シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

もう一つの日曜日

「工場封鎖できずアキバを狙った」加藤容疑者

東京・秋葉原の無差別殺傷事件で、殺人未遂容疑で逮捕された派遣社員加藤智大容疑者(25)が警視庁の調べに、トラックを使った勤務先の工場の入り口封鎖計画が実現せず、「(対象を)よく通っていたアキバ(秋葉原)に切り替えた」と供述していることがわかった。リストラされると思い込むなど、仕事への不安や不満が事件のきっかけの一つになったと同庁はみている。
万世橋署捜査本部の調べでは、加藤容疑者は静岡県裾野市の自動車工場で事件3日前の5日朝、「つなぎ(作業着)がない」と怒り、帰宅。加藤容疑者は調べに「リストラのためにつなぎを隠されたと思い、4トントラックで工場入り口を封鎖しようと考えた」と供述。「インターネットで複数のレンタカー会社に申し込んだが、免許証の住所が変更されていないなどの理由でほとんど断られた」と話しているという。
加藤容疑者は7日夕、JR沼津駅前のレンタカー会社営業所を訪れ、8日に2トントラックを借りる予約をした。「3人で引っ越すため、と申し込んだが、(4トンでなく)2トントラックで十分と云われた。これでは封鎖は無理だと思い、犯行場所をアキバに変えた」と話しているという。
一方で加藤容疑者は6日に福井市のミリタリーショップで犯行に使ったダガーナイフなどを購入。こうした行動と供述に矛盾もあるため捜査本部は引き続き経緯を調べる。(後略)
2008,6/16 朝日新聞夕刊

「萌え〜」作業服に目印 車で派遣先封鎖計画 秋葉原殺傷
 東京・秋葉原の無差別殺傷事件は15日で発生から1週間がたった。現場近くでは35年続いていた休日恒例の歩行者天国が、初めて中止となった。警視庁の調べや会社同僚の話、書き込んでいた携帯サイトなどから、加藤智大(ともひろ)容疑者(25)の行動や感情が明らかになってきた。

 殺人未遂容疑で逮捕された加藤容疑者は「リストラされると思い、4トントラックを借りて(勤務先の)工場の入り口を封鎖しようと思ったが、借りられなかったのであきらめた」と警視庁の調べに供述していることがわかった。「リストラのために、わざとつなぎ(作業服)を隠されたと思い、腹が立った」とも話しているという。

 同容疑者が静岡県裾野市の派遣先の工場で使っていたつなぎには、見つけやすいようにと自分で書き込んだとみられる目印があった。

 それは「萌(も)え〜」だった。塗装工程で一緒だった社員によると、目印は、つなぎの左肩部分に小さな文字で書いてあった。「これは何?」と問うと、同容疑者は「結構はまってるんすよ、おれ」とはにかんだという。

 「萌え」は、アニメやゲームファンの間で使う、キャラクターへの恋愛に似た感情を意味する言葉のことだ。

 仕事で着るつなぎは、首の後ろに所属班と名前が書いてあり、工場側が洗濯後、班ごとにラックにつるしていた。

 事件の3日前となる5日午前6時すぎ、早番勤務の加藤容疑者は、更衣室につなぎがないことに気づくと、「ふざけるな。ばかやろう。この会社はどうなっているんだ」と騒いで、壁をけり上げ、職場を早退した。

 工場側や社員によると、つなぎはその後、更衣室内で見つかったという。

 加藤容疑者は逮捕後、このつなぎをめぐる騒動が、「事件のきっかけの一つだった」と供述しており、警視庁は当時の状況を確認する方針。

 ■負の感情、携帯サイトに書き連ね 

 加藤容疑者は、警視庁の調べに、1日に何度も携帯サイトの掲示板に書き込むことが「習慣になっていた」と話したという。その記述には、焦りや孤立感、不満、卑下など、事件の背景とも考えられる負の感情がつづられている。

 加藤容疑者が書いたとされる中で目立つのは、恋人がほしいのに、自分の容姿が悪く、女性に相手にされないことについての書き込みだ。

 掲示板のタイトルも「【友達できない】不細工に人権無し【彼女できない】」。自らを不細工だから彼女はできないとし、「彼女がいない、ただこの一点で人生崩壊」と言い切る。

 「死ぬまで一人 死んでも一人」「一人の食事ほど虚(むな)しいものはない」など、恋人や友達がいない孤立感についても繰り返していた。

 こうした記述を見た人から「顔だけじゃない」などと励ますような書き込みもあったが、次第に、そうした反応もなくなると、「現実でも一人 ネットでも一人」などとすねた。

 職場では、派遣社員を解雇する方針が伝えられていた。加藤容疑者は対象外だったが、掲示板には取り換えのきく労働力として扱われることへの不満をつづった。

 両親をうらむ言葉も激しい。親の満足のために無理やり勉強させられたとしたうえ、「県内トップの進学校に入って、あとはずっとビリ 高校出てから8年、負けっぱなしの人生」と書いた。

http://www.asahi.com/national/update/0616/TKY200806150215.html



なんか、ネットでの記事と新聞本紙の記事に一致点が見えませんが、とりあえず、ネット版の記事は酷い、とだけ云っておきましょう。


さて、私が考えたのは「もし、彼が供述のとおり4トントラックを借りる事が出来たならどうなっていたか」という事です。
私より年配の方々は「ロックアウト」という言葉に聞き覚えがあるかもしれません。工場封鎖。労働争議で利用された戦法です。60年安保など学生運動では学校の封鎖なども行われています。
実際に加藤容疑者が一人ロックアウトを実行していたらどうなっていたでしょうか。
たぶん、工場の警備員にボコにされて放り出されていたでしょうし、マスコミは黙殺かベタ扱いだったでしょう。今回の事件にやたら感情移入する輩も、「痛いヤツ」とか「法律違反だから逮捕されて当然」と突き放したと思います。。
でも、もしかしたら、工場で一緒に働く、そしてやはり馘首の噂に怯える派遣労働者は、仲間として合流したかもしれません。彼は仲間を見出せたかもしれない。彼は自分の抱える問題を顕在化して解決に向けて進める事が出来たかもしれない。もちろん、その場ではボコにされたでしょうし、勤務先や派遣会社は厳かにクビを宣告し、彼の態度に問題があった、と実証して見せたでしょう。
しかし、彼には同じ悩みを抱える仲間を作れる可能性があった。少なくとも“孤独な魂の牢獄”に閉じ込められる事は無かったはずです。
けれど、結局、彼はロックアウトを行うことは出来ず、内面化した不満の向ける先を、やはり弱い立場の人々にぶつけてしまった。


私は前回のエントリーで大阪西成の暴動について述べました。驚いたことに、今現在、西成では警察の暴行容疑によって、人々が集い、警察に対して抗議行動を起こしています。

大阪・西成で3夜連続の暴動 300人終結、警官4人負傷


大阪市西成区の府警西成署前で13日から2夜にわたって労働者ら約200人が投石などを繰り返した騒動で、15日も夕方から労働組合幹部の呼びかけで労働者が集結、投石などを始めた。府警は、騒ぎに便乗して投石した配達員の少年(17)を公務執行妨害の現行犯で逮捕。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080616/crm0806160000000-n1.htm

少なくとも西成に住む人々が加藤容疑者以上に経済的に恵まれているとは言い難い。その中で、しかし、仲間の受けた行為に対し抗議を行う彼らは、自分たちの怒りを持って行く先を誤ってはいないのです。


マスコミ、とりわけTVの扱いが小さいのは、何より彼らの「生きさせろ!」「仲間を殺すな!」と云う叫びがプリミティブなものであり、分断されている貧困者、ワーキングプアを揺り起こし、繋げる力を秘めているからでは無いか、と思います。
既に人口の一割以上にもなる貧困者、非正規雇用者が、問題を「自分の問題だ」と抱え込まず、正当な権利を主張したらどうなるか。それは社会を変える力に成りうる事をマスコミは重々承知している。だからこその扱いなのでしょう。


そうそう、現在、小林多喜二の「蟹工船」が読まれているようですね。

蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

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私から紹介したいのは次の二冊です。

・ジョン・リード 「世界をゆるがした十日間」「反乱するメキシコ」

世界をゆるがした十日間〈上〉 (岩波文庫)

世界をゆるがした十日間〈上〉 (岩波文庫)

世界をゆるがした十日間〈下〉 (岩波文庫)

世界をゆるがした十日間〈下〉 (岩波文庫)

反乱するメキシコ (1982年) (筑摩叢書〈278〉)

反乱するメキシコ (1982年) (筑摩叢書〈278〉)

ジョン・リードはアメリカのジャーナリスト。メキシコ革命ロシア革命を取材、というより現場に飛び込み、“革命”の生の姿を生き生きと捉えています。ウォーレン・ビーティー「レッズ」のモデルともなっている人ですね。“革命”を美化しすぎている、という批判もありますが、当時、虐げられていた人々が何を考え、どう行動したのか、(そしてしくじったのか)知る手掛かりとなると思いますよ。


現在、労働者が雇用者と交渉する際に“当たり前に”利用できる労働三法や労働権。でも、これらは最初からあった権利でも法律でもありません。産業革命以降、身も蓋もなく悪化する労働条件に対しての異議申し立ての成果です。当時、法に基づかず、時には法に違反し、弾圧を受けながらも粘り強く権利を得てきたのです。我々はそれを軽視すべきではない。我々は現在だけでなく、過去にさえも多くの「仲間」を持っています。あなたが「孤独だ」と思う状態でさえ、「過去」の「仲間」に支えられています。おおっぴらに搾取できた時代と違い、一応体面を気にせずには振る舞えず、社会に知れ渡れば罰せられるのは、「過去」の「仲間」のおかげです。逆に、我々は自分自身だけでなく、「現在」や「未来」の「仲間」にも責任があるのです。

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