけなのでしょう。


この個人請求権が損なわれていない、という韓国側司法の判断根拠は、日本政府がかつて認めたものなので、お前は何を言っているんだ、案件なのです。


日本国と大韓民国との間の条約及び協定等に関する特別委員会第10号(昭和40年11月5日)

(前略)○石橋委員 そうしますと外交保護権も放棄した。日本国民の個人のいわゆる所有権というものも、これも全部、その当人の承諾なしに、日本政府がかってに放棄した、こういうふうに認めていいですか。
○藤崎政府委員 前段におっしゃった外交保護権のことはそのとおりでございます。個人の請求権というものは向こうさんが認めないであろうということを申しているわけでございまして、この条約、協定で、そういうものを日本政府が放棄したということじゃないわけでございます。
○石橋委員 日本の政府は国民の生命、財産を保護する責任があるわけですよ。それをかってに放棄したと同じ形になるじゃないですか。それに対して責任を持たないのですか。
○藤崎政府委員 それが外交保護権の放棄ということでございます。(後略)

http://www.twitlonger.com/show/n_1sqn6v7


そもそも、日韓国交正常化の際に軍事独裁政権であった朴政権が結んだ条約は、反共政策の一環でしかなく韓国市民への償いを実現するものではなかったわけなので、それを堂々と“解決済み”というのは人権意識に関心が薄い、と告白するものでしかありません。


徴用工判決が突きつける「日韓国交正常化の闇」 韓国大法院判決全文の熟読で分かったこと
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/11/post-11272.php


そもそも、誰を誰が訴えるんでしょう?
この徴用工に関する裁判は、元徴用工の方が、新日鐵住金、を訴えたものです。何で、日本政府が出てきて、韓国の司法府の判決に対して政府(行政府)を詰るのでしょうか?まったく理解に苦しみます。まあ、ぬらりひょんは以下のようなことを言っていますが、正直、意味不明です。


官房長官 「徴用工」判決 韓国政府の対応見極める考え

これに関連し、菅官房長官は午前の記者会見で、「今回の韓国大法院の判決は日韓請求権協定に明らかに反しており、極めて遺憾だ。日韓請求権協定は司法府も含めて当事国全体を拘束するものであり、大法院の判決が確定した時点で、韓国による国際法違反の状態が生じている」と指摘しました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181107/k10011701371000.html


この人、三権分立、というものを理解しているのでしょうか?行政府と異なる判決を下す、なんてことは、民主主義国家では当然あり得る話でしかありません*1。法人としての新日鐵住金を元徴用工が訴えた、という話なのですから、政府の思惑を超えてこういう判決が出ることもあるでしょう。それを韓国政府の責任とするのは、ちょっと判りません。というか、何で、新日鐵住金の裁判に日本政府が首を突っ込むのか不思議です。これほど、熱心なら、その熱心さをほんの少しでも安田純平さん救出に向けたらよかったのに。


でも、今日見たニュースで疑問が氷解しました。


元朝日記者の損賠請求棄却
慰安婦記事巡り、札幌地裁

元朝日新聞記者の植村隆氏(60)が、従軍慰安婦について書いた記事を「捏造」とされ名誉を傷つけられたとして、ジャーナリストの桜井よしこ氏(73)と出版社3社に謝罪広告の掲載と損害賠償などを求めた訴訟の判決で、札幌地裁(岡山忠広裁判長)は9日、植村氏の請求を棄却した。
 訴状によると、植村氏が朝日新聞記者時代の1991年に韓国の元慰安婦の証言を取り上げた記事を「捏造」「意図的な虚偽報道」などとする桜井氏の記事が、週刊新潮など3誌や桜井氏のオフィシャルサイトに掲載された。
 植村氏は文芸春秋などに対しても同様の訴訟を起こし、東京地裁で係争中。

https://this.kiji.is/433539335054279777


でっち上げの記事で、植村氏の職や家族の安否を追い込んでいながら、その行為を問題なしとする、こういう判決は明らかに政権に忖度したものでしょう。まあ、忖度は安倍政権の得意技ですし、犯罪行為でさえ首相の子飼いということで逃れられるわけですし、安倍首相自身もデマを飛ばし、その事実が認定されながら、その責任から逃れてますからね。


安倍首相がデマ拡散、菅直人に訴えられた名誉毀損裁判で不当判決! 抗議の意味を込め安倍の捏造歴を暴露する!
https://lite-ra.com/2015/12/post-1745.html


現政権として、司法は当然行政(というか、権力者)の意見に従うべきだ、との意識があるのでしょう。自分たちと同じ水準(途方もなく間違った考えですが)で行政と司法の関係を捉えているわけです。つまり、「お前(文大統領)らが、あの判決を出させたんだろ!」ということですね(残念ながら、日本ではメディアでもそうした意見が目立つわけですが)。


つまるところ、今回の件で、安倍政権、というか日本社会は戦争責任問題に無知、鈍感で、三権分立に疎くて司法を行政の追認機関としか捉えておらず、居丈高に振舞えば相手が折れると思っている幼稚な存在だ、ということです。
ひたすらみっともないですね。
では。

*1:かつては、日本でもそういう判決はありましたが