シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

お前を憎んでなどやらない

先日の京アニの痛ましい事件の後に、こんな増田がドヤ顔してました。

 

 

ねぇ、死刑廃止派どうすんの?w
https://anond.hatelabo.jp/20190719044907

33人殺した奴をどうやって擁護すんの?

またドラえもんのせいにでもして、精神病による責任能力のなさを訴える?いいよ、そうしたら精神病患者社会の潜在リスクと訴えて回ってやるよ。

この犯人可能な限り残酷方法死刑にしてやるべきだろ。33人の被害者永遠に失われた未来と、遺族の悲しみを思うと、怒りで髪が逆立つ思いだ。

死刑廃止なんて絶対にあり得ない。こんな野郎税金で何年も生かして置くなんてあり得ない。どうせ金つかうなら、可能な限り残酷死刑にしてやりたい。

 

 

まあ、こんなクソな文章、みっともないので増田で書いたんでしょうけど、こいつの論理はそのまま、京アニ放火犯と同じものでしかありません。自分が気に入らないから、殺してやる、と。しかも、犯人以上にゲスいのは、自分の手を汚す気は無い、ということ。

さて、凶悪犯罪について死刑を叫ぶ連中はいくらも現れますが、当事者らによるこんな話はどう考えるでしょうか?

 

聞いてほしい 心の叫びを ~バス放火事件 被害者の34年~
http://www.nhk.or.jp/special/detail/2014/0228/index.html

1980年8月、発車前のバスにガソリンと火が投げ込まれ爆発・炎上、死者6人重軽傷者14人を出した「新宿西口バス放火事件」。この事件で全身80%に火傷を負いながら奇跡的に命を取り留めたのが、ノンフィクション作家の杉原美津子さん(69歳/名古屋在住)だ。杉原さんは火傷の治療で大量に使われた非加熱製剤によりC型肝炎に感染、後に肝臓がんを発症した。命の期限が迫る中、最後の作品の執筆を開始した。テーマは、過ちに対する「赦し」だ。事件後、杉原さんは被害者でありながら加害者の不遇な生い立ちや、社会から疎外されて凶行へ駆り立てられた経緯を知り、加害者の男を「赦す」感情がおきたことを著書で記した。しかしその後、本当は「赦していなかった」ことに気付く。きっかけは、作品の執筆に当たって原点を見つめ直そうと、事件と同日同刻のバスに初めて乗ったこと。30年余り心の中に眠っていた“被害者感情”が噴き出し、加害者を赦したわけではなかったと悟ったのだ。『なぜ、事件は起きたのか。なぜ、自分は「被害者」となり、男は「加害者」となったのか。』・・・杉原さんは、改めて裁判記録を掘り起こし、過ちが生じた背景を調べ、他の被害者と対話をすることで、「赦し」とは何かを探っている。
無差別殺人事件などの凶悪犯罪が後をたたない中、なぜ現代社会は「加害」の芽を摘み取ることができないのか、そして、被害者はどんなことに苦しみ、どうすれば乗り越えられるのか。番組では、その答えを探し、執筆を続ける杉原さんの心の軌跡を見てゆく。

 

杉原さんは、犯人の死刑を望まない、と発言したことで、酷い中傷にさらされました。被害者は厳罰を、死刑を望むべきであって、そうでは無いのがゆるせない、そういう言葉が盛んに寄せられたそうです。

死刑賛成派は、遺族の、被害者の気持ちを考えろ、的な意見を述べますが、杉原さんのような“被害者”は被害者として受け入れられないようです。

 

また、こんな話もあります。

 

 
ノルウェーの大量殺人テロ事件の犯人は死刑になっていません。増田らにとっては、ノルウェーは“ありえない”社会であるようです。それとも、日本は特殊だから、とでも言いますか?それは、ある意味否定しませんが。
 
私が死刑に反対なのは(今回の犯人に関しても同じです)、死刑は罪の贖いにはなりえないからです。罪の重さを思い知るまでは許しなど与えたくありません。死刑は犯人に言い訳と逃げ場をくれてやるようなものです。
私が一番感銘を受けたのは、パリ同時多発テロにおける、ある遺族の言葉でした。
 
パリ同時多発テロで妻を亡くした男性 テロに勝つために「私は憎まない」
憎悪に怒りで応じれば、今のあなたたちのようになるから。
https://www.huffingtonpost.jp/2015/11/18/husband-of-paris-attack-sends-message_n_8589032.html
 

あなたたちは私に憎しみを抱かせることはできません。
13日の夜、あなたたちは特別な人の命を奪いました ―― 私が生涯をかけて愛する人であり、私の息子の母親です。 しかしあなたたちは私に憎しみを抱かせることはできません。私はあなたたちが何者かを知らないし、知りたいとも思いません。あなたたちは魂を失った人間です。殺人をもいとわないほどにあなたたちが敬っている神が自分の姿に似せて人間を創造したのだとしたら、私の妻の体に打ち込まれた全ての銃弾は、神の心を傷つけたでしょう。
私はあなたたちの願い通りに憎しみを抱いたりはしません。憎悪に怒りで応じれば、今のあなたたちのように無知の犠牲者になるだけです。あなたたちは私が恐れを抱き、同胞に不審な気持ちを持ち、安全に生きるために自由を失うことを望んでいる。あなたたちの負けです。
今朝、私は彼女に会いました。この数日、ずっと待ち望んでいた再会です。金曜日の夜に外出した時と同じように彼女は美しかった。12年前に私を夢中にさせた時と同じように美しかった。もちろん私は痛みに打ちのめされています。その点については、あなたたちは少しは勝利をおさめたのかもしれない。しかし痛みは長くは続きません。彼女はこれからも私たちと共に生き続けます。そして私達は再び自由に愛しあえる楽園で会えるのです。そこは、あなたたちが入れない場所です。
私と息子は二人きりですが世界中のすべての軍隊よりも強い。これ以上あなたたちのために使う時間はありません。メルヴィルが昼寝から目を覚ましたので、彼のところに行きます。彼は生後17カ月。普段通り食事をし、私と遊び、そして幸せで自由な人生を過ごすことで、あなたたちに勝利するでしょう。彼もあなたたちに憎しみ抱くことはありませんから。

 

私は京アニ放火殺人犯を憎んでなどやりません。憎む価値さえもない。名前も呼びません。奪った命のかけがえなさを知るまでは呼ぶに値しない。ひたすら、自らの犯した罪と向き合ってもらいたい。
私が望むことは死刑に比べて“甘い”でしょうか?
では。

 

生きてみたい、もう一度―新宿バス放火事件 (新風舎文庫)

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