シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

時代遅れの原子力 4

このエントリーは


・時代遅れの原子力
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20071211/1197361777


の続きです。


さて、原子力の問題点は前回までの話に留まらない。廃棄物の問題はもちろんだが、原子力自体、持続可能性を持っていないのである。ウラン資源量は現段階で数十年程度しかない。世界で原子力立国など目指せば、すぐに尽きてしまう。古くから原子力は「高速増殖炉」と「核融合」の開発、実現が前提になっている。
核融合については、また別に述べるが、高速増殖炉は実現の可能性があるのだろうか。
高速増殖炉の仕組みは次のようなものだ。
核燃料であるウランの同位元素には大まかにU235とU238がある。U235中性子が衝突すると核分裂を起こし、核燃料として利用される。自然界の存在比率は0.7%でしかない。数十年で尽きる所以である。U238は自然界での存在比率が99%であるが、低速の中性子と衝突しても変化が無い。高速中性子と衝突すると、中性子を吸収して最終的にPt239へと変化する。このPt239は中性子と反応して核分裂を起こす。核兵器ではお馴染みのプルトニウムだが、高速増殖炉はこのウラン−プルトニウム変換を利用しよう、というのである。
高速増殖炉は、中心部に通常のU235の核燃料を置く、そしてその燃料集合体をブランケットと呼ばれるU238(精錬ウラン)の集合体で取り囲むのである。


U235核分裂では中性子が2、3個放出される。その中性子が次のU235を分裂させる、という具合に反応が進むのだが、どんどん反応が続く仕組みを「連鎖反応」という。1つの反応で2、3個の反応を引き起こすのだから、次々と幾何級数的に反応の数は増えていくわけで、素粒子レベルの場合、反応は一瞬にして行われる。これがつまり「原子爆弾」であって、原子炉では放出される中性子が衝突する確率を減らし、核反応1つに対して次の反応が1つ引き起こされるように調整される。この核反応数が増えも減りもしない状態を「臨界」といい*1、原子炉では中性子を吸収するカドミウムを利用した制御棒、そして周囲の冷却水、核燃料棒の配置(密度)によって臨界状態を制御し、定常状態を保っている。
冷却水は中性子の減速に用いられる。核反応によって生じる中性子は速度(=エネルギー)が数MeV*2ある。高速中性子は水分子と衝突し、その速度を減じる。ウラン原子核中性子が衝突する確率は中性子の速度が遅いほど上がるため、中性子を減速することで臨界を調節できるのである。
世界最初の原子炉では中性子の減速に黒鉛を用いていた。世界最初の商業原発コールダーホールも同じである。


そして高速増殖炉の特徴は、「中性子の減速を行わない」事である。U238は高速中性子と衝突吸収するとPt239に変化する。原子炉中心部で発生した高速中性子をブランケットのU238にぶつける事でウラン−プルトニウム変換を行うのだ。核反応が進むほど消費するU235以上にPt239を産み出す原子炉。
高速増殖炉が「夢の原子炉」と呼ばれたのは当然のことだったろう。なにせ、高速増殖炉が実現化すれば利用できる核燃料は100倍以上になるのである。かくて、高速増殖炉には多大な期待が掛けられることになる。


高速増殖炉の問題はその「中性子の減速を行わない」ことにある。かつてTMIやチェルノブイリが生じた時に、原発擁護派がしきりに強調したのが「原子炉自体の制御性」であった。原子炉は制御棒の他、冷却水によって減速を行っているため、制御棒が利かなくなって冷却水が抜けるような事が生じたとしても、減速材でもある冷却水が抜けることで核反応は停止する、というものである。実際にそんな事態が起きれば、核燃料棒は発生する熱で熔けて底に溜まり、熔融燃料中心部では再度核反応が生じると思われるが、一応、冷却水には「原子炉の安全性」を担保する役割が振られているわけだ。
ところが、高速増殖炉では冷却水を利用しない。冷却剤としては中性子を減速しないよう液体金属
(ナトリウムが一般的)が利用されている。なんらかの形で冷却剤が失われる事態が生じたとしても核反応はそこで停まらないのである。逃げ場を失った反応熱はあっという間に核燃料棒を融かしてしまう。熔融して底へ落ちれば臨界状態を容易く突破し、核爆発を生じる可能性さえある。防止策は幾らも考えられるだろうが、最悪の事態は必ず生じる。それが物事の本質である。
原子力工学者がしきりに叫ぶ原子炉自体に備わっている安全性、それが高速増殖炉には無いのである。
その意味では、運転時に賞賛し、事故後には掌を返すように批判したチェルノブイリ原子力発電所のような「黒鉛炉」と同じなのだ。


しかも、冷却材の液体ナトリウムは酸素、水と反応し、爆発的に燃え上がる。腐食性も強く、高熱、高速の液流に配管がどの程度耐えられるか、その危険性は現在の原発の比では無い。
現在の原発でさえ、一次冷却水漏れはしょっちゅう生じるのに、高速増殖炉で生じれば、核爆発の危険性さえある。実験設備としてもありがたくない代物が、果たして商業レベルで、採算の合う形で運転できるものだろうか。しかも、その「高速増殖炉」は、地震に耐えなくてはならないのである。液体ナトリウム漏れは、柏崎刈羽原発のような事態になれば、「若干、漏れました。環境への影響はありません」では済まされない。


現在の原子力政策は、かつて立てられた「核燃料サイクル高速増殖炉によるプルトニウム再生産)」が前提になっている。「もんじゅ」が事故によって停止し、大きな遅れを取り、その安全性が疑問視される中で原子力政策だけが現実に対応していないのである。
原子力は、どこをどう取っても、非合理的で、不経済で、時代遅れな代物である。
では、「高速増殖炉」をひとっ飛びして、「核融合」はどうだろうか?
次は、「核融合」の問題点について述べる事にする。

*1:中性子増倍率を1とする。増倍率が1以下だと反応は収まっていく。1以上だと反応は増加していく

*2:MeVはメブと読み、百万電子ボルトを意味する 1電子ボルトは1Vで電子が得るエネルギーの単位